三方 康弘 教授

大阪工業大学 工学部 都市デザイン工学科

「コンクリートのがん」を経済的に治療する

FLOW No.115

三方 康弘
Profile
みかた・やすひろ 1997年大阪工業大学工学部土木工学科(現:都市デザイン工学科)卒。1999年同大学院工学研究科土木工学専攻博士前期課程修了。2002年同博士後期課程修了。総合建設コンサルタント「ニュージェック」を経て、2006年大阪工業大学工学部都市デザイン工学科講師。2018年から現職。博士(工学)。国土交通省近畿地方整備局橋梁ドクター。大阪府出身。

頑丈なイメージのあるコンクリートですが、長く使ううちに劣化します。橋やトンネルなど暮らしに欠かせない構造物は新たに造り直すと時間やコストがかかることや、持続可能な社会への意識の高まりから、補修しながら使い続けることが求められます。そこで、私の研究室では劣化したコンクリート構造物を適切かつ経済的に維持管理する方法を研究しています。


特に注目しているのは「コンクリートのがん」と呼ばれるアルカリシリカ反応(ASR)です。原因はコンクリート製造時に材料である石や砂にシリカという成分が含まれていると、セメントのアルカリ成分や雨水と反応してコンクリート内部にアルカリシリカゲルが生成されることです。このゲルが水分を吸収することで膨張し、コンクリートにひび割れを起こし、鉄筋が切れてしまう事例も確認されています。そのような場合には構造物の性能の低下が懸念されます。


研究室ではASRで劣化した橋脚の補強対策について、「段落し」を有する試験体を製作し実験しました。段落しとは、コスト削減のために1980年より以前に設計された道路橋に採用された鉄筋を間引く手法です。現在は段落しは採用されておらず、既に建設された橋脚についての耐震補強対策は確立されています。しかしながら、それらの補強対策はコンクリートの材料劣化を想定しておらず、ASRなどの材料劣化を生じた橋脚に対する耐震補強対策の構築が望まれています。


実験では、橋脚に見立てた試験体として、健全なコンクリートを用いて「段落しを有するもの」と「段落しを有しないもの」、その両者をASRで劣化させたもの、更に「炭素繊維シートにより補強を行ったもの」の計5種類を製作し、地震を模した荷重をかけ、耐力や変形、損傷などを比較しました。健全なものはエネルギーを吸収して粘り強く変形するのに対し、段落し+ASRのケースでは、健全なものと比較して変形量が少なく粘り強さが無い状態になっていました。しかし、段落し+ASRのケースでも、側面に炭素繊維シートを接着するという比較的簡易な補強により、粘り強さを有し健全なコンクリートを上回る性能を実現できました。また、シートを定着する時に金属の定着プレートを使うことで、シートの剥離を抑制できることも確認でき、経済的な補強対策工法の確立に向けた知見を得ることができました。

地震を模した荷重をかけると、「段落し+ASR」の試験体(左)は段落し位置に破壊が集中したが、
炭素繊維シートで補強した試験体(右)は段落し位置での破壊を抑制できた

■ 尽きないコンクリートの魅力

コンクリートは、石灰石や粘土を主原料とするセメントに、石や砂、水を混ぜ合わせて製造します。固まる原理はセメントと水が化学反応を起こして硬化するからです。固まると圧縮される力には強いものの、引っ張られる力には弱いため、鉄筋を入れて補強し鉄筋コンクリートとしてさまざまな用途に使われています。

三方教授はコンクリートの研究に携わり約30年となりますが、興味が尽きることはありません。固まる時には化学反応が起きるので化学、構造的な強さを考える時には力学などの物理学、コンクリートの健全性を診断するために電磁波や弾性波などを用いることで電磁気学や波動の理論も必要になり、「自然科学のあらゆる知識を動員して問題解決に挑むところに面白みがある」と感じるからです。

コンクリートの歴史は約2000年前の古代ローマ時代にさかのぼります。当時はイタリア・ベスビオ火山の火山灰を材料にしていました。観光地として有名なコロッセオやパンテオン神殿などは今も十分な強度を保っています。「コンクリートは古くから身近にありながら、まだまだ分からないことがあるのも魅力です」と三方教授は話しています。

コンクリートのひび割れを写し取ったシートを確認する大学院在籍時の三方教授=1997年

■ 研究のきっかけは阪神淡路大震災

三方教授は父親が建築関係の仕事をしていた影響で大阪工大の土木工学科(現:都市デザイン工学科)に進学しました。2年の時、大阪市内の自宅で阪神淡路大震災を経験。人々の暮らしを支える土木技術の重要さを認識し、地震に強い構造物について研究したいとコンクリート構造の耐震・構造性能が専門の井上晋学長の研究室に入りました。

研究室での一番の思い出は、博士後期課程で訪れたプラハでの国際学会です。「英語で発表しましたが、渡欧前に井上先生に見ていただいた原稿は添削で真っ赤になり原形をとどめていませんでした」と笑います。学会の合間には中世時代に建てられたプラハ城やカレル橋を見学し、堅固さと美しさを兼ね備えた建造 物に感銘を受けました。

井上研究室の現場見学会として、明石海峡大橋の建設現場を訪れた。
前列左から2人目が井上学長、同右端が大学4年の三方教授=1996年

■ 腰据えた研究から50年100年の維持管理を目指す

ASRは劣化に時間がかかるため、試験体の製造からデータのまとめまで一連の実験に5~6年を要します。学生によっては、劣化の経過観察など一連の研究の一部だけを担当して卒業していきます。学生のモチベーションを保ち、代替わりで連携させる研究に難しさはありますが、三方教授は「50年や100年という維持管理が必要なコンクリートだからこそ、じっくり取り組んでようやく知見を得ることができるのです」と意義の大きさを語ります。

載荷試験風景。左の学生がモニターを見ながら計測を担当し、中央の学生が油圧ジャッキで荷重をかけている。
右は試験を統括している大学院生=大阪工大八幡工学実験場で

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