3大学2中高を設置する本学園のスケールメリットを生かして、高校生が大学の先生から学ぶ「教えて先生」。来年1月が阪神・淡路大震災から30年、能登半島地震から1年となることから、今回は「災害に強い社会」をテーマに、常翔学園高2年の河村悠誠さんと辻脇優さんが大阪工大八幡工学実験場を訪れ、都市デザイン工学科の大山理教授から安全な橋造りについて教わりました。
土木・建築の材料や構造実験に設備整う西日本最大級施設
大山:八幡工学実験場にようこそ。ここは土木・建築構造物の材料試験や構造実験ができる設備が整う西日本最大級の施設です。学内はもちろん、他大学や官公庁、産業界と連携した共同研究や委託研究にも取り組んでいます。都市デザイン工学科の橋梁工学研究室では鋼とコンクリートを組み合わせた新しい橋の開発に取り組んでいて、実物大モデルで実験を行っています。
ところで、構造物を造る仕事には土木と建築があります。「土木」と聞いてどんなことを思い浮かべますか?
河村:建築の前段階というイメージです。
辻脇:建物の基礎を造ることだと思います。
大山:なるほど、そう感じるのですね。しかし、土木と建築は、どちらも計画から設計、そして、施工、メンテナンスまで手掛けます。土木が造るのは道路や橋、トンネルなど不特定多数の人が利用する施設や設備で、建築は個人の家や建物(ビル)という違いがあります。
土木は人々の生活を支えています。明石海峡大橋を例に説明しましょう。橋がない時代は、本州から四国へ車で行くには、フェリーや一般道を使って最短でも270分かかりました。橋が架かってからは100分です。急病人を迅速に搬送でき、観光客も訪れやすくなりました。橋は人や車、電車に加え、水道管や電線も通りライフラインの確保にもつながります。
土木の構造物は完成したらおしまいではありません。そこから1日24時間、1年365日、人や車が利用するようになり、継続したメンテナンスが欠かせなくなります。現在、日本の土木構造物は基本的に100年近い耐久性を目指して設計、施工されています。日本は国土の7割が山で、火山活動や地震も多く、季節によって激しい雨や雪にも見舞われます。更に、昨今は自然災害も激甚化しているので、さまざまな負荷を想定した実験を経て、強い構造物を造っています。
さて、今日は3種類の橋の模型を使って、構造による強度の違いを体感してもらいます。いずれも幅27cm×長さ178cm、厚さ1.5 cmの板3枚を使っています。緑は3枚を重ねただけ。青は3枚を接着剤でぴったりくっつけたもの。オレンジは1枚の板を縦に4等分して、2枚の間に挟んでいます(図1)。順番に渡って、感想を聞かせてください。
河村:緑は大きく揺れて怖いです。
辻脇:オレンジは頑丈で、ジャンプしても揺れません。青もしっかりしていました。
構造は高くすれば曲がりにくく強くできる
大山:揺れの違いについて、ものさしを使って説明しましょう。横向きにして両側から力をかけると容易に曲げられますが、縦向きにして力をかけてもびくともしません(図2)。この原理と同じで、オレンジは構造の高さを高くすることで曲がりにくく、強くなっているのです。しかし、高過ぎても工場から現場まで運べなくなるので、ほどよい高さにする必要があり、それが設計です。
3枚の板を接着した青い橋は、繰り返し使っているとどうなると思いますか?
辻脇:接着部分が劣化します。
河村:ずれ動くようになります。
大山:そうですね。本当の橋なら事故につながります。2人に渡ってもらった橋は、橋脚の上に桁を架けた「桁橋」です。橋としては最もシンプルな形状です。高速道路の高架橋も桁橋が多いです。強い構造にするため、鋼の桁にずれ止めを設けてコンクリートの床(床版)と接合しています。
辻脇:強い橋にするため、構造を工夫するのですね。
河村:開発に向けて、どんな実験をするのですか?
大山:では、実験場の設備を見ながら説明しましょう。今日は3つの装置を紹介します。
まずは「繰り返し載荷試験装置」です。試験体に対して例えば10トンの負荷を繰り返しかけることで、安定性や耐久性を調べることができます。
次に「自走式輪荷重移動載荷装置」です。 大型車両や航空機のタイヤを取り付けた車輪を油圧モーターで繰り返し走行させ、道路での車の走行や滑走路での飛行機の着陸時を再現し、路面へのひび割れ発生状況を調べています。関西国際空港の滑走路も、この装置での実験結果が生かされました。
最後に「耐火実験棟」です。5分間で最高1200℃まで加熱可能な炉があります。例えば橋の下でタンクローリーの火災が起きると、1000℃を超える熱にさらされます。火災事故が起きた時のコンクリート内部や、先ほど説明したずれ止めの変化などを調べています。
河村:実験では、どういう結果が出たら良いと判断するのですか?
大山:例えば、自走式輪荷重移動載荷装置では、200万回動かして損傷しなければ実用化に向けて大丈夫という判断をします。
辻脇:実験では何が大変ですか?
大山:荷重をかけるなどの実験ではなく、前段階の準備が最も大変です。わずかでも構造が傾いた状態で実験をすると、その傾いた側に力が集中して予期せぬ壊れ方をしてしまうからです。土木は巨大な構造物を造りますが、計画通りの強度や耐久性を維持するには高い精度が求められます。例えば、明石海峡大橋の主塔の高さは300mありますが、傾きの誤差は3.0cm と、1万分の1の精度で架設されています。
最近はコンピューターを使った解析技術も進んできましたが、実験しなければ分からないことも多くあります。実験場は十分な広さを確保しているので、実寸大のモデルを使って実験し、実際の条件に近いデータを得ることができます。このデータが社会のさまざまな土木技術に生かされ、市民の安全で便利な暮らしに貢献できていることに誇りを感じています。





