- Profile
- にいや・きよか 2000年福岡大学商学部第二部商学科卒。2005年福岡教育大学大学院教育学研究科修士課程学校教育専攻修了。2008年福岡大学大学院人文科学研究科博士課程後期教育・臨床心理専攻単位取得退学。大阪医科大学附属病院、福岡大学筑紫病院で看護師として勤め、2003年福岡県立大学看護学部助手。2006年広島国際大学看護学部看護学科講師、2013年から現職。看護師、救急救命士。博士(教育学)。福岡県出身。
看護師が患者とコミュニケーションを取ることは、信頼関係の形成に欠かせない重要なスキルです。そのため、看護学科では1年生からコミュニケーションスキルを学びます。しかし、対面で話すことが難しいと感じる学生が増えてきて、うまくできずに自信をなくしてしまうことがありました。
苦手意識を和らげる方法を模索し、たどりついたのが「先輩・後輩間のピアラーニング」です。同じような立場の仲間(ピア)が共に支え合い、共に関わりを持ちながら知識やスキルを身につけていく教育手法です。
具体的な進め方としては、1年生3人と先輩学生1人(2年生または4年生)でグループを作り、患者と看護師のロールプレイをします。教育効果を明らかにするため、感じたことや考えたことを自由に記述するレポートを提出してもらい、ヴィゴツキー※理論を基軸にコミュニケーションスキルを身につける過程を探りました。述語に注目しながら文脈を抽出して文章をコード化。研究者5人で繰り返し読んで分析し、意味や内容の類似性や相違性を比較しました。
その結果、以下の3点を明らかにすることができました。
①「できなかった」という【経験】や、「難しい」「自信がない」などの【感情】、先輩と自分との【違い】といった3要素を言語化して「自己を捉え直す省察(振り返り)能力」が育っていた。
②年齢の近い先輩学生に教わることで「あこがれ」の気持ちが看護への接点となり、「看護職に必要な行動様式」や「将来像や目標」といった思考に発展させていた。
③「自己を捉え直す省察能力」が「看護職に必要な行動様式」や「将来像や目標」と結び付くことで思考を拡張させていた。
2019年から始めた研究を翌年の日本看護学教育学会で発表すると注目を集め、2025年には同学会の学術集会優秀演題賞を受賞しました。看護系雑誌からも執筆依頼が増え、「先輩・後輩間のピアラーニング」は教育機関で活用が広がっている手応えを感じます。
研究を継続するうち、先輩学生の指導が学年により違うことに気付きました。2年生は「自分ならどうするか」という「What(何を)」「How(どのように)」で説明するのに対し、4年生は経験に基づく「なぜそうしなければいけないか」という「Why(なぜ)」の視点から教えていたのです。研究当初は学び合いの効果に着目しましたが、現在は学年によるリーダーシップの違いも比較して、指導能力を育てる教育方法の提唱にも発展させたいと考えています。
※レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー(1896-1934)。20世紀のロシアの心理学者。人間の意識と人格の発達について独創的な理論を展開した。人間は学齢期から、内面化された(声として出ず、頭の中で展開される)言葉「内言」を思考の手段として利用し、自律的な思想を述語から成立させているとした。
1年生が看護師となり、5分間ずつ患者に
コミュニケーションを取る
■「 先輩-後輩間のピアラーニング」実施方法の一例
1)1年生3人、先輩学生1人でグループを作る。
2)先輩学生は患者になる。交通事故に遭い、右腕を骨折、左足首をねんざし、緊急入院しているという設定。右腕は三角布で固定し、ベッドに横たわっている。
3)1年生が看護師となり、1人ずつ患者と5分間ずつコミュニケーションを取る。(患者は看護師が話したことに対して返答し、自分からは話さない)
4)グループワークから離れ、1年生全体に向けた「手本」として、先輩学生2人が患者と看護師のロールプレイをする。
5)先輩学生のロールプレイを踏まえ、グループごとに1年生が3人で15分間話し合い、自分たちのコミュニケーションの内容を振り返る。
6)1年生は振り返った内容を先輩学生に報告して指導を受ける。(指導するポイントは、患者の意向への対応、疾病への配慮/あいさつや視線/患者との距離/姿勢や動作・態度/言葉遣いや声の大きさ、話す速さなど)
看護師としてキャリアをスタートさせた二井矢准教授。
看護に人生を懸けようとする決意がのぞく
=1990年ごろ、大阪医科大附属病院で
■ 研究の中心テーマは「患者教育」
二井矢准教授が福岡県立大の看護学部で助手をしていた時、研究室にストーマ(人工肛門や人工ぼうこう)を造設した患者が訪ねて来ました。「便や尿がおなかに付くと皮膚がただれて困るが、ケアの仕方を看護師に聞いても知らない人が多い。正しく教えてくれる看護師を育ててほしい」。悲痛な訴えに看護師の指導力の大切さを意識するようになり、「この声を埋もれさせてはいけない」と、患者自身のケア能力を看護師が育てる「患者教育」を研究テーマに決めました。ケアの個々の内容を整理して理論化し、評価方法も開発して、患者のQOL向上に貢献することを目指しています。
足浴の実習を見守る二井矢准教授
■ 学生指導で大切にしていること
約10年間、医療現場で経験を積んだ二井矢准教授が看護師を目指したきっかけは、小学生の時に母親が日本脳炎にかかったことでした。近所の人から避けられ、友達にも遊んでもらえなくなりました。そんな時、医師や看護師は変わりない態度で話し掛けてきて、手も握ってくれました。「接触では感染しないという知識があれば行動は変わる。医療従事者は病んでいる人の心や体を救うことのできる素晴らしい職業」と感じ、将来の仕事と決めたのです。
学生指導で大切にしていることは「看護職としての自覚を育てる」こと。患者に対してどんなケアをしたのか、ケアに対して患者はどう感じたのかなど、さまざまな角度から振り返らせます。学生が「うまくできた」と達成感あふれる笑顔を見せ、共に喜び合う「ケアリング」ができる時が、教員として幸せな瞬間だと語ります。
今回のNewWAVEで紹介した二井矢准教授の研究に関する論文は以下の通り。
日本看護学教育学会誌31巻2号「先輩-後輩関係から学ぶピアラーニングの思考過程 -援助的関係をつくるコミュニケーションスキルの教育実践を通して-」
著者:二井矢清香、鍵浦文子、杉野美和、岡本亜耶子、三味祥子
DOI:10.51035/jane.31.2_57



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