田原 花菜さん(左)福島 生琉さん(右)

広島国際大学 社会学科1年

大月 ヒロ子さん

イデア代表取締役

廃材に命吹き込む実験拠点 整理・分類し創造力を刺激

FLOW No.110

常翔学園の設置学校に在籍する学生、生徒、教職員が各界の一流人と語り合う「クロストーク」。第11回のゲストは、岡山県倉敷市で廃材をアートに生かす活動の拠点「IDEA R LAB(以下、LAB)」を主宰する大月ヒロ子さんです。広島国際大社会学科地域創生学専攻1年生の田原花菜さんと福島生琉さんが現地を訪ね、廃材の面白さや可能性、地域とつながり活動する楽しさを教えてもらいました。


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福島:本日はよろしくお願いします。将来は大好きな野球を通じてふるさとを元気にするという夢があります。地域の課題解決に貢献できる人になりたいと考え、地域創生学専攻に進学しました。

田原:絵を描いたり手芸をしたり、手を動かすことが好きです。大学の演習で昨秋、キャンパス周辺の商店街でフィールドワークを行い活性化に向けた課題を探りました。大月さんの取り組みを学び、解決の糸口にしたいと思っています。

大月:私はここ倉敷市玉島地区に生まれ育ち、東京の大学で学びました。卒業後は美術館で学芸員として働き、その後、独立して博物館の企画・運営に携わってきました。1990年前後に廃材を生かす創造的な海外の事例を多く取材し、日本でも同じような活動を広げたいと江戸時代に建てられた実家を改装して2013年にLABを開設しました。

地域で使われないものを循環させ生かす

田原:廃材とはどのようなものですか?

大月:服の端切れや畳のへり、ガスメーターのダイヤル、昔の傘に使われていた木製の部品など、地域で使われなくなったものや製造過程で出てくる廃材・端材などです。それらを企業や店からもらい受け、種類や大きさ、色別に整理・分類して、近くにある資料室「マテリアルライブラリー」にストックしています。壁一面を覆う棚は液体用ポリタンク、床に並ぶテーブルはたんすを使うなど、収納も全て廃材を活用し、探しやすく戻しやすい保管の仕方を研究しています。

福島:なぜ廃材ですか?

大月:廃材は廃棄されるものとはいえ、美しいものや魅力的なものがたくさんあり、新たな価値を持たせて生まれ変わらせることができるからです。どのようにすれば地域で循環して生かすことができるか、という実験に取り組んでいます。

活動にあたっては、「クリエイティブリユース」という考え方を大切にしています。人間の2つの創造力「クリエイティビティー」と「イマジネーション」を使って、廃材を観察します。私のお薦めは写真に撮ることです。カメラを通して上からのぞいたり、寄って細部を見たり、裏側、透かしてみる……という具合に、いろいろな角度から撮影します。すると、こんなふうに並べてみようとか、ここをくっつけると面白い、というアイデアが浮かんできます。大切なのは手を動かしながら考えることです。頭だけでは思いつかなかったことを、手が教えてくれることがあるからです。

今日は2人に作品づくりに挑戦してもらいます。ピアノを解体した部品を用意しているので、まずはよく観察してみましょう。


ワークショップで制作した作品。(左から)田原さん、福島さん

多くの訪問者と知り合い活動に触れられることにやりがい

田原:11年間の活動から、課題は感じていますか?

大月:どのように継続していくかを常に考えています。LABを多くの人に見てもらい、公的機関が同様の場所を作るきっかけになればと考えました。クリーンセンターや文化センター、保育所など、関心を持ってくれる所が増えてきたので、そろそろ支援する側に回ってもよいかなと感じています。


1. 廃材の写真を使ったオリジナルゲームのカード 2. オリジナルゲームで盛り上がる(左から)大月さん、福島さん、田原さん 
3. 古くなった椅子の背もたれや座面を古着や不用になったぬいぐるみで加工 4.紙製の容器を使ったランプシェード 
5. 不用になったガスメーターから取り出したダイヤル 6.7. 種類や大きさ、色別に分類・収納されているマテリアルライブラリー



福島:どんな時にやりがいを感じますか?

大月:多くの人が訪ねて来てくれることです。廃材やアップサイクルに興味がある人、地域活性化に取り組む人、教育関係、美術館や博物館、子供の遊び場関係の人、学生。さまざまな人と知り合い、その人たちの活動の広がりに触れられることは楽しいです。

田原:大月さんは活動を通じて地域とつながり、新たな風を起こしています。私たちが大学近くの広商店街(呉市)でフィールドワークをしたところ、利用者のほとんどは高齢者でした。若者の利用を促進するイベントを開きたいのですが、どのようなことに気をつければよいでしょうか?


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大月:若い人が利用するお店もありますか?

田原:パン屋など飲食店は利用しています。

大月:みんな食べることが好きということですね。では、食に絡めた企画はどうでしょう。家に余っている食材を持ち寄って料理を作ったり、高齢者の庭や畑で収穫できずにいる柿やミカンを若い人が代わりに収穫して使ったり。お年寄りから調理を教わることや、無料でもらったもので何かを作ってその家に還元するのも楽しいですね。

田原:とても面白そうです。どんなことができるか考えてみます。

福島:大月さんの話を聞いていると、何をやるにも目的をしっかり設定することが大事なのかなと感じます。私は将来、子供向けの野球教室を開きたいのですが、どんな特長を出すかで悩んでいます。

大月:目的も大切ですが、私自身は楽しいからやっていることが多いです。美術館で仕事をしている時も、「こんなに面白い人がいる。こんな面白い作品がある。みんなに知ってもらいたい。どうやって人につなげよう?」という感じです。福島さんは野球を面白く感じていますか?

福島:すごく面白いです。自分は投手なので、打者との駆け引きが楽しいです。投手が試合の流れを作っているところがあるので、その作り方を伝えたいです。

大月:野球にはそんなストーリーがあるのですね。そういう話をする野球教室って、すごく楽しそう。子供だけじゃなく、大人とも話のできる場になると、すごく素敵だと感じます。2人の活動が今後どのように広がっていくのか楽しみです。ぜひ、教えてくださいね。

田原:商店街を盛り上げる企画を考えます。また、報告します。

福島:野球教室へのアドバイスに元気をもらえました。ありがとうございました。


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Profile
大月 ヒロ子(おおつき・ひろこ) おおつき・ひろこ 1956年生まれ。ミュージアムエデュケーションプランナー。板橋区立美術館学芸員を経て1986年に独立。ミュージアムづくり、展覧会監修、コミュニケーションや学びを誘発する空間デザインを行う有限会社イデアを設立し、数多くの公立ミュージアムの設立準備や運営に関わる。著書に『クリエイティブリユース─廃材と循環するモノ・コト・ヒト』(ミルグラフ)『じぶんでつくろう こどものしゅげい』『コレでなにする?』『まるをさがして』(以上、福音館書店)など。

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