■ 日本代表選手団テコンドー競技監督
メディアを騒がせたテコンドー協会の内紛が理事や強化体制の刷新などで終息した2020年始め、山下課長は協会の強化委員長を要請されました。ナショナルコーチも兼任し東京オリンピックの監督を担う重責です。「オリンピック開幕まで半年しかなかったほかに、仕事や家族のこともあり悩みました」と当時の気持ちを明かします。それでも要請を受けたのは「山下さんになってほしい」という選手たちの声に心を動かされたからでした。
東京での単身赴任生活が始まりました。就任直後にオリンピックの1年延期が決まりましたが、時間ができたと喜ぶ余裕はありませんでした。「まず内定選手の再選考はしないと決定すると同時に男女4人の選手の現状分析をし、課題であるフィジカル面の強化に取り組みました」と振り返ります。更に最も神経を使ったのがコロナ対策でした。7月に強化合宿を始動。当初予定の4カ月遅れでのスタートでした。最初は対面での練習や蹴りを放つ際の気合の声さえも禁止に。練習が終わっても全員の行動記録などに関わる多くの事務仕事が待っていました。また強化委員長としては、全国のシニア・ジュニア・カデット選手等の中長期的な強化計画の立案及び事業計画の作成等も担うため休みもなかなか取れず、感染を警戒して大阪に帰ることもままなりませんでした。「一瞬たりとも気が抜けなかった」という1年半でした。

試合前に女子57キロ級の濱田真由選手(左)を指導
オリンピックでの目標は「メダル1、入賞1」でしたが、結果は女子49キロ級・山田美諭選手の5位入賞が最高でした。「選手は健闘しましたが、新型コロナで2年近く国際試合に出場できず、実践経験を積めなかったのが響きました。無観客開催でホスト国の“地の利” も十分に生かせませんでした」と分析。「世界はカデット・ジュニア期からの長期的な選手育成がなされており、日本のテコンドー界も世界で活躍する選手を育成するには、中長期計画に基づいた強化体制の構築が必要と考えます」と話します。
