杢野 正明さん

JAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構) 第一宇宙技術部門衛星システム開発統括付 技術領域上席

ゼロから始めて宇宙へ
ダイナミックな人工衛星開発

Graduate Voice 活躍する卒業生

FLOW No.83

Profile
もくの・まさあき
1983年啓光学園高校(現:常翔啓光学園高校)卒。1990年に大阪大学大学院工学研究科修士課程を修了し、同年JAXAの前身のNASDA(宇宙開発事業団)に入職。2013年第一宇宙技術部門GCOMプロジェクトチームプロジェクトマネジャー。2019年1月から現職。博士(システムエンジニアリング学)。大阪府出身。

啓光学園高(現:常翔啓光学園高)卒業生の杢野さんは、日本の宇宙開発を担うJAXAで一貫して人工衛星開発にかかわてきたスペシャリストです。30年で4つの人工衛星プロジェクトに参加。2013年からはGCOM(地球環境変動観測ミッション)のプロジェクトマネジャーとして人工衛星「しきさい」のチームをまとめ、宇宙から地球の気候変動を長期観測し地球温暖化の正確な予測に貢献するという重要な任務を軌道に乗せました。

小学6年からアマチュア無線が好きで理系少年だった杢野さんですが、宇宙開発に興味を持ったのは高校時代にテレビで種子島宇宙センターでのロケット打ち上げを見てからでした。大学院在学中に国家公務員試験に合格し資料を見ていた時に、JAXAの前身だったNASDA(宇宙開発事業団)を見つけ、「きっと大きなプロジェクトができるはず」と志望し採用されました。

最初に人工衛星が厳しい打ち上げや軌道上環境に耐えられるかの試験をする部署に配属された杢野さんはその後、技術試験衛星VⅠⅠ型「きく7号」、光衛星間通信実験衛星「きらり」、水循環変動観測衛星「しずく」、気候変動観測衛星「しきさい」の4つの人工衛星プロジェクトにかかわりました。「1つのプロジェクトで5年から10年続きます。最初は何もないところからミッションを設定し、衛星の設計、製造、試験、打ち上げ、運用、観測データの収集・分析、というのが主な流れですが、ゼロだったものが最後は宇宙に飛び出して行くというダイナミックさがこの仕事の最大の醍醐味です」と話します。

「しきさい」の30分の1サイズの模型を手に

2013年からは「しきさい」のプロジェクトマネジャーとして約15人のメンバーを統括。メンバーだけでなく協力企業など外部関係者を含めて100人以上の関係者とのコミュニケーションが、プロジェクトマネジャーの仕事の半分を占めると言います。「1つのミスも許されないので、問題が見つかればとことん追究し妥協しない姿勢が大事です。衛星が宇宙に出てしまうと修理することは不可能だからです」とプロジェクトの難しさも話します。その「しきさい」は2017年12月23日に種子島宇宙センターからH-ⅡAロケット37号機に載せられて打ち上げに成功。19種類の波長を識別するセンサーを搭載し、雲や大気中のちり・微粒子の量、植生、海の色、雪氷などを観測し、地球温暖化予測に貢献するためのデータを送り続けています。「昨年の元旦に『しきさい』が初めて送ってきたデータを画像化したのが、ピンク色の初日の出を浴びるロシアの美しいカムチャツカ半島でした。本当に見事な画像で、『これは使える!』と確信した瞬間でした」と振り返ります。

杢野さんの専門は電気ですが、人工衛星はあらゆる分野の最先端技術が詰まっており、宇宙工学を始め機械や化学など専門以外の幅広い勉強も必要でした。それだけに後輩たちには「勉強していて『これが何に役に立つのか』と思うこともあるかもしれませんが、将来、何がどこで役に立つか分かりません。私は今でももっと勉強しておけば良かったと思います。何にでも興味を持って取り組んでほしいです」とエールを送ってくれました。

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