3大学2中高を設置する本学園のスケールメリットを生かして、高校生が日ごろふと抱く疑問を大学の先生に答えてもらう「教えて先生」。今回のテーマは「睡眠」です。常翔啓光学園高2年の大西結佳さんと森兼菜緒さんが広島国際大心理学科の田中秀樹教授に尋ねました。
体温を下げて眠りの準備
森兼:睡眠について調べたことがありますが、分からないことがたくさんあります。
大西:眠る前にスマートフォン(スマホ)を見るのは良くないと聞きますが本当ですか?
田中:私の専門領域は睡眠学です。良い眠りを学んでもらうため、きょうは〇×クイズ(表1)で説明しましょう。最初の質問は「良い寝つきには体温が下がることが大切?」です。
大西・森兼:×です。
田中:正解は〇。良い寝つきには体温がスムーズに下がること、脳が興奮していないことが大切です(図1)。眠たくなると手足が温かくなるのは、体温を下げるために手足から熱放散しているからです。わくわくすることや推しのことを考えたり、悩みにとらわれたりしていると脳がリラックスできません。夜遅くに激しい運動をすれば体温が上がり寝つけなくなります。
夜になると眠りを安定させるホルモン「メラトニン」が脳内に分泌され、眠くなります。先ほど眠る前のスマホについて質問が出ました。明るい光は脳を興奮させ、メラトニンを出にくくするので、寝つきの妨げになります。眠る1時間前からスマホは見ないようにしましょう。では、次の問題。「朝起きてすぐカーテンを開けない方が良い?」
森兼:×。明るくした方がいいと思います。
田中:そうですね。毎朝、同じ時間に起きて太陽の光を浴びましょう。理由は、体内時計は約25時間で動いているので、1日24時間との1時間のずれを修正するためです。光を浴びて脳時計を、朝食を食べて腹時計を調整すると体のリズムが整います。
平日と休日の起床時間の差は2時間以内に
田中:3問目。「休日は午後まで眠るのが良い?」
大西:×です。
田中:でも、やってる人?
大西・森兼:はーい。
田中:「寝だめ」はダメです。体内時計がずれます。平日と休日の起床時間の差は2時間以内にしましょう。寝不足でも平日と同じような時間に一度起き、太陽の光を浴びて朝食を取ることが大切です。その後、眠ければ昼寝をしましょう。
大西:昼寝は何時間までですか?
田中:理想は15分。とても疲れている時なら90分。理由は睡眠の深さが90分周期で変化しているからです。最初の15分までは浅く、そこから60分まで深くなり、その後90分にかけて浅くなります。では、「帰宅後、夕方眠くなったら寝た方が良い?」はどう考えますか?
森兼:×です。でも、帰宅後眠くなります。
大西:私も寝てしまいます。
田中:夕方の居眠りは睡眠の質を落とします。日中しっかり活動していると、脳の中に眠るためのエネルギーがたまります(図2)。良い眠りには、就寝前に睡眠時間と同じ時間だけ起き続けておくことが大切です。例えば、「23時に就寝して8時間ぐっすり眠りたい」時は、23時の8時間前の15時以降は昼寝や仮眠をしてはいけません。一方、昼食後など早い時間帯の軽い昼寝(10~15分)は脳の疲労や眠気解消に効果的です。
では、最後の問題です。「眠る前はコンビニなど、明るい所には行かない方が良い?」
森兼:〇です。光が刺激になり、脳が起きてしまいます。
大西:〇です。メラトニンが出にくくなります。
田中:正解です。眠る1時間前から部屋の明かりは暖色や間接照明にして、明るさを控えるといいですね。
中高生の推奨睡眠時間は8~10時間、最低でも7時間確保を
田中:睡眠は最初の3時間に深い眠りが集中します。成長ホルモンが出て、細胞の再生や修復、免疫向上に関係します。後半になると夢を見るレム睡眠が多くなり、記憶の整理をしています。
睡眠は脳をしっかり休める役割があります。不足するとイライラや集中力の低下、記憶や学習能力の低下などにつながります。推奨される睡眠時間の目安は、中学・高校生では8~10時間です(厚生労働省:健康づくりのための睡眠ガイド 2023)。最低でも7時間を確保するように留意しましょう。
では質問。午前0時まで勉強する人と、午前3時まで頑張る人がいます。どちらがいい成績になると思いますか?
大西・森兼:午前0時ですか?
田中:正解です。広島県内の高校生500人を対象に学業成績と就床時刻について調査したところ、午前0時までに寝床に入ったグループが最も成績が高く、遅くなるほど下がるという傾向がみられました(図3)。理由は、眠っている間に記憶が整理されるからです。試験前は午前0時には就寝し、翌朝少し早く起きて見直しましょう。
今日のおさらいに「生活リズム健康法」(表2)をチェックしてください。できていることに〇、できていないけれど頑張れそうなことに△、できそうにないことには×をつけます。△の中から一つを目標にして、2週間続けることから始めてみましょう。△がない時はどうしたらいいと思いますか?
大西・森兼: 〇を維持する!
田中:すばらしい。良い眠りは脳と心の栄養です。ぜひ今回学んだことを日常に取り入れ、これからも睡眠を大切にしてください。