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巻頭特集 学園3大学教務部長 鼎談

FLOW No.91

「教育を止めるな」「学びを止めるな」コロナ禍との闘い 課題と希望

大阪工業大学 教務部長(工学部教授)
井上 晋
摂南大学 教務部長(理工学部教授)
伊藤 譲
広島国際大学 副学長兼教務部長(保健医療学部教授)
笛吹 修治

世界中を巻き込んだ新型コロナウイルスによるパンデミックは、歴史的災厄とも言える被害をもたらしています。多くの人の命を奪っただけでなく、地球上の経済活動をストップさせ、教育にも大きな影響を与えました。全世界で多くの子供たちが学校に通えないという異常事態は、世界大戦や大震災でもなかったことです。昨年は日本でも卒業式、入学式の中止に続いて、春からの対面授業ができなくなり、多くの教育機関でオンライン授業が続きました。学園の設置3大学、2中高でも「教育を止めるな」「学びを止めるな」の思いのもと全力で対応策を重ねてきました。それを記録にとどめ、未来の教訓にするため、10カ月近くに及ぶ苦闘を3大学の教務部長に振り返ってもらい、見えてきた課題や希望について話し合ってもらいました。=鼎談はオンライン会議システムで実施

西日本豪雨の経験が生かされた広島国際大
摂南大は「学生とつながる」を掛け声に
実験・実習は対面実施に踏み切った大阪工大

─ 教育・研究活動においてオンライン授業への取り組みを中心に各大学でこれまでどんな対応をされてきたかお話しください。

笛吹:広島国際大は2018年の西日本豪雨災害の時にオンライン授業を余儀なくされました。当時は手探りでしたが、その時の経験が今回は生きたなと思います。当時、オンライン授業ツールの教員への啓蒙を行い、実際にかなりの教員がそれを使った授業を経験したのです。そういう意味でコロナ禍への準備ができていたことになります。

コロナ禍が深刻になってきた3月に医師免許を持った教員を中心に感染症対策会議を立ち上げて行動指針を作成しました。医療系の大学で4月には学外実習も予定されていたので迅速な対応が必要でした。オンライン授業に向けて、学生のICT環境のアンケート調査から始まって、オンラインツール(学修支援システムCoursePower、Microsoft Teams、 パワーポイントの動画作成、録画授業の配信、Zoom)のマニュアル作りや研修会、サポート体制(ICT活用部門教員+各学科からのICTサポーター)の整備を行いました。海外研修をはじめ、県外への移動を伴う教育研究活動などイベントはすべて中止にし、授業はすべてオンラインに切り替えました。本学で特有の学外実習については、時期の延期や期間の延長、分散開催への切り替え、施設の変更を行い、一部は学内実習への振り替えで対応しました。受け入れ先の病院や施設などとの調整に担当教員はとても苦労しました。前期の初年次教育(アカデミックリテラシーなど)では不慣れなオンラインもあって単位未修得者が例年になく多くなったため、後期に個別の学生に声掛けをするなどして未修得者を出さないように対応しています。後期は学内での人数を抑えつつ、対面授業を約50%に増やしました。

伊藤:摂南大は広島国際大とは異なり想定外の事態にゼロからのスタートでした。最初に徹底したのは、学生とのコンタクトを絶やさないこととアンケート調査による全体状況の把握の2つでした。学長の「学生とつながろう」との掛け声のもと、電話やメールでコンタクトを保ち続けました。更に学生のオンライン授業受講環境把握のためのアンケート調査を実施。新入生に対しては、ゼミ担当教員が個別に電話連絡で状況確認も行いました。4月中旬から、オンライン授業の標準的な実施方法(Teamsを採用)を決め、マニュアルの作成(PDF、動画)を始めました。そのための組織として「遠隔授業実行WG(ワーキング・グループ)」をICTに詳しい各学科の教員、情報メディアセンター、教務部のメンバーで構成。オンライン授業の案内を行う教員用と学生用それぞれの専用ウェブサイトを立ち上げ、オンライン授業実施のための著作権の対応、ガイドラインの作成も行いました。学生からの質疑対応のためには「ヘルプデスク」も設置しました。情報メディアセンターでは学生貸し出し用に200台のノートパソコンを準備。ガイダンスをウェブ化することや窓口での申請手続きもウェブから行えるよう対応しました。5月25日にオンライン授業がスタートしましたが、走りながら経験を積んで成長していった印象です。

