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和田 泰一 准教授
わだ・たいち 1999年早稲田大学政治経済学部政治学科卒。2007年同大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学。同大学政治経済学術院助手、北里大学一般教育部非常勤講師などを経て、2017年摂南大学法学部法律学科講師。2022年から現職。埼玉県出身
和田准教授の中学、高校時代に東欧の民主化運動が起こり、冷戦が終結しました。「それに衝撃を受け、社会主義崩壊の後にどんなイデオロギーが求められるのかと思ったのが、政治思想を研究するきっかけでした」と振り返ります。大学ではまずホッブス(1588〜1679年)の研究から始めました。「新しい近代政治学の基礎を作ったからです」。ホッブスは放っておけば無限に欲望を追求する人間観を打ち出し、生きたいという自然権(生存権)と合わさると「万人の万人に対する戦争」が避けられなくなるため、国民は国家をつくり自然権をその代表たる主権者に譲渡する社会契約を結ぶと考えました。「主権や社会契約など現代の基本的人権や民主主義につながる政治思想の誕生です」。デカルトとともに人間中心の世界観を生み出した近代性がホッブスの魅力だと言います。今は人間観の変遷を視点に政治思想の歴史を見直す壮大な試みにも取り組んでいます。
現代の政治も和田准教授の研究テーマです。「ポピュリズムや反知性主義、陰謀論が社会に広まり、SNSの影響で特定の意思や思想が増幅されて影響力を持つエコーチェンバー現象などが選挙の公正さも危うくしています」。政治への無関心や政治の私物化、過度な功利主義の浸食も含め現状への危機感を訴えます。20世紀最大の政治思想家ロールズ(1921〜2002年)は、「より平等で公正な社会の実現」を論じ、リベラリズムの立場を生みました。リベラリズムに賛同していた和田准教授ですが、最近は米・ハーバード大のサンデル教授(1953〜)らが唱えるコミュニタリアニズム(共同体主義)にも共感を抱いていると言います。「リベラリズムは自由な議論を重ねるうちに帰納的に出てきた結論が正しいとしますが、それだけでは差別的なとんでもない主張をする政治家の議論を排除できないという弱点に気づいたからです」。「何が正しいか」という立場や原理を掲げてから議論を進める方が理にかなっていると考えています。
しかし、その議論も軽視されることが目立ちます。トランプ米大統領ら少なからぬ政党や政治家は、敵対勢力をつくり出して一方的に非難し、自分たちの正しさを演出します。「どんな政策にもメリット、デメリットがあるように矛盾を抱えながら議論するのが政治です。政治は本来、敵を作るものではないはずです」。若い学生ら多くの人たちが単純に民主主義は多数決だと勘違いしていると言い、「それなら国会は要りません。何が正しくて、正しくないかを時間をかけて議論する民主主義は手間がかかるものです」と強調します。和田准教授の研究テーマが尽きない時代です。
