File No.34

34の視点

全インタビューを振り返る
オリンピック、パラリンピックを深く考え、広く楽しんだ

FLOW No.94

34の視点

東京オリンピック・パラリンピックは新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックで1年延期され、ようやく本番を迎えました。FLOWで2013年11月から始まったインタビュー企画2020東京五輪×「Team常翔」は92号で34回を数えました。足掛け9年にわたってオリンピックやパラリンピックにさまざまな角度から光を当て、インタビューをした学園関係者は計40人です。オリンピックとパラリンピックを多彩に、深く掘り下げたFLOW流の34の視点です。今号では主なテーマを振り返ります。なお、オリンピックの男子ラグビー(7人制)に本誌に登場した常翔学園高ラグビー部出身の松井千士さん(キヤノン)と石田吉平さん(明治大3年)の2人が日本代表として出場しました。このほか摂南大の横山喬之講師(80号紹介)が日本武道館での柔道男子予選後、「形」を披露するなど嬉しいニュースもありました。これらの活躍はFLOWで続報予定です。

不測の事態

過去の感染症流行では人口の激減など社会構造が変わり、歴史が動いたことが何度もあります=88号・高松宏治摂南大薬学科教授

一昨年末からの新型コロナウイルスの感染拡大は、東京オリンピック・パラリンピックを延期に追い込み、まさに歴史を動かしました。しかし、ほとんどの人が予測していなかった事態でした。74号の「五輪の経済効果」で郭進摂南大経済学科准教授が語った「予想外」のことが起きたのです。

(五輪の経済効果は)長い期間であれば、予想自体が難しくなり、予想外のことの起こる確率も高くなり、試算も難しくなります

全ての経済効果試算がこの騒動で狂ったことでしょう。予想外と言えば、過去3回のオリンピックを中止させたのは全て戦争でした。今回の事態もある意味では「ウイルスとの戦争」です。「五輪が平和を考える契機」と指摘したのは77号・川田進大阪工大総合人間学系教室教授

古代オリンピックは……1カ月から3カ月の開催期間は「聖なる休戦期間」として紛争・戦争をしていてもそれを中断したのです

ウイルスとの戦争ばかりは中断できないのが想定外の悩ましさです。

公平さへの疑問

マラソンの厚底シューズ問題でもクローズアップされたのがスポーツの公平性です。ドーピングは違反が国家ぐるみのこともある深刻な問題です。

(ドーピングは)禁止されていても、世界のトップ級アスリートの中で年間3000人以上の違反者がいると言われています=75号・中村友浩大阪工大総合人間学系教室教授

年々ドーピング手法が巧妙になっていると指摘する92号・中原和秀摂南大薬学科講師は、

全ての検体(尿や血液)は最大10年間保管されます。科学技術の発展で、検出できていなかった禁止物質が将来検出できた場合、さかのぼって記録の失効、アンチ・ドーピング規則違反による制裁が課されます

と科学の進歩が違反の抑止にもつながると期待します。

女子選手の抱える問題はトップアスリートからも声が上がるようになってきました。

どんな大会でも、女子の出場選手の約4人に1人は月経中ということになり、月経前の諸症状を抱えている選手を加えると半数近くの選手が少なからず月経にまつわる影響を受けている=76号・藤林真美摂南大スポーツ振興センター准教授(当時)

パラリンピックでも公平性の問題があります。

世界大会級のパラリンピックとはいえ、開発途上国から参加する選手の義足や車いすはとてもひどい状態です。先進国の選手が使っているようなきちんとしたものはほんの一部です。……スタート時点で既に大きな格差があるのです=66号・月城慶一広島国際大リハビリテーション支援学科教授(当時)

社会変革の契機

少しネガティブな側面が続きましたが、もちろんオリンピック、パラリンピックは社会を明るい方向に進める力にもなります。特にパラリンピックは障害者や弱者に配慮した「インクルーシブ」な社会の実現に大きな役割を果たしています。

