広瀬さんが高校3年の時、身内が脳梗塞になり、後遺症として失語症や高次脳機能障害が残りました。その後の失語症のリハビリで「言語聴覚士」という専門職を知り、「自分が言語聴覚士になれば、身内のリハビリに力添えができるのではないか」と考えました。資格を取ることのできる大学を探し、広島国際大に入学。現在は、摂食嚥下リハビリテーションを専門とする福岡達之准教授の元で学んでいます。
福岡ゼミでは、「吹き戻し」を活用して嚥下機能を向上させる商品を企業と共同開発しています。吹き戻しとは息を吹き込むと紙製の筒が伸び、吹き口から口を離すと筒が巻き戻る笛のおもちゃです。リハビリは患者さんにとって苦痛を伴うこともあるので、ゲームの要素を加えることで楽しみながらトレーニングでき、新しい医療の形になるのではないかと思いました。
開発では、ゼミ生が2チームに分かれ、吹き戻しとゲームをどのように連動させるかを考案しました。広瀬さんのチームは迷路や音楽に焦点を当て、リズムに合わせてさまざまな吹き方を考えました。吹き戻しを一定のリズムで吹いたり、強く吹いた状態で息を止めたりします。異なる吹き方をすることで、あご周辺の筋肉が鍛えられ、リハビリにつながります。
吹き戻しが嚥下機能のトレーニングにつながることは近年注目されてきましたが、ゲームと融合させた商品の開発は新たな視点です。前例がないことから迷うことの連続でしたが、仲間とさまざまなゲームを実践して、どのようなゲームにすれば吹き戻しと連動させられるか試行錯誤を繰り返しました。考えたアイデアを2チームで6つに絞って企業にプレゼンテーションし、最終的にはその中から2つが採用され、商品化されました。発売は10月頃を予定しています。「多くの人の手に取ってもらい、リハビリを楽しみながら嚥下機能を向上させてほしいです」
この4年間、言語聴覚士になるという思いを胸に、座学と臨床現場実習に取り組んできました。今回の共同開発から、これまでに学んだ知識を生かして社会の役に立つことができるという自信につながりました。「将来の夢は、患者さんはもちろん、後遺症に戸惑う家族も支えられる言語聴覚士になることです」。多くの人に安心を届けたいという思いがキラリ輝いています。