竹花 治紀さん(左)福本 考生さん(右)

小島 一憲さん

ソフトバンク「テクニカルマイスター」

システム開発で重要なユーザー視点
短期間で形にすることが満足度高める

FLOW No.92

常翔学園の設置学校に在籍する学生、生徒、教職員が各界の“一流人” と語り合う「クロストーク」。第6回はソフトバンクで突出した知識やスキルを持つトップエンジニアと認められた「TechnicalMeister(テクニカルマイスター)」の1人で同社R&D課長の小島一憲さんに、大阪工大で情報科学を学ぶ竹花治紀さんと福本考生さんがデジタル社会の未来や子供たちへのプログラミング教育の大切さ、求められるリーダーの資質などについて聞きました。なお、このクロストークは、東京都港区竹芝エリアに昨年9月に完成したばかりの同社新社屋と情報科学部のある枚方キャンパスをつないでリモートで行いました。


竹花:今日はよろしくお願いします。Hirathon(ヒラソン)=*注=ではお世話になりました。私は大学院でAI(人工知能)のニューラルネットワークなどの勉強をしています。研究テーマは「雲の状態からのゲリラ豪雨予測」です。

