学校法人 常翔学園

学園広報誌「FLOW」ニューウェーブ

サッカーの進化するゲーム分析手法
見えない指標を浮き彫りに

広島国際大学 保健医療学部 医療技術学科   菅 輝   准教授

菅 輝 准教授:広島国際大学 保健医療学部 医療技術学科

PROFILE
かん・あきら 1990年広島大学教育学部教科教育学科体育教育学専修卒。1993年同大学院教育学研究科博士課程前期教科教育学専攻(保健体育科教育)修了。1998年広島国際大学臨床工学科講師。2006年同助教授(2007年准教授)。2013年から現職。広島県大学選抜チーム監督や中国・四国大学選抜チームコーチなどを歴任。2009年大学サッカーの地域別対抗戦の第23回デンソーカップチャレンジサッカー南さつま市大会の中国・四国選抜監督として全国2位。2011年山口国体サッカー成年男子の広島県監督として全国3位。公認サッカーA級コーチジェネラル、日本体育協会公認上級コーチ、全日本大学サッカー連盟理事。教育学修士。岡山県出身。

サッカーの2018FIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会が来月いよいよ開幕し、1カ月(6月14日~7月15日)にわたり世界を熱狂の渦に巻き込みます。日本代表の活躍も期待される中、大会直前の4月になって急きょ日本代表監督が交代し、さまざまな憶測を呼びました。戦績や選手との関係はもちろん、戦術の巧拙が問われる監督ですが、その戦術を構築するためには正確なゲーム分析が不可欠です。広島国際大サッカー部監督の菅輝医療技術学科准教授は、 21年前に3次元画像解析法「DLT法( Direct Linear Transformation Method)」を用いたサッカーの新しいゲーム分析方法を研究者3人の共同論文として発表しました。2台のカメラを使った3次元映像で選手やボールの動きを正確に分析できる方法で、今ではラグビーやバスケットボールなど他の球技の分析にも広がっています。菅准教授にDLT法を使ったゲーム分析やその面白さ、難しさについて聞きました。

バイオメカニクスを応用

かつてサッカーの試合で選手個々の動きを記録するために、選手1人に1人の記録係をつけて試合中の動きを記録していました。つまり全体で22人の記録係が必要な人海戦術でした。ビデオカメラが登場してからも2次元画像ではフィールド上の正確な動きを記録することはできませんでした。

そこで私たちは人間の運動機能を計測し解析・数値化するバイオメカニクス(生体力学)の手法を応用できないかと考えたのです。今流行のモーションキャプチャを思い浮かべると分かりやすいですが、手足の関節など主なポイントの動きから人間の動きをデジタル化する手法です。この手法を応用しサッカーのフィールドを人間の体ととらえ、選手1人1人を体の関節などのポイントと見ることにしたのです。2チーム計22人の選手にボールを加えた23のポイントの動きをビデオカメラで計測するのです。

DLT法を使ったゲーム分析の流れ
DLT法を使ったゲーム分析の流れ

別方向からのビデオカメラ2台で撮影、3次元空間座標に選手らを表示

ビデオカメラの配置とキャリブレーション点
ビデオカメラの配置と
キャリブレーション点

キャリブレーション風景とビデオカメラの配置位置・アングル
キャリブレーション風景と
ビデオカメラの配置位置・アングル

別の方向から配置し同期させた2台のビデオカメラを使うことで3次元画像解析が可能となります。ゲームの撮影とは別にフィールドの要所要所にポールを垂直に立てて撮影し3次元の空間座標をあらかじめ確定します(キャリブレーション)。それにゲームの映像をパソコン上で重ね、3次元計測ソフトで補正・解析することで選手やボールの位置を3次元の座標点( x、y、z)として正確に表示できるのです。画像は1秒間に3、4コマで選手とボールの23ポイントを90分間追跡するので1ゲームだけでもビッグデータです。

ボールや個々の選手の移動距離、移動スピード、特定のプレー時の位置、選手間の距離などが正確に分かります。ゲーム中に時々「なんとなくうまくいったな」と感じるプレーがあります。以前は根拠がはっきりしないまま終わることが多かったのですが、この分析方法を使うとそれがどうしてうまくいったのかを後からデータとして検証できます。チームの状態を客観的に “診断 ”できるのです。ボールの動きが縦方向と横方向のどちらが多いか、どのエリアに行くとボールの動きが速くなるか、右サイドと左サイドとではどちらでチャンスが生まれやすいかなど、チームの “癖 ”、長所、短所を示してくれます。その結果、戦術の変更や修正につながります。

チームの密集度合や広がり度合も一目で

また、以前は見えていなかった指標が分かってくるということもあります。例えば、チーム全体の動きとして11人の作る多角形の面積を出すと密集や広がりの度合が分かってきます。その“重心”を計ることでフィールドのどのエリアに選手が偏っているかなど、ゲームの戦術を考えるために役立つ客観的な数値が得られるようになりました。監督が独自の視点で分析するための新たな指標が欲しければいつでも出すこともできます。逆に言うとこれからは膨大なデータを使いこなし、「何が大事な指標か」を判断する監督や指導者の力量や観点が問われてくることにもなると言えます。

どんな指標が大事かは、今後だんだん固まってくると思います。選手のスピード、移動距離、フォワードの選手と敵のディフェンスの選手の距離、他のサポートする選手との距離などの指標を、試合中にいかに早くチームに還元できるかが今後の課題です。前半が終わってハーフタイムにそれを示して後半に生かせるようにしたいですね。また将来、蓄積された試合のデータを人工知能(AI)に学習させて、ボールを受けた選手に多くの選択肢から最適な動きを指示させることも可能になるかもしれません。

黄色の線は両チームの重心間距離で、両チームのフィールドの縦方向(図の左右)への対応度合いを示す。●はボールの位置。ボールを保持する●チームの攻撃に対して、■チームの守備の右サイド(図の下側)への対応が遅れていることが分かる。

黄色の線は両チームの重心間距離で、両チームのフィールドの縦方向(図の左右)への対応度合いを示す。
はボールの位置。ボールを保持する●チームの攻撃に対して、□チームの守備の右サイド(図の下側)への対応が遅れていることが分かる。

トレーニングに変化も

私はサッカー部監督や国体の広島県選抜の監督などサッカー指導の長年の経験があります。このゲーム分析を取り入れるようになって指導者としてのサッカーの見方が変わり、ゲーム全体をイメージしやすくなりました。個々の選手のテクニックに頼りすぎないで、ディフェンス、中盤、フォワードの3つのラインをどう連携させればいいかなどを重視するようになりました。また、個のトレーニングだけでなく、3つのラインの連携トレーニングが増え、選手には戦術のトレーニングにもなっています。

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