常翔学園の学生・生徒たち

反田 恭平さん

ショパンコンクール2位のピアニスト

コンクールでの心の支えは競い合う友人や仲間の存在

FLOW No.99


人間味あふれる音楽トーク 100人の聴衆を生演奏で魅了


世界のピアノコンクールの最高峰、ショパン国際ピアノコンクールで昨年、日本人歴代最高位タイの第2位に輝いたピアニストの反田恭平さんが3月12日、大阪工業大学梅田キャンパスの常翔ホールでMBSラジオ番組「反田恭平Growing Sonority」(毎週月曜18時~18時半)の公開収録を行いました。反田さんが2021年4月からパーソナリティーを務める同番組のスポンサーの1つが常翔学園であることから同ホールでの番組初の公開収録が実現しました。2週分の収録で約1時間半にわたって、これまでの音楽人生や音楽観、ショパンコンクールでの裏話など人間味あふれるトーク、学園の学生・生徒からの質問コーナーでの楽しいやり取り、更に最後にホール自慢のスタインウェイによる生演奏と、約100人の聴衆は世界的ピアニストとの中身の濃い時間を過ごしました。

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「ホールもピアノもお気に入りに」



まだコロナ禍とあって公開収録の聴衆は学園設置中学、高校、大学のピアノや合唱などの音楽が好きな学生・生徒や学園関係者ら約100人に制限されました。世界的ピアニストに生で接する期待感で収録前から常翔ホールには静かな熱気が感じられました。舞台上にはスタインウェイのグランドピアノ、ラジオ収録用の見慣れない機材がセッティングされていました。アシスタント役はMBS毎日放送アナウンサーの玉巻映美さんで、3月21日放送分の収録が始まりました。

髪を後ろに束ねたヘアスタイルに口ひげという独特の風貌で「ピアノ・サムライ」の愛称もある反田さんの登場です。別のメディアのインタビューで「(西洋人にとっては)アジア人は顔が似ているので、ステージに出た瞬間に覚えてもらえるように」と答えていた反田さん。ショパンコンクールではその風貌だけでなく、ピアノの実力で瞬く間に世界の音楽ファンをとりこにしました。

通常の番組収録はMBSの東京支社のスタジオで収録します。反田さんは「公開収録は初めてで緊張はしていますがワクワクします」と言いながら、玉巻アナウンサーとのトークが始まりました。まず初めての常翔ホールについて「奇麗でびっくりしました。ピアノのクオリティーも素晴らしく、ホールの響きもすごく良くて、お気に入りのホールになりそうです」と常翔ホールとピアノを絶賛しました。

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反田:4歳からピアノを始めたのですが少し聴いただけで簡単に弾けました。それを母や周囲が喜ぶのを見てだんだん弾くのが楽しくなっていきました。

玉巻:音楽を職業にしようと思ったのはいつごろからですか?

反田:高校の進路を決める中学2年の時に、父と大げんかになったのです。ピアノもろくに練習していないのに、音楽学校に行くのはどういうことか? 普通高校、大学と進むべきだと。「音楽に進みたいなら1位の表彰状を持ってこい」と言われたので、負けず嫌いの僕は受けられるコンクールを片っ端から受け全部1位を取りました。それでやっと音楽高校に進むことができたのですが、「1位を取らないと見えない景色があるだろう」という父の言葉が今も忘れられません。

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玉巻:ショパンコンクールは長い期間で、苦しいこともあったと聞いていますが、それをどう乗り越えたのですか?

反田:乗り越えられた一番大きな理由は友達の存在でした。コンクールで競い合う仲間同士の支え合いです。後輩の角野隼斗さんや幼なじみの小林愛実さんらとお互い頑張ろうと声を掛け合っていたのが励みになりました。友達がどれだけたくさんいて、友達のことを想える感情の引き出しがある人が結果として残っていったように思います。

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反田:1つ目は自分の直感です。演奏していて浮かぶアイデアや初めての感覚を大事にしています。2つ目は矛盾するようですが第3者的な物事を俯瞰する目です。アクセルを全開するだけでなくブレーキも持つ必要があると思います。

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玉巻:いろんなことに挑戦する反田さんの今の夢は何ですか?

反田:音楽の学校を作ることです。世界の音楽学校を見てきて、日本でももうちょっとできるのではと思うことがあります。昨年、奈良で同じ志を持つ友達を集めて「Japan National Orchestra」を株式会社として立ち上げました。これも学校作りの事前準備の1つです。

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蜂谷凛花(常翔啓光学園高1年):自分が他のピアニストと違うと思うところは何ですか?

反田:僕は指揮者の勉強もしているので、ピアノの曲もオーケストラの各楽器の音色をイメージして立体的に考えることが他のピアニストと違うところだと思います。

田中陽菜(常翔啓光学園高1年):スランプになって弾けなくなったことはありますか?

