塩川 満久 教授

広島国際大学 健康スポーツ学部 健康スポーツ学科

動作解析から運動能力の向上へ

FLOW No.107

塩川 満久
Profile
しおかわ・みつひさ 1987年広島大学教育学部教科教育学科卒。88年同教育専攻科保健体育科専攻修了。90年同大学院教育学研究科教科教育学専攻博士前期課程修了。94年同博士後期課程単位取得退学。広島大学助手、県立広島大学准教授などを経て、2019年広島国際大学保健医療学部教授。
2020年から現職。鹿児島県出身。

今夏はフランス・パリでオリンピック、パラリンピックが開催され、トップアスリートの活躍を目にする機会が増えます。近年、アスリートの技術向上のために注目されているのが動きを解析する研究「スポー ツバイオメカニクス」です。スポーツバイオメカニクスの手法を使い、小中高校生の運動能力を伸ばす支援や教材作成に取り組んでいる健康スポーツ学科の塩川満久教授に、その効果や面白さを聞きました。

生体の動きを力学的な観点から解明

バイオメカニクスは、バイオ(生体)とメカニクス(力学)からなる用語で、生体の動きを力学的な観点から解明しようとする学問領域です。スポーツを対象としたバイオメカニクスを「スポーツバイオメカニクス」と呼んでいます。スポーツバイオメカニクスは、心技体が重要であるといわれているスポーツの「技」の解明を目指しています。

スポーツは従来「まずはやってみる」ことが重視され、指導も経験やコツに頼りがちでした。しかし、一般的な学習と同じく、理論を学んでエビデンスに基づいて実践することで、より早く、より効果的に技能を向上させることができます。

バイオメカニクスは、動きやフォーム、力の反作用、エネルギーの伝達などを数値化することからアプローチします。

動きやフォームの分析には、「モーションキャプチャ」や「ハイスピードカメラ」を使います。モーションキャプチャとは、動きをデジタルデータにする技術で、光学式や慣性センサー式があります。 光学式は1秒間に250コマから500 コマの撮影ができる赤外線カメラを複数台使い、人の関節などにあらかじめ付けておいたマークを追って撮影します。複数台のカメラを使うことで人の目と同じように立体としてとらえるデータを取得することができます。慣性式は身体に装着したセンサーから、上下左右の動きや傾き、方位などのデータを取得します(写真1)。取得したデータを元に、パソコン上でスティックピクチャーやセグメントモデル(人の形を棒で示した図や人体モデル)などに置換して、身体の動きを計測します。

写真1:センサーを付けて、体の動きを計測する様子


力の反作用は、床に埋め込んでいる「フォースプレート」という計測器を使います。この上で歩いたり跳んだりすると、地面を蹴る力の反作用が計測でき、着地時の衝撃の大きさや身体の重心の速度変化・変位が分かります。プレート上を学生に自由に歩かせて、静かに歩く時と荒々しく歩く時の力の波形の違いを見せると、数値の変化と体感の比較から、力学への理解が一気に進みます。

光学式モーションキャプチャとフォースプレートを組み合わせてデータを取ると、動きの仕組みを可視化することができます。データを筋骨格モデルに当てはめれば、筋活動量の予測や関節周りにかかる力を予測できます(図1)

筋力の発揮を調べるには、活動電位を記録する「筋電位(EMG)」を計測します。身体の動きは、中枢神経から指令を受けた筋肉が収縮することにより生じます。筋肉が収縮する時に発生する活動電位を記録することで、どの筋肉がどの程度の大きさで活動したかを知ることができます。

図1 立ち上がりの動作解析(協力:古田誠朗)

データに高い関心を持つ子供

これらの機器を利用して、学生向けに講義前の予習として見る映像や、小中学校や高校の児童・生徒向けの教材を作ることに力を入れています。

中学校の部活動やクラブチームから協力を依頼され、2022年からU-14の選手のジャンプ力と筋力を測定しています。「思ったようにジャンプできない」と悩んでいる子供がいたら、平均値を参考に本人の将来の数値をシミュレーションします。「今はできなくても、身長が〇cm 伸びたら、ジャンプ力はこれだけ増えるよ」と具体的な数値を示すと、頑張る気持ちを引き出すことができます。小学校中学年から中学校中頃までの年代は「ゴールデンエイジ」といって、人生の中で最も運動能力が伸びる時期だとされています。データを活用した働きかけをすれば、効果的に体力を向上させることができます。

