学園広報誌「FLOW」:東京五輪 x 「Team常翔」

「栄養・食習慣」の分野からスペシャルオリンピックスを支え
知的障がい者の社会参加を応援

健常者のオリンピックと同じように、知的障がいのある人たちが参加するスペシャルオリンピックスが開かれています。広島国際大医療栄養学科の高尾文子教授は、ヘルシーアスリートプログラムクリニカルディレクターとしてアスリートたちをサポート。管理栄養士の立場から食習慣の改善点を指導し、知的障がい者の社会参加を応援しています。

PROFILE
広島国際大学 医療栄養学部 医療栄養学科  高尾 文子  教授

1977年大阪市立大大学院生活科学研究科前期博士課程修了。1998年から広島国際大へ。
スペシャルオリンピックスのヘルシーアスリート・ヘルスプロモーション部門クリニカルディレクターを務める。薬学博士、管理栄養士、生活習慣病予防指導士。福岡県出身。

アスリートの食生活を調査し、健康・体力増進をサポート

スペシャルオリンピックスで知的障がいのあるアスリートをサポートされているそうですね。

ピラミッド型の食事指導の模型(2007年世界大会・上海<中国>)

高尾

障がいのあるアスリートのオリンピックというとパラリンピックが知られていますが、スペシャルオリンピックスと聴覚障がい者のデフリンピックも開かれています。スペシャルオリンピックスは、知的障がい者の自立と社会参加が目的です。競い合うというより、日常的なスポーツプログラムや成果の発表の場としての競技会で、出場を楽しむものです。国際的な組織があり、夏季と冬季に国内・世界大会が開催されています。

私は2006年に熊本県で開かれた夏季国内大会から、ヘルシーアスリートプログラムクリニカルディレクターとして、アスリートのヘルスプロモーションに携わるようになりました。ヘルシーアスリートプログラムでは、知的障がい者の特性を理解した言語聴覚士、理学療法士、検眼士、栄養士、医師、歯科医師などがボランティアとして参加し、①足のケア②身体の柔軟性やバランス③聴力④栄養・生活習慣⑤視力⑥口腔の6部門での健診や教育を行います。例えば目の健康状態をチェックして視力補正眼鏡を提供するなど、いろいろな面から改善すべき点を複数の専門家が一緒に考えていきます。

私が担当しているヘルスプロモーションでは、競技会で実力を最大限に発揮できるよう、アスリートとそのコーチや家族から日ごろの食生活や生活習慣をヒアリングし、食の面から運動能力向上、健康や体力増進をサポートします。

具体的にはどのような調査や測定をされているのでしょうか。

アスリートの健康増進に向けた骨密度測定(2013年世界大会・平昌<中国>)

高尾

開催県の栄養士会の協力のもと、ヘルスプロモーションでは4つ目の「栄養・生活習慣」の状態を聴取したり、身長や体重測定に加えて、日ごろ測定機会の少ない骨密度や体脂肪率の測定を行います。知的障がいのタイプはダウン症や発達障がいなど起因するものによって異なりますが、日本栄養士会の調査によると、染色体異常による知的障がい者は、全対象障がい者より低身長・低体重にもかかわらずBMI(肥満度)は全対象者の数値より高いことが判明しています。その背景として、通所授産施設群は毎日お菓子を食べている人が、またグループホーム群の男性は炭酸飲料や砂糖入りの飲料を飲んでいる人がそれぞれ多く、さらに間食と夜食の両方を食べている人はBMIが高いことが分かっています。極端な偏食や安易に食べられるものを口にする傾向が栄養を偏らせ、満腹感が得にくいことがあります。また、運動不足などさまざまな原因から、体の異常が異常食へと偏らせ、それがますます体の異常を引き起こしていく悪循環もみられます。

偏食、過食による肥満は、運動能力、健康に支障を来すだけでなく、糖尿病や心臓疾患のリスク、骨密度の低下も招いてしまいます。とりわけ骨粗しょう症はダウン症の成人に頻繁にみられる病気なので、骨密度検査で結果が基準値を下回る方には受診を進めています。加えて喫煙などの生活習慣を聴くほか、スポーツ活動中の日焼け防止や水分補給の必要性なども指導します。

ヘルスプロモーションですから、本当は継続的なかかわりが望ましいのですが、ボランタリーな活動には限界があり、大会期間のみで終わってしまうのが残念なところでもあり、今後の課題でもあります。大会開催の半年以上前から実施・運営まで携わっており、物資の取りまとめやスタッフの動員など準備期間から忙しくしています。

ただ、アスリートの生活環境や生活習慣が変われば、生活の質(QOL)は向上します。スペシャルオリンピックスをきっかけに自立と社会参加を促進し、健やかな人生を送れるようにすることがヘルスプロモーションの究極の目的です。以前、自閉症児の食生活調査をしたことがあるのですが、自閉症児は感覚過敏やこだわりから偏食になる子どもが多く、親御さんもどのように育てていけばいいのか悩んでいる方が少なくないんですね。ですから、スペシャルオリンピックスのような機会がその後の生活に役立ってくれることを願いながら活動を続けています。

多様な個性を持つ人たちとの触れ合いには学びが多い

学生のボランティア参加もあるそうですね。

高尾

今年11月1日~3日に開催された「第6回スペシャルオリンピックス日本夏季ナショナルゲーム・福岡」に、3人の学生ボランティアが参加しました。この春入学したばかりの本学部の1期生です。知的障がい者との触れ合いを通じて、適切なコミュニケーションでアプローチすることの大切さを学んでほしいと思っています。

例えば知的障がい者は抽象的なものを理解することが困難なため、イラストを使って指さししたり、簡単な言葉を使ってアスリートが答えやすくなるようにしなくてはなりません。パンや牛乳、野菜などの形をした栄養モデルを見せて、朝食に何を食べたかを聞き、食べたもののモデルをトレーに乗せると栄養価が出てくる「SATシステム」を使用します。また、靴を脱いで骨密度を測ると、そのまま靴を忘れていってしまうアスリートもいます。ですから、アスリートと一緒に会場を回り、聞くべきことを聞くサポーターの役割を学生たちに担ってもらいます。ヘルシーアスリートプログラムのヘルスプロモーション部門をこなすだけでも時間が掛かります。集中力が切れてしまうアスリートも出てくるので、彼らがリラックスしてすべてのプログラムを終えられるよう、前向きな言葉を掛けながら一緒に会場を回っていきます。

障がいのある人たちとのサポートを通じて、コミュニケーションの工夫を学んでいくわけですね。

高尾

学部の早期体験実習で重症心身障がい児(者)施設へ行った学生から、「今まで全く知らなかった世界でした」という感想がありました。ひとくちにダウン症や発達障がいといっても、一人ひとり障がい特性の表れ方は違っていて、日ごろ接する機会がなければ戸惑うことの連続でしょう。老若男女を支援の対象とする管理栄養士は、コミュニケーション能力がなくては務まらない資格ですから、百人百様の個性を持つ人たちとの触れ合いを通じて、相手を理解するとはどういうことかを知ってほしいと思います。障がいのある人たちも、若ければ食生活と運動によって健康状態を改善できる余地があります。そこにどのくらい本学部の学生が携わり、力を発揮できるの か、学生たちのこれからが楽しみです。

メインコンテンツに戻る

Copyright © Josho Gakuen Educational Foundation,2015.All Rights Reserved.