海外留学プログラムでは、1 月下旬から中国圏からの一時帰国が始まり、3月には新規の留学が中止になりました。2月に一度出国した学生が3月には帰国し、同時に出国準備中の2020年度前期出発のプログラムの中止が決まりました。この間、我が子の夢をかなえたい保護者、帰国を望まない現地滞在中の学生、留学準備を終えた出発直前の学生、それぞれの気持ちに配慮しながら対応してきました。また、PBLプロジェクトは5月の段階で不開講を決め、インターンシップも中止にしました。



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                  入構制限・大阪工大



井上:大きな流れは大阪工大も2大学とほぼ同じです。3月中旬に4月からの授業について検討を開始し、まず2週間はオンラインですることが決まりました。ただ学部によって使っていたソフトが違い、Google Meetに統一しました。学生、教員向けのマニュアルは情報センターが4月中旬に作成。学生にデモンストレーションするとともに教員全員に講習会を開催しました。学生への連絡はポータルサイトを通じて行いましたが、特に1年生はポータルサイトへの接続の仕方が分からない学生もいたので、そのような学生を情報センターや教務課でリストアップし、各学科の教員が個別に連絡してケアをしました。パソコンは必携化しているので、特別に用意する必要はありませんでした。授業は連休明けの5月7日からすべてオンラインでスタート。しかし、工学教育に欠かせない実験・実習はオンラインでは無理で、教員からも学生からも「対面で」の要望が強く、6月1日から実験・実習に限り、十分な感染対策を取ったうえでの対面授業を開始しました。また講義日数の不足に対応してお盆明けの1週間に補習も実施しました。実験・実習でたまに登学するだけの1年生に対しては、クラス分けされる基礎ゼミやキャリアデザインなどの授業担当教員に登学機会を設けてもらい、少人数で大学の仕組みなどのガイダンスを実施しました。国際交流プログラムは一部オンラインに切り替えましたが、大部分は中止・延期にしました。

オンライン授業の課題の多さに不満も教員のフィードバックの工夫は重要

─前期を終えて教育・研究にどんな課題が見えてきましたか?またその課題への今後の取り組みも教えてください。

笛吹:広島国際大では基礎的な日本語や数学的思考を育む初年次教育をアカデミックリテラシーと呼んでいます。そのオンライン授業についての学生アンケートで、昨年までの対面授業より評価が高く、満足度がアップしたことは意外でした。自身のペースで、繰り返し学習できることが理由です。ただし、オンライン授業に適応できていない学生も見られたことから、これらの学生に対するフォローが課題で、後期からはオンライン授業に対面授業を組み合わせたハイブリット型の必要性も実感しています。友達を作りにくく、孤独に陥るという問題については、今後できるだけ学生同士の対面の機会を増やすようにしていきます。ただ本学の特徴として地方からの学生の多くが学生寮をはじめ大学の近くに住み、寮や食堂で学生同士の“見えない交流”があるためか、それほど大きな問題になっていません。

オンライン授業における課題の多さは、全国的に指摘されているように本学でも学生アンケートから同様の傾向が見受けられます。適正な課題量については学習効果も踏まえて、今後検討していく必要がありますが、文部科学省の進める授業時間外学習増に合致し、学生が勉強は自ら進んでやるということに気付けた機会になったとも思います。課題が多いのは勉強の本来の姿でもあります。ただそうは言っても、個々の教員が自由に課題を出すのではなく、教育課程全体、学科全体で課題の量を調整する必要はあります。また、オンライン授業における教員の学生に対するフィードバックは非常に重要と考えていますが、教員の負担が大きいのも事実です。効率的なフィードバックの方法についても多くの事例から学ぶ必要を感じています。

伊藤:課題の多さの問題は摂南大でも全く同じです。課題を多くせざるを得ない原因の1つは、授業の開始が遅れたことです。短期間で15週分の授業を行い、しかも教育の質を維持するためには、学習時間や課題の量が従来よりも大幅に増加してもやむを得ません。学生同士で気軽に教え合うことが難しかったことはストレスの要因にもなったと考えられますが、自分1人の力で勉強をする本来の姿に戻って、中身の濃い学習ができた面もあります。学生からの問い合わせは、当初はTeamsのチャット機能を許可しましたが、その後11月までは私的な利用を避けるために不許可とし、メールや個人間のLINEなどを利用してもらいました。学生からの問い合わせは、課題の提出間際、夜間の時間帯が多かったですが、ほとんどのケースで意思伝達は行われていました。オンライン授業のメリットは、動画であれば繰り返し視聴ができ、時間の制約を受けず自分のペースで学べること、自宅で学習ができることがあります。デメリットは課題の多さの他に、学習のペースがつかみにくい、集中力が続かない、生活のリズムが乱れる、質問がしにくい、孤立感を感じるなどがあります。摂南大生のアンケートでは全体的にオンライン授業の満足度はそれほど高くはありません。ただし、オンライン授業に慣れてきた現在は少し変化があるかもしれません。教員からのフィードバックについては、当初は試行錯誤しながらの授業運営であったことから、十分にできたとはいえません。後期からは、シラバスに「連絡手段」を掲載したことや、個別に連絡ができるチャット機能を利用できるようにしたことで、前期よりも改善が進んでいます。

