辻 喜彦さん

二軒茶屋 中村楼 専務取締役

480年以上続く京都の料亭 
時代の変化に応え続けて歴史と伝統の継承を

Graduate Voice 活躍する卒業生

FLOW No.104

Profile
つじ・よしひこ 2000年啓光学園中学校(現:常翔啓光学園中学校)卒。2003年啓光学園高校(現:常翔啓光学園高校)卒。2009年京都調理師専門学校卒。2013年二軒茶屋 中村楼 専務取締役~現在。京都府出身。

 八坂神社の表参道にある二軒茶屋・中村楼の創業は室町時代までさかのぼります。当初は参拝客にお茶を出す腰掛け茶屋でしたが、明治期には文明開化に応えて格式ある料亭へと発展しました。京都が誇る老舗の13代目・辻喜彦さんは「貫くところは貫いて伝統を守りつつも、時代に合わせて変えていくことも大切」と言います。







多くの偉人に愛された名店 家業の重みを感じた高校時代

480年余りの歴史を持つ中村楼は創業当初「柏屋」という名の茶屋で、江戸時代には豆腐田楽(祇園豆腐)が大ヒット。坂本龍馬や伊藤博文など多くの偉人が足しげく通いました。そんな「名店」が実家の辻さんは、啓光学園中高(現:常翔啓光学園中高)時代に家業の重みを実感し始めました。同級生やその父母が中村楼を知ってくれていたからです。「ありがたいと同時に、どんな形でも続けていかなくてはという気持ちが強まりました」。

中高時代の一番の思い出は、先生や友達と強固な信頼関係が築けたことです。先生の手を焼かせることもあったとはにかみながら頭をかく辻さんですが、卒業式の直前には気にかけてくれていた先生からはなむけの言葉をもらい、とてもうれしかったと言います。また、辻さんと同様に家が京都の老舗という生徒も多く、学校帰りに三条や四条へ繰り出したことも良い思い出です。遊び仲間だった友達は、今は京の料理や文化を守る同業の仲間として親交が続いており、啓光学園では学業以上に大切なものを学び、得られました。

店内に飾られた食器は美術館に貸し出すことも



守りつつも攻める姿勢 京料理を海外にも発信

祇園祭の社参の儀(稚児が位を授かる儀式)にも深くかかわるなど八坂神社とともに歩んできた中村楼の看板は、代々辻家が継いできました。長い歴史の中でこだわり続けてきたのは、味です。豆腐田楽に塗るみその裏ごしをしたり木の芽を入れたり、味を追求し続けてきました。

一方で辻さんは、時代に合わせて変えていくことも大切だと話します。

「1886(明治19)年には文明開化に応えて京都で初めて洋食を出しました。また、畳にお膳を置くスタイルから、暮らしの西洋化に合わせてテーブルと椅子を置くなどしつらえを変えています」。若い人にも中村楼を知ってもらおうとカフェも併設しました。今後は、あらゆる場面で京料理の魅力を発信し、特に海外に持ち込めたらと考えています。「守るところは守りつつ攻めるところは攻める。時代の変化に合わせて変革することで、歴史と伝統は継承されていくのではないでしょうか」。

そんな辻さんは後輩たちに「勉強だけでなくいろんな経験を積み、人との関係を築いてもらえたら」と言います。社会に出た時に生きてくるのは、人とのつながりや経験値だからです。中高時代に築いた友人関係が、13代目として料亭・カフェを営む上での基盤となっている辻さんからのメッセージです。

伊藤博文(前)と勝海舟(後)がしたためた書

活躍する卒業生