反田:スランプになったことはありませんが、自分が下手だなと思うことはあります。僕はそれを「今はうまく弾けない曲でも、5年後、10年後にその作曲家を理解できるようになる」とポジティブに捉えようとしています。

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後半は普段はリスナーから寄せられる質問に答える「音楽質問箱」のコーナーの特別版から始まりました。前半に続いて学園の学生・生徒からの音楽についての質問に反田さんが丁寧に答えました。

角谷心之介(大阪工大1年):再現することを良しとするクラシック音楽では、独自の表現や解釈で演奏すると怒られると聞いたことがあります。演奏が良ければいいのではと思うのですが、なぜですか?

反田:哲学的な深い質問ですね。クラシックの音楽家がいつも直面する問題です。絵画に例えるなら額縁がクラシック音楽のルールです。キャンバスに絵を描いてそこからギリギリにはみ出た部分が演奏家の才能だと思います。またブラームスならドイツ語、ショパンならポーランド語という作曲家が話していた言語を理解してこそ演奏できるということもあります。再現する演奏家には作曲家、作品へのリスペクトがなければいけません。クラシック音楽は決められたルールの中で演奏すべきで、作品があってこそのアーティストなんです。

中原満紀(常翔学園中2年):クラシック音楽を聴くと心が落ち着くのはなぜですか?

反田:子供の頃に聴いた子守歌が歌曲やオペラにつながりますし、オーケストラにはビオラ、チェロ、クラリネットのように人の声に近い楽器があり、そうしたクラシック音楽が人の琴線に触れるからではないでしょうか。

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横山晴夏(常翔学園高1年):クラシック音楽には少し難しいというイメージがありますが、何か面白いエピソードのある曲を教えてください。

反田:ベートーヴェンのピアノソナタ23番「熱情」は曲の冒頭、同じ音の13回の連打があります。13はヨーロッパでは不吉な数字で、ベートーヴェンはこの連打で曲の中で不吉なことが起きると示しています。そのことを意識すると曲の聴き方が変わってきます。多くの曲にこんな豆知識的なエピソードがあり、それをどう捉えるか演奏家の感性が問われます。

木村結月(常翔啓光学園高1年):クラシック音楽の一番の魅力は何ですか?

反田:言語を問わず相手の心に訴えられるということです。ピアノの技術があれば世界のどこに行っても演奏で人を笑顔にできます。クラシック音楽の最大の魅力です。

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後半の最後はいよいよピアノの生演奏2曲です。ショパンコンクールでも弾いたショパンの「ラルゴ 変ホ長調」と反田さんが「大好きだ」というシューマン作曲/リスト編曲の「献呈」です。「ラルゴ」はショパンの死後約1世紀を経て楽譜が発見された遺作で、ポーランドの古い聖歌の旋律をもとに作られ、あまり一般的には知られていません。反田さんが「ポーランド人の心を揺さぶる子守歌のような作品」というように、心が洗われるような“秘曲” によってホール全体に静謐な時間が流れました。「献呈」はシューマンが愛妻クララにささげた歌曲をリストがピアノ独奏に華麗な装飾を加えて編曲したもので、反田さんはその美しい愛の歌を慈しむようにピアノで歌い上げました。演奏が終わると大きな拍手が贈られ、玉巻アナの「心が温泉に浸かったようにホカホカしました」という感想が聴衆の気持ちを代弁していました。反田さんは「素晴らしく心地のいい音響のホールと絶妙なピアノのお陰です」と再び常翔ホールとそのピアノを高く評価しました。



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Profile
反田 恭平 そりた・きょうへい  1994年生まれ。2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールで日本人では半世紀ぶりの第2位を受賞。2016年のセンセーショナルなデビュー・リサイタル以降、毎年定期的にリサイタルやオーケストラとのツアーを全国で行っている。2018年からは室内楽や自身が創設したJapan National Orchestraのプロデュースも行っており、2021年5月からはオーケストラを株式会社で運営し、奈良を拠点に世界に向けて活動を開始した。また、2019年にはイープラスとの共同事業でレーベルを立ち上げ、2020年のコロナ禍ではいち早く有料のストリーミング配信を行うなど、クラシック音楽の普及にも力を入れている。2020年からは海外での演奏も増え、パリ、ウィーン楽友協会でデビューを果たし、2023年のシーズンはミュンヘン、カナダと活動の場を広げていく。また、若手の音楽家とファンをつなぐコミュニケーションの場となるような音楽サロン「Solistiade」も運営している。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院を経て、F.ショパン国立音楽大学(旧ワルシャワ音楽院)研究科に在籍。

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