学園広報誌「FLOW」:東京五輪 x 「Team常翔」

リオの道路渋滞緩和へ日本のシステム売り込みで悪戦苦闘

2000年以降ブラジルは経済の発展に伴い、自動車市場も急速に拡大。2012年には新車販売台数が380万台に達して世界第4位の市場になりました。車両台数の急増は都市の交通渋滞、環境悪化など大きな問題を引き起こします。特に今年オリンピックとパラリンピックが開催されるブラジル第2の都市、リオデジャネイロ市は都市圏人口1100万人を抱える中で、多くのオリンピック観戦の観光客の来訪が予想され、交通渋滞解消が急務とされています。都市計画学や交通計画学を研究する大阪工大都市デザイン工学科の山口行一准教授は、かつて日本の渋滞緩和システムを提案するためリオ市に何度も足を運びました。

PROFILE
大阪工業大学 工学部都市デザイン工学科  
山口 行一
 准教授

1994年徳島大学工学部卒業。1997年同大学院工学研究科博士前期課程修了。同年徳島大学工学部助手。2005年国土交通省国土技術政策総合研究所研究官。2008年三菱総合研究所研究員。同年英国University College London、Bartlett School of Planning博士後期課程修了。2012年から現職。神戸市みちの懇談会委員、京都市建設局総合評価方式に係るアドバイザーなども務める。Ph.D。大阪府出身。

リオデジャネイロ市の交通渋滞はひどいと聞いています。

山口

少しの雨であちこちに冠水が起こり、ちょっとの距離を通過するのに何時間もかかるということも珍しくありません。急峻な山々や多くのビーチが道路整備の障害にもなっています。ラテン民族の気長な気質もあってか、それでも人々は車を利用します。時間帯によって車線を大幅に増やしたりすることもしていますが、なかなか問題解決につながりません。

渋滞発生のメカニズムを教えてください。

山口

道路1車線を自動車が1時間当たりに通過できる最大台数は約2000台です。これを交通容量と呼びますが、これよりも多い台数の自動車が通行しようとすると渋滞が発生します。渋滞発生は一般に、高速道路では交通容量に対して自動車の超過割合が十数%、一般道なら数%であることが分かっています。渋滞時は、ものすごい交通量が特定の道路に集中しているように思いがちですが、意外に小さな容量超過で渋滞は発生するのです。

日本の企業連合でアピールドイツやスペインとの国際競争

リオデジャネイロ市に提案したシステムを教えてください。

山口

三菱総合研究所の研究員だった2011年のことです。リオ市は2014年のサッカー・ワールドカップや2016年のオリンピックとパラリンピックの開催を控えていました。国外からの選手団や観光客の円滑な輸送のため、的確な道路交通情報の提供は必須の課題とみて、パナソニックやNEC、豊田通商と組んで日本方式の道路交通基盤システムを売り込む活動を行いました。三菱総合研究所はコーディネーター役で、私はシステム導入に向けた検討やブラジルの関係機関の幹部らとの交渉に当たりました。

自動車を運転する際、カーナビから主要道路の渋滞状況や交通自動車を運転する際、カーナビから主要道路の渋滞状況や交通テム「VICS(ビックス)=Vehicle Information and Communication System」です。提供される交通情報によって少しのドライバーが渋滞区間を避けてくれれば渋滞緩和につながります。日本では1996年から導入されました。渋滞緩和だけでなく二酸化炭素削減という効果もあります。

リオ市に提案した道路交通基盤システムはVICSより進んだもので、自動車をセンサーとみなし、その車両の走行データなどの「プローブ情報」を中央の交通管制センターに集めて処理し、交通渋滞の発生状況や走行車両の位置情報として提供するシステムです。自動車がセンサーとなるので、細い街路の交通状況も収集できます。精度の高い交通状況の予測なども可能です。治安が悪いブラジルでは、盗難車両の追跡にも応用が可能です。

競争相手はいたのですか。

学生を指導する山口准教授学生を指導する山口准教授

山口

もちろんいました。ブラジルのインフラ需要は膨大で、競争相手国は官民一体で挑んでくるところもありました。交渉や調整は、ブラジルの通信省やスポーツ省、大統領府、リオ市などと行ったのですが、大きな枠組みにおいて協力関係を明確化しておいた方が良いと考え、リオ市交通局と日本の総務省で覚書まで締結してもらいました。ドイツやスペインもシステムを売り込んでいたようです。どれもGPS(全地球測位システム)を利用する点では変わらないのですが、日本以外はドライバーが携帯端末さえ持っていればいいというものでした。ただし利用すれば金銭的な負担が発生します。日本のシステムは、データ収集の路側機設置などで初期投資がある程度必要ですが、技術的にも優れており、システムが稼働し始めると利用者に金銭的な負担がない点が他の提案との大きな違いです。

タクシー100台を使って実験技術の優秀さを実証

現地でデモンストレーションの実証実験をされたのですね。

山口

2012年の1月から2月にかけてリオ市内で1カ月間の実験をしました。タクシー100台にセンサーとなる車載器を取り付けて、路側機で交通情報を収集し、センタサーバーで処理を行いました。日本から持ち込んだ実験システムは無事に作動し、交通渋滞の発生状況などの情報を作成・提供できることを確認しました。市の担当者は高く評価してくれました。

それならすんなりと日本のシステムが採用されたのですか。

渋滞緩和のためラッシュ時は車線を全て一方向にするリオデジャネイロ市内の道路(山口准教授撮影)渋滞緩和のためラッシュ時は車線を全て一方向にするリオデジャネイロ市内の道路(山口准教授撮影)

山口

市の幹部は、採用するかどうかの言質を取られないように慎重でした。初期投資がかかるということがネックであったかもしれませんが、それ以外の要因もあったようです。パナソニックやNECの駐在員の方が「ブラジル人との交渉は一筋縄ではいかないよ」と言っていた通りでした。昨年、インドネシアで日本の新幹線の売り込みがうまくいかず中国の企画が採用されましたが、海外での市場開拓の交渉は単に技術的に優れているというだけでは決まらないのです。公表するのが難しい要求があることも珍しくありません。結局、いまだにどこのシステムを採用するか決まっていません。

2020年に向けて東京の交通課題はありますか。

山口

国土技術政策総合研究所や三菱総合研究所では関東の道路整備や渋滞緩和策にも携わっていました。都内の道路事情には精通しています。東京はコンパクトなエリアに競技会場が集中するので、近距離の輸送効率を上げる必要があります。そのため地下鉄の延伸やBRT(バス高速輸送システム)の計画などがあるようですが、整備の方向性で大きな問題があるとは思いません。

都市の構造解析の手法の一つに、空間のつながり方によって人の動きも異なるという考え方に立脚した「スペースシンタックス」というロンドン大学で生まれた手法があります。私の研究室では、まちのにぎわいを創出する施策を、この手法を取り入れて研究しているのですが、東京オリンピックにかかわるまちづくりや交通改善施策の検討に適用しても面白いかもしれませんね。

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