学生の孤立感の問題に関しては、摂南大では授業開始の早い時点から、実験・実習科目で対面授業を開始し、ゼミ科目も対面授業に切り替えたこと、実家からオンライン授業を受ける学生もいたことなどから、大きな問題にはなりませんでした。また学長の「学生を1人にしない、誰一人として置き去りにしない」の方針が教員に浸透していたので、2週間に1回は各学生に教員が連絡を取ることを続けたことも良かったと思います。



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                  授業風景・摂南大



井上:大阪工大の学生アンケート(8月末)では、実験・実習は対面で、それ以外はオンラインを望む学生が5割以上でした。オンライン授業のメリットは「自宅で学習できる」「自分のペースで学習できる」「復習が何度もできる」が多かったです。通学に時間を取られ時間割に縛られる平時の学習に比べて、通学時間を他のことに使え、1日を自分のペースで過ごせることが大きいと考えます。課題の多さの不満はありますが、きっちり解答している学生が多く、例年より成績が上がっていると感じている教員も多いです。他方、デメリットとして「勉強のペースがつかみにくい」と回答した学生が多くいました。オンライン授業と対面授業のどちらも利点・欠点があります。今回の経験で教員、学生双方に定着した感のあるオンライン授業を今後どのように活用していくかが重要です。課題の量は当初から想定はしており、教員には過度な課題を課さないよう事前に周知しました。申し出のあった学生に対しては、各担当教員に配慮いただくように通知をしました。本学でも、教員のフィードバックが不十分との学生からの指摘はあり、教務課や各学部からも善処のお願いをしました。

ストレスの問題は全体ではそれほど大きな問題にはなりませんでした。ただ、多くの課題に追われストレスにより体調を崩す、という訴えもありました。

自立心、歴史意識、しなやかに生きる力

─この状況から学生に学んでほしいことは何ですか?

笛吹:学生自身がより自立的な行動を心掛ける必要があります。これを乗り越えることで、時間管理や学習管理の能力がつくことを認識してほしいです。また、オンライン授業ではある程度自由な時間が増えるので、課外活動やボランティアなどで大学内では学べないことを学ぶチャンスにしてほしいです。

伊藤:最近の四半世紀には、阪神淡路大震災、東日本大震災、原発事故、異常気象と大きな異変が続いています。コロナ禍という全世界的、歴史的なことを体験することで、私たちが歴史の中で生きているといった事実に目を向けて成長してもらいたいです。

井上:自身を律することや、時間の有効な使い方、予測困難な時代をしなやかに生き抜くカをつけてほしいです。また、特に工大生としてはAIやICTを活用したものづくり手法を考えるチャンスにもなるはずです。



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                  就職相談・大阪工大



今後に活用できるオンライン授業で培った技術

─各大学ならではという特徴的な取り組みはありましたか?

笛吹:広島国際大は医療系ということで福祉施設や病院などの利用者を相手にする職業に就く学生が多いです。そのため教員が感染症対策についてのビデオ教材を作成し、授業の中で自身が感染源とならないことの大切さを伝えました。学生の意識も高まり、これまでとは違う学生が育つのではと期待しています。

伊藤:摂南大学長は、コロナ禍で培ったICT技術をAfter コロナ時代の対面授業に生かすように教員に強調しています。具体的には、オンライン授業用に作成した動画教材による反転授業や事前学習、Moodleによる小テストの実施・採点、課題の回収の自動化、Teamsによるアンケートや小テスト作成などの資産を活用することです。

井上:先にも述べましたように大阪工大は早期に実験・実習の対面授業を再開しました。後期の対面授業に生かせる前期のオンライン授業での取り組みについて教員にアンケートを取り、11月に開いたオンデマンドでのFD(Faculty Development)セミナーで3人の先生に参考になる取り組みを発表してもらいました。未完成ノートによる板書型オンライン授業や携帯電話を使った授業支援システム「Cラーニング」、オンライン反転授業などで、全教員に共有しました。

少人数化のクラス分けや座席指定実習先の確保・調整には課題も

─対面授業を再開し、感染対策など工夫していることなどを教えてください。また病院や企業での実習の課題はありますか?

