牧野 カレンさん(左)

常翔啓光学園高校2年

矢倉 鈴奈さん(右)

バレエダンサー、バレエ オフィス ジャパン代表理事

バレエの楽しさ プロへの道の厳しさ
海外留学して初めて気付く日本の良さ

FLOW No.80

常翔啓光学園高2年でこの9月からウクライナ・キエフ国立バレエ学校に留学する牧野カレンさんが、海外の舞台経験豊富な元ブカレスト国立オペラ座バレエ団のバレエダンサーで、現在はバレエ公演を企画する一般社団法人も立ち上げた矢倉鈴奈さんに海外生活へのアドバイスやバレエの魅力について聞きました。

きっかけは絵本、レオタード

牧野:はじめまして。今日はよろしくお願いします。最初に矢倉さんのバレエとの出会いを教えてください。

矢倉:はじめまして。私とバレエの出会いはバレエ好きの母が読んでくれた「くるみ割り人形」の絵本でした。その後、連れて行ってもらった「くるみ割り人形」のバレエ公演が楽しくて、5歳から習うことにしたのです。牧野さんはなぜバレエを始めたのですか。

牧野:3歳の時、母に近くのバレエ教室の見学に連れて行かれ、みんなが着ているレオタードにあこがれて始めました。中学までその教室に通い、いまはロシア式メソッドの教室で学んでいます。今年3月にイタリアであったコンクールで賞をもらい、9月からウクライナのキエフ国立バレエ学校に1年間留学することが決まりました。矢倉さんも私と同じ16歳でドイツにバレエ留学されたのですね。

矢倉:10歳で英国に短期留学して欧州にあこがれるようになりました。その後ローザンヌ国際バレエコンクール(スイス)に出場した時、ミュンヘン国立音楽大(ドイツ)バレエ科の校長が高く評価してくださり入学を勧められたのです。牧野さんは留学が決まって不安などありますか。

卒業したのは10人のうち2人だけ

牧野:いろいろ心配しても仕方ないと思っています。それより楽しみが大きいです。私は小さいころからみんなより背が高く、それが少しコンプレックスになっていました。だから海外に行く方が、日本にいるより自分の長身をバレエに生かせるのではとも思っています。

矢倉:長身は海外ではプラスです。男性ダンサーの背の高さを気にしなくてもよくなりますよ。ところで言葉に不安はありますか。

牧野:留学が決まってからバレエ教室ではロシア語でレッスンしてもらっていますし、親戚の知人のベラルーシ出身の方に月2回ロシア語会話を習っています。

矢倉:私の場合、ミュンヘン留学時にドイツ語は全く分かりませんでした。ただ各国から学生が集まっていてコミュニケーションのほとんどは英語でした。英国に短期留学した時に英語が全然分からず、その悔しさから英語の勉強に励んだことが役立ちました。バレエの基本用語はフランス語で各国共通ですが、いずれにしても向こうへ行ったら何とかなるくらいに思った方がいいですよ。

牧野:矢倉さんが留学で大変だったことは何ですか。

矢倉:もちろんレッスンの厳しさですね。ミュンヘンの学校は国立なので入学金や授業料は無料でしたが、そのかわり進学が難しかったです。1年ごとに女性校長が「あなたはバレエに向いていないです」などと学生に"クビ宣告"をするので、みんなびくびくしていました。結局、入学した時のクラスメート10人のうち3年後に卒業できたのは私とドイツ人の学生の2人だけでした。ただその校長は厳しいだけでなく、「美術館などに行って多くの美しいものを見なさい」などアドバイスもしてくれました。

消えていったコンプレックス

牧野:海外生活で困ったことはありますか。

矢倉:生活は楽しかったですよ。実は私は最初、スタイルが素晴らしく顔も美しい外国人ダンサーたちの中で、日本人であることのコンプレックスを感じていました。でもだんだん生活に慣れるうちに、逆に礼儀正しさなど日本の良さが分かってきて、日本人であることに誇りを持てるようになり、コンプレックスも消えていきました。親のありがたみも感じるようになりました。

