「彼女のように生きていけたらいっそすがすがしいけれど真似はできないかな」と苦笑する青谷さん。彼女とは、大正時代に女優から新聞記者へ転身し大物議員のスキャンダルをすっぱ抜く一方で、私生活では結婚と離婚を繰り返した恋多き女性・中平文子(1888~1966年)です。
青谷さんが所属する水野五郎教授ゼミでは、未刊行や絶版などで世に出回らずに眠っている本の中から著作権が消滅したものを復刊しています。作品を選定する際、青谷さんの目に留まったのが、中平が自らの半生をつづった「女のくせに」でした。意のままに生きた彼女は自分と正反対でかえって興味が湧き、作品をより多くの人に知ってもらおうと復刊へ乗り出しました。
原本としたのは、国立国会図書館にあるスキャンデータです。文字起こしソフトを使用してもうまく読み取れず、Wordを使って自らの手で全て書き起こしました。最も注意したのは「同一性保持権」です。著作物を勝手に改変することを禁ずるもので、原則、原文を一字一句そのまま再現しなければなりません。明らかな誤植は修正することができますが「これは本当に誤植なのか」と悩んだり、旧字体が読めずに困ったりしたこともありました。214ページに及ぶ原稿の校正作業では、チェックするたびに誤りを見つけて途方に暮れましたが、「製本後にミスが見つかるくらいなら」と校了直前には12時間以上も原稿とにらめっこしました。1つのミスもない完璧な状態で世に送り出すことが「作品をカタチにすることへの責任」だと思っているからです。製本後は大阪市内にある「水野ゼミの本屋」で販売し、神戸や愛媛の書店などから注文を受けるなど評判は上々で、マスコミにも取り上げられました。
現在は、府内の高校生と連携し、取り札に文豪の似顔絵を、読み札にその文豪の名文を記した「文豪かるた」を制作、発売。ここでも原文を一字一句そのまま再現することに心を砕きました。エビデンスとなる本やデータをたどるのは手間暇がかかりますが「それが著者へ敬意を払うことにつながる」と話す青谷さん。著作権への高い意識を持ち、埋もれた作品に光を当てる姿がキラリ輝いています。