笛吹:広島国際大では、座席表の作成、座席指定、2クラスに分けての授業、オンラインと対面授業の交互実施などを行っています。実習科目はオンラインでは教育に限界があり、対面の重要性を痛感しました。対面での実習にあたっては、普段からの体調管理とともに、クラス分け、時間帯や日にちの分割で少人数化を図っています。また、病院や施設などの実習にあたっては、学内での感染者を出さないように細心の注意、指導を行っています。新たな実習施設の開拓に苦労をしており、自前の施設や提携病院などの必要性を感じています。

伊藤:対面授業の実施では摂南大も、マスク着用、アルコール消毒など基本的なことを徹底しています。また、収容定員に余裕のある教室を配当し、原則座席指定で授業を実施していますが、今後、完全対面授業に移行していく中で教室の確保は大きな課題です。ウェブカメラなどを購入して、授業のリアルタイム配信ができるよう対策を進めていますが、オンライン授業に対応した教室のAV機器の整備は喫緊の課題です。病院や企業での実習の課題は、学生自身がウイルスを実習先に持ち込まないことが大切で、実習予定の学生には早い段階でアルバイト、カラオケと会食を禁止し、体調と行動を記録するなどの制限をかけました。また感染者が増えてきて、少しずつ受け入れを中止する病院が増えています。実習の学習効果が低下した分を教員は学内実習などでの教材や授業の工夫で補っています。

井上:大阪工大では前期に全学で37%だった対面授業が、11月15日には89%になっています。感染対策としては、一般教室での対面授業は、最低限、試験座りの収容人数に制限しています。キャンパス内各所に非接触体温計の設置を進め、グループワークを想定した教室などに飛沫防止パーテーションを設置するなど、細心の注意を払っています。教育実習でも延期要請がありました。本学では教育実習の中止こそなかったものの期間短縮により、不足する時間数を大学が教育実習に替わる授業の代替措置を行うこととなりました。また、今後もこのような状況が続くことを想定し、受け入れ先との調整が必要です。



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                  授業風景・広島国際大



─コロナという新たな社会の危機に直面して、ものづくりを標榜する大阪工大ができることはありますか?

井上:人口減少とWithコロナの時代に、AIやICTなどを使ったものづくり、生産性向上が求められ、人を使わずにものを作る技術が要求されていきます。そうしたことを意識して学生や教員も教育や研究を推進していかなければいけません。


─薬学部や看護学部を設置する摂南大が、コロナ時代の社会に貢献できることはありますか?

伊藤:薬学部、看護学部の出身者の多くは最前線の医療現場で日々、このウイルスと戦っています。私たちはそれを誇りに思うとともに、今後もそのような人材を輩出していくことに強い使命感を持っています。


─医療・福祉の専門職を目指す広島国際大の多くの学生にこの状況だからこそ活動してほしいことは何ですか?

笛吹:世界的な感染症のまん延という現実に直面し、自ら感染症対策を実践していることは、健康・医療・福祉分野の各専門職を目指す学生にとっては貴重な経験で、本学のタグライン「いのちのそばに。ひととともに。」を実感できたはずです。今一度、人を思いやる心をもった行動や情報発信を社会、特に医療弱者や若者に向けて行ってほしいです。

コロナ禍における中学・高校の取り組み

ICT 教育の推進が奏功  ~常翔学園中学校・高等学校~

常翔学園中高では、4月から一部オンライン授業を開始し、ウェブ会議ツール「Zoom」や学習支援クラウドサービス「Classi(クラッシー)」などを使い授業を進めました。同時に、教育イノベーションセンターの若手教員が講師役となりシステムの使い方を指導するなど教員全体のスキルアップを図りました。その結果、5月中旬には全授業のオンライン化を実現。生徒は、通常の授業と同じように自宅で学習を行うことができました。

同校では、2017年度から1人1台のタブレット端末を配付しており、早くからタブレット端末を活用したICT 教育に取り組んできました。全生徒がiPadを所持し、コロナ禍以前から多様な学習ツールを活用する環境が整っていたため、休校期間中の授業も迅速に対応することができました。

また、高校2・3年生のクラス保護者会もオンラインで開催。これまで保護者には学校まで出向いてもらっていましたが、自宅や出先からでも参加が可能となり、「出席しやすかった」「気兼ねなく質問できた」と好評でした。

田代浩和高校教頭は、今後は教室でもICT 化が加速していくだろうと予測。ただ、「学校は人とのかかわり合いの中で学びや気付きを得る場でもあります。オンライン・対面それぞれのメリットを生かした教育を展開したい」と話します。