牧野:私もバレエを支えてくれている両親には感謝しています。矢倉さんにとってバレエの魅力は何ですか。

矢倉:言葉ではなく身体の表現ですべてを伝える芸術であることです。ステップ一つで感情の違いを表現できるし、演じ手によって作品の持ち味が変わるのも面白いですね。

牧野:全く同感です。役になり切れると楽しいです。ほかの人のダンスを見るのも大好きです。

矢倉:好きな曲、好きなダンサーを教えてください。

牧野:プーニの『エスメラルダ』で、自分でも踊っています。尊敬するのはバレエ教室の高橋晃子先生です。体も演技もすべてが完璧に作り上げられているのが凄いです。

矢倉:私が好きなのはプロコフィエフの『ロメオとジュリエット』です。尊敬するのは現代バレエの女王でパリオペラ座バレエ団で活躍したシルヴィ・ギエムです。バレリーナが必要なすべてを持っています。牧野さんはどんなダンサーになりたいですか。

バレエを身近な存在に

牧野:長身を生かしたダイナミックな踊りができたらと思います。そのために留学では吸収できるものはすべて吸収したいです。矢倉さんは現在バレエ公演の企画やプロデュースにも力を入れられているそうですね。

矢倉:ヨーロッパではバレエは身近にあります。各国に国立のバレエ劇場があり、各都市にあるオペラ劇場などで毎週のようにバレエ公演があり、しかも格安です。みんな映画を観に行くようにバレエを観に行きます。日本でもヨーロッパのようにバレエを身近な存在にしたいと思い、帰国後に「バレエ オフィス ジャパン」を設立しました。海外の一流バレエ団のダンサーを招聘し、バレエ公演を開催しています。8月12日にNHK大阪ホールで開催する第3回バレエ公演「アーティスティック・バレエ・ガラ」には英国ロイヤルバレエなど、世界各国のトップダンサーが出演します。8月13日には大阪工業大学梅田キャンパスの常翔ホールで「BOJバレエフェスティバル」を開催します。名門ウィーン国立バレエ団でともに最高位のプリンシパルを務める木本全優、橋本清香夫妻を招いたトークショーやバレエ講習会、ミニバレエ公演などバラエティーに富んだ中身です。

牧野:今日は貴重なお話をありがとうございました。

プーニの『エスメラルダ』を踊る牧野さん
使い込まれたトゥシューズ(左)。右は、牧野さんが3歳の時に履いていたバレエシューズ
プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』を踊る矢倉さん
リハーサルでスタッフに指示を出す矢倉さん(右)
Profile
矢倉 鈴奈(やぐら・れいな)さん 2007年ミュンヘン国立音楽大学バレエ科卒。2009年カンヌロゼラハイタワー高等バレエ学校卒。2010年ルーマニアのテアトロ・ドゥ・バレエ・シビウにソリスト契約で入団。2011年シビウ国際バレエコンクール・シニア部門第3位。2012年ワールド・バレエ・コンクール(ヨーロッパ開催)プロフェッショナル部門1位ゴールドメダル&エクセレントアワード(最優秀賞)受賞。同年ブカレスト国立オペラ座バレエに入団(ルーマニア) し数々の作品にソリスト役で出演。2015年同オペラ座を退団し帰国。2015年「BALLET OFFICE JAPAN(バレエ オフィス ジャパン)」を設立。大阪府出身。
撮影場所 infomation
大阪音楽大学 ザ・カレッジ・オペラハウス (大阪府豊中市庄内幸町1-1-8)
ヨーロッパのオペラハウスの様式と風格を継承した本格的な音楽ホール。最大756の客席を備えています。日本で初めて専属のプロ管弦楽団、合唱団を持ったオペラ劇場で、学生らによる演奏会のほか内外の著名な音楽家を招聘した演奏会も開催されます。
2016年9月、常翔学園は学校法人大阪音楽大と連携協定を締結。両法人は、テクノロジー・デザイン・音楽が融合した新しい芸術文化・技術の発信を目指します。

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