(1964年の)東京パラリンピックを開くかどうかはすんなり決まったわけではありません。「障がい者に人前でスポーツをさせていいのか」と否定的に見る社会的風潮もあり、行政機関が懸念したのです=70号・崎田嘉寛広島国際大住環境デザイン学科講師(当時)

社会の意識を変えるだけでなく、社会環境を変える契機にもなっています。

都市インフラの整備が最優先だった前回大会から半世紀以上を経て、日本の街づくりや都市計画のコンセプト自体が大きく変わっています。バリアフリーなどの人への優しさや良好な景観が「街の仕掛け」として見直され、都市計画の重要な要素になっています=85号・福島徹摂南大都市環境工学科教授

ただ世界的に評判の日本のおもてなしですが、まだまだ足りない点があるとの指摘も。

(東京五輪で)気になるのはLGBT(性的少数者)や障害者への対応です。……LGBT対応の「どなた様もご自由にご利用下さい」と表示された男女別ではない公衆トイレはもっと必要です=87号・野村佳子摂南大経済学科教授

オリンピックとパラリンピックをきっかけに世界の常識になったものも少なくありません。あのトイレのマークがそうだったとは驚きでした。

1964年の東京オリンピックから大会シンボルマーク(エンブレム)や競技、施設のピクトグラムの使用が始まりました。その時の男女別のトイレのマークはデザイナーたちが著作権を放棄したこともあり、今や全世界で使われています=68号・大塚理彦大阪工大大学院知的財産研究科教授

これからの常識になりそうなのが5G(第5世代移動通信システム)です。

競技場での4Kや8Kの超高精細映像配信が可能となり、数万人の観客のそれぞれの端末に同時に何種類もの映像を送ることができます=83号・村川一雄大阪工大大学院知的財産研究科教授

5Gはセキュリティー技術にも革命をもたらしそうです。

競技の意外な魅力

さまざまな競技についても現役選手や経験者ならではの視点も得られました。まずは自転車ロードレースから。

面白いのは、自転車競技には人間性が表れることですね。風をよけながら走らなくてはならないので、集団の中で風を受ける役目を順番に担うことになるのですが、……風をよけてばかりの利己的な人は、たとえ勝者になっても、同じレースで戦った人たちに評価してもらえないのです=58号・阿部良之さん

50歳を過ぎてトライアスロンを始めた鉄人の言葉は、

トライアスロンは3種目で主に使う筋肉が違います。マラソンを長くやると足を痛めたりしますが、トライアスロンはバランスよく体を使うので、むしろ長く続けられて高齢者向き=84号・山路博文広島国際大リハビリテーション学科教授

近年、人気スポーツになったのがスポーツクライミングです。

頭を使ってルートを読んでいるうちに、子供たちの集中力が養われるとも言われています。自然の岩場を相手にする時は命懸けですから、集中せざるを得ません。もともとそういう競技なのです=73号・林照茂さん

日本が世界をリードする競技になってきた競歩界の先駆けからは、

普通の人が1㎞を5分で走り続けるのは大変です。競歩の面白さは、それよりも速く「歩いている」ということ=65号・森川嘉男さん

最後は学園内の期待の中高生アスリートたちが自分の競技について話してくれました。

飛び込み競技の魅力は、…水しぶきが少ないことや、入水の角度やその美しさ、ひねりや回転などの技術で観客を魅了すること=81号・井戸畑和馬さん

▶背泳ぎは…きれいな泳ぎをする人が速い=同・奈須一樹さん

▶バレーボールは、…ボールを拾ってつないで…みんなで喜べるというのが一番の魅力です=同・酒井優英さん

▶ラグビーの魅力は…自分が倒れてもボールをつないでトライまで持っていくことです=同・石田吉平さん

スポーツの価値を見直す

日本は、根本に「遊び」や「楽しみ」があったスポーツの歴史や人生を豊かにする価値を問うことをおろそかにしたため、…「精神主義」や、…「勝利至上主義」のような偏った方向に進み…=89号・服部宏治広島国際大健康スポーツ学科教授

世界中でスポーツが止まってしまったスポーツの危機を目の当たりにして、多くの人々がその本来の価値に向き合うことにもなりました。

東京五輪 x 「Team常翔」