中学野球の選手向けには、バッティングの動作解析をしています。バットのスイングを複数台の赤外線カメラで撮影し、軌跡を表示します。三次元化されたマーカーの位置座標より、上肢の動きや腰のひねりを算出します(図2)。データを渡す時には、個々のフォームやボールをとらえるタイミングなど、注意するポイントをかみくだいてフィードバックしています。

交流のある高校野球チームには、野球のピッチングやバッティングに関するバイオメカニクスの論文を渡しました。「文章の内容は難しいから読まなくてもいい。写真や図を見て、練習のヒントにしてごらん」と投げかけると、必死に文章も読み解こうとして、次に会った時には質問を受けました。

高速で撮影した映像からボールの速度や回転軸を分析したり、バットにセンサーを取り付けてスピードや角度を計測したり、データを分析する機器が一般にも市販されるようになってきたこともあり、子供らもデータに関心が高くなっていると感じます。

図2 中学生のバッティングフォーム(共同研究:野球解説者 野村謙二郎、協力:岡修司)

ダンスの動きを360度から可視化

ダンスを学ぶことのできる教材も開発しました。身体にセンサーを付けた教員に踊ってもらい、身体の動きを三次元の位置座標に変換しました。データでCGモデルを作成後、アニメーションのキャラクターを当てはめます。3D画像になっているので、360度あらゆる方向に動かして、前や横、後方からの振りを確認することができます。画面中央に教員、右側にアニメーションが並び、左側に空きスペースを作っています(写真2)。パソコンのカメラ機能を使って自分を写すと、左側に並んで映り、動きを比較できます。

ダンス映像は、中学校から依頼を受けたダンスの専門教員と、体育祭の練習用も作成しました。一人の先生が30~40人の生徒に指導するのは難しくても、映像なら生徒が自分の覚えたい部分や向きを集中的に見て学習することもできます。

写真2:ダンスの練習用映像。画面の左側の空いたスペースにパソコンのカメラを通じて自分の姿を映すことができる


この他、動きの解析をトレーニングに生かした例もあります。野球の投球フォームとバドミントンのスマッシュをハイスピードカメラで比較すると、ボールのリリースとラケットでシャトルを打つタイミングが共通であることが分かります。バドミントンではひじを大きく上げてラケットを構えることから、体幹を使った大きくひねりのある投球フォームの習得につながります。

また、共同研究で身体運動能力を視覚化する技術も開発しました。VRゴーグルを付けた被験者にやり投げと砲丸投げの動作を取ってもらったところ、腕の可動域が広く、大きな楕円を描ける人ほど投げ出す力を大きく出せることが分かりました(図3)

図3 VRによる動作フィードバック(共同研究:長崎大学 田中良幸、名古屋大学 青山忠義)

客観的データ生かしたスポーツ指導を

バイオメカニクスに用いるような本格的な機器がなくても、子供のスポーツ指導には映像やデータをもっと活用してもらいたいと思っています。小学校では毎年、体力測定をしています。その年の記録だけを子供に知らせるのではなく、過去のデータと一緒に渡すと、成長による伸びを意識して、「もっとうまくなりたい」という気持ちが芽生えるのではないでしょうか。

球技の試合をする時も、コート全体が映るように斜め上から撮影するのも一つの方法です。試合後に子供に見せて振り返らせれば、子供自身がポジションの善しあしに気付くきっかけにもなります。

私はスポーツを対象にしたバイオメカニクスに取り組んでいますが、身体の動きの解明はスポーツ以外にも応用できます。介護分野とも親和性が高く、今後、さまざまなアプローチができると期待しています。また、硬式野球部の顧問も務めています。同部は、昨年度から広島六大学野球連盟に所属するようになったので、選手の強化にスポーツバイオメカニクスの手法も取り入れられたらと思っています。

東広島キャンパスのアクティブ・ウェルネス・センターにあるスポーツ動作解析生理学実習室。上部に複数の赤外線カメラが見える。
塩川教授の足元には、力の反作用を計測できるフォースプレートが埋め込まれている

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