常翔啓光学園高2年

渋谷 優斗さん、西川 泰生さん

摂南大学 農学部 食品栄養学科

吉井 英文 教授

Q. 粉状の食品はどのように製造しているの?
A. 食品に含まれる水分を飛ばしています。

FLOW No.105

3大学2中高を設置する本学園のスケールメリットを生かして、高校生が日ごろふと抱く疑問を大学の先生に答えてもらう「教えて先生」。今回は、常翔啓光学園高2年の渋谷優斗さんと西川泰生さんが、摂南大農学部食品栄養学科の吉井英文教授に尋ねました。

昇華利用する凍結乾燥 細かい霧作る噴霧乾燥

渋谷、西川:インスタントコーヒーやカップスープ、プロテインなど、粉状の食品は身近にありますが、どのように製造しているのでしょうか?

吉井:簡単に言えば、食品に含まれている水分を飛ばして作っています。
 インスタントコーヒーを例に説明しましょう。今日は2種類用意しました。粗い粒々が凍結乾燥(フリーズドライ)、サラサラの粉は噴霧乾燥(スプレードライ)という製法で作ったものです。原料となるコーヒー液は、コーヒー豆を焙煎して砕き、熱湯を注いで抽出した後、でんぷん成分を入れて作っています。
 凍結乾燥では、このコーヒー液をマイナス40℃ぐらいで凍らせます。凍ったら細かく砕いてから真空状態に置きます。すると、氷の結晶部分が水蒸気に変化して、乾燥したものが粉になります。粉を電子顕微鏡で撮影したものが(写真1)です。氷の結晶のあったところが細かい穴になっているのが分かりますか。


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(写真1)凍結乾燥で製造されたコーヒー粉末の電子顕微鏡写真


 中学の理科で物質の状態変化を学習していますね。固体が液体になる「融解」、液体が気体になる「蒸発」、固体から気体になるのが「昇華」です(図)。水は0℃で氷になり、100℃で沸騰して水蒸気に変化します。しかし、気圧が下がると沸点が下がるので、真空状態では氷が水にならずに直接水蒸気に変化します。この昇華を利用したのが凍結乾燥です。
 続いて噴霧乾燥の製法を説明しましょう。噴霧乾燥機というサイロのような機械を使います(写真に写っている水色の機械)。中には回転する円盤型ノズルがあります。液体を数十から数百μm(マイクロメートル=1μm は1mm の1000分の1)という細かい霧にしてノズルから噴出させ、高温の熱風で一気に乾燥させます。瞬間的に水分が蒸発するので、サラサラとした細かい粉末のコーヒーができます。

製造に向かない糖分高い食品

渋谷:凍結乾燥と噴霧乾燥でどんな違いがありますか?

吉井:凍結乾燥は凍らせたり真空にしたりと、エネルギーをたくさん使うので費用がかさみます。コーヒーなら少し高価格帯の商品になりますが、低い温度で処理できるので香り高い製品ができます。ただし、粉には小さな穴がたくさん開いているので、風味が落ちるのは早いです。品質の良いうちに飲み切れる量を考えてか、凍結乾燥のコーヒーは小ぶりの瓶に入っています。
 噴霧乾燥の粉は電子顕微鏡で見ると球形で中が空洞(写真2)になっています。高い熱で処理しているので香りは凍結乾燥より劣ります。食品製造はコストを抑えたいので、噴霧乾燥で作られているものが多いです。凍結乾燥は主に薬品製造に使われています。


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(写真2)噴霧乾燥法で製造されたコーヒー粉末の電子顕微鏡写真


西川:凍結乾燥のコーヒーは5㎜ほどのかけらですが、こんな大きさでも粉ですか? どれくらいの大きさまでを粉と言いますか?

吉井:凍結乾燥のコーヒーは粉砕して作るので5㎜ほどありますが、粉の状態です。ただし、食品粉末の一般的な大きさは、通常数十から数百μmと、大きいものでも1 ㎜未満です。

西川:粉にできない食品もありますか?

吉井:トマトなど糖分の高い食品はベトベトくっつくので、粉に加工するのは難しいです。オリゴ糖やハチミツも単独では粉にすることができません。

西川:ラグビーをしているので、体づくりのためにプロテインを飲んでいます。粉を溶かすのがうまくいく時とそうでない時があります。

吉井:プロテインの粉を水に一気に溶かすのは難しいです。コップに粉を入れて、ゆっくりと水をなじませるように溶かしましょう。水を入れてから粉を入れたり、粉に大量の水を入れたりすると、粉の表面に皮が張り、溶けづらくなります。また、プロテインは湿気やすいので、開封してから時間がたつと表面に皮が張って溶けづらくなります。

渋谷:粉の利点はなんですか?

吉井:乾燥させるので食品の品質変化を防ぎ、保存性を高めることができます。可食性や可溶性、成分の安定性を高め、運搬や加工も容易にします。

渋谷:今も新たな粉の研究に取り組んでいるのですか?

吉井:粉の品質向上ではまだまだできることがあります。例えば、高温で加工する噴霧乾燥で粉末中の香りを飛びにくくする方法や、高温多湿でも劣化しづらいものを考えたりしています。香りの粉を利用すれば、高齢者の減塩にも役立ちます。粉はさまざまな可能性を秘めていて、興味は尽きません。

(図)物質の状態変化
インスタントコーヒーの粉。左から凍結乾燥、噴霧乾燥
吉井 英文教授
Profile

吉井 英文(よしい・ひでふみ)教授

摂南大学 農学部 食品栄養学科

1978年東京農工大学工学部化学工学科卒。1980年京都大学大学院工学研究科化学工学専攻修士課程修了。1983年同博士課程単位取得退学。香川大学大学院農学研究科教授などを経て、2020年から現職。奈良県出身。

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