生徒ファーストで学習面以外もサポート  ~常翔啓光学園中学校・高等学校~

常翔啓光学園中高では、4月に課題やレジュメなどを郵送して自宅学習を促し、5月からMicrosoft Teamsを活用したオンライン授業をスタートしました。前例のない授業形態でしたが、アンケートでは「動画は繰り返し確認でき復習しやすい」と多くの生徒から好評でした。登校再開後のテスト結果も例年とほぼ変わりなく、オンライン授業について一定の教育効果を上げることができました。

また同校は、生徒のメンタルヘルスにも留意し、さまざまな配慮を実施。実技を伴う科目を含め、全科目でオンライン授業を実施し、始業時刻の8時20分にはシステム上で点呼を行うなど、生活リズムが崩れないよう工夫しました。また、担任はこまめに生徒へ電話連絡し状況の把握に努め、更にスクールカウンセラーによるお知らせも発行回数を増やしました。この他、例年保護者が来校して実施していた高校3年生対象の進路ガイダンスをオンラインで実施。おおむね好評であったことから、今後は来校型とオンライン型での実施を検討しています。

コロナ禍における授業対応の指揮を執った山田長正高校教頭は、混乱した4・5月を振り返り、「いつも以上に『生徒のために』という思いで教員全員が一枚岩となり、例年通りのカリキュラム進度を維持できたことは大きな収穫でした」と振り返りました。

井上 晋(いのうえ・すすむ)
伊藤 譲(いとう・ゆずる)
笛吹 修治(うすい・しゅうじ)


Withコロナの大学生活


山本 尚さん
大阪工業大学 機械工学科1年

思い描いていた大学生活にやっと近づく
入学早々キャンパスが閉鎖され、プロジェクト活動への参加など、思い描いていた大学生活を送れなかった山本さん。履修登録や奨学金申請などの連絡はポータルサイトからのみと、いまひとつ大学のルールが分からない状況の中で大学生活が始まりましたが、「オンライン授業は意外とスムーズで分かりやすく、授業の動画は何度も見直すことができて勉強しやすかった」と明るく語ります。本来であれば往復約2時間かかる通学時間を有効活用し、オンライン授業で出される課題に取り組む時間に充てました。
前期にはゼミで2回登学する機会があり、「同学年のゼミ生と知り合ったり、先生と初めて対面したりと大学生になったことを強く実感できてうれしかったです」と振り返ります。後期からは対面授業が再開され、「授業の理解度が深まり、充実した大学生活を過ごしています」と目を輝かせました。

塚原 彩紗さん
摂南大学 外国語学科3年

夢見た海外留学が中止に今あるチャンスを最大限に生かす
高校時代は外国人観光客にガイドを行う部活動に所属し、大学では海外留学を夢見て外国語学部に進学したという塚原さん。入学後は留学資格を得るためにTOEIC や授業にも熱心に取り組みました。留学先は、アマゾンやマイクロソフトなどの名だたるグローバル企業が本社を構える米国ワシントン州のワシントン大学を希望。見事留学条件をクリアし、4月からの留学が決定していました。手続きもすべて済ませ、渡航を待つだけという段階で新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、2月下旬には留学中止の連絡を受けました。
当時は悔しさのあまり涙したという塚原さんですが、今は気持ちを切り替え大学のあらゆる語学プログラムに積極的に参加しています。「語学の上達方法は留学だけじゃない。英語を話すチャンスを見つけてどんどんチャレンジしたい」と意欲的に活動しています。

石原 光太郎さん
広島国際大学 リハビリテーション学科1年

人生初の一人暮らし人との触れ合いを大切に夢の実現を目指す
一流選手らをサポートできる義肢装具士になりたいと、沖縄から広島国際大に進学した石原さんは、学生寮に入居し、人生初の一人暮らしを始めました。入学当初はすべての授業がオンラインとなり、多くの人と触れ合いたいと思い描いていた大学生活とはなりませんでした。
前期は課題も多くレポートの作成に追われました。オンラインでは質問もしにくく、「正直、目的も分からないまま、ただこなしているだけでした」と振り返ります。実技の対面授業が始まり、ようやく大学で学ぶ実感を持った石原さんは、「今は、先生方から濃いアドバイスを受け、学生同士で目標を共有しながら楽しんで学んでいます」と笑顔を見せます。コロナ禍で人とのかかわりの重要性を強く実感した石原さん。「遠い沖縄から進学させてくれた両親に感謝しながら夢を実現したい」と力強く話しました。