秋田 隆司さん

環境省 大臣官房 環境保健部 放射線健康管理担当参事官室 健康影響分析係長

差別・偏見を無くしたい 
診療放射線技師として未曽有の災害に向き合う

Graduate Voice 活躍する卒業生

FLOW No.99

Profile
あきた・りゅうじ 2011年広島国際大学保健医療学部診療放射線学科卒。2013年同大学院医療・福祉科学研究科医療工学専攻博士前期課程修了。同年広島大学病院勤務。2021年から現職。診療放射線技師。広島県出身。

東京電力福島第一原発の事故を受けて、環境省では事故に伴う放射線に係る住民の健康管理・健康不安などの業務を担当しています。広島国際大診療放射線学科卒業生の秋田隆司さんは診療放射線技師としての経験を生かし、環境省で放射線に関する差別・偏見を無くすための新たなプロジェクトなどに取り組んでいます。






秋田さんが現在の役職に就いたのは2021年4月。診療放射線技師として広島大学病院に勤務していましたが、その知識と経験を買われて環境省に出向しています。

主に担当しているのは、「放射線の健康影響に係る研究調査事業」や、放射線による健康影響に関する不安、風評払拭を目指した情報発信を行う事業として2021年7月に小泉進次郎前環境大臣のもとでキックオフされた「ぐぐるプロジェクト」などです。

ぐぐるプロジェクトは、放射線による差別・偏見を無くそうという基本的な考えのもと、そのために知るべき最低限の知識を学ぶというものです。環境省の「令和2年度放射線の健康影響に関する情報発信の実務業務における調査」では、約40%(全国平均)の人が福島で生まれてくる子に遺伝影響があると考えています。一方で、東京電力福島第一原発の事故に伴う健康影響について、国連科学委員会の報告書では「放射線被ばくが直接の原因となるような将来的な健康影響は見られそうにない」とされています。これに関しては、正しい情報を提供することが必ずしも不安の低減や解消に繋がるわけではなく、受け手側の属性に応じた情報提供の在り方が必要ということが行動経済学的な知見から分かってきました。

ぐぐるプロジェクトの一環「ラジエーションカレッジ」では、放射線による健康影響に関するセミナーを通して、知識だけを得るのではなく、プレゼンテーションという表現力を競う場も提供しています。「福島県の学生から『子どもにまで偏見が引き継がれ、人生が狂わされてしまうことへの不安が拭えない』という言葉を聞いたとき、涙が出そうになりました。差別・偏見は絶対にあってはいけない」。秋田さんのその強い思いは子どもの頃、広島の原爆被ばく者に対する差別について聞き、衝撃を受けた記憶ともつながっていると言います。



診療放射線技師を志したのは高校時代、10歳上の兄が「人の役に立つ仕事が向いていると思うよ」と助言してくれたのがきっかけでした。アルベルト・アインシュタインに関心があったことがあり、進学先に診療放射線学科を選びました。

大学院修了後は広島大学病院で責任ある仕事をいくつも担ってきました。就職したその年に前立腺のMRI検査のプロトコル構築を任されました。また、29歳の時に放射線の被ばく線量管理などを担当する放射線取扱主任者に抜てきされ、院内の規定改正や被ばく線量管理の体制整備などを行ってきました。

環境省で放射線に係る住民の健康管理・健康不安などの業務にまい進する日々ですが、現在の仕事の中に、臨床現場で役立つことがあると感じていると言います。例えばMRI 検査では、どんな小さな金属でも、外さなければ命に関わることもありますが、外すのをつい忘れてしまう患者さんがいます。「環境省で得た行動経済学の知見を生かすことで、より安全に検査を受けてもらえるのではないかと、その方策を考えています」

先を見据えて学び続ける。それは学生時代から変わらない秋田さんのポリシーです。大学では常に卒業後の臨床現場での業務をイメージしながら勉強に励みました。「僕にとってのゴールは国家試験に合格することではなく『人の役に立つ』ということでした。学生時代は国家試験や就職を目標にしがちですが、その先のビジョンを持って、どうやって自分のプレゼンスを上げていくかを考えて過ごすことも重要です」。後輩へのメッセージを熱く語ります。

活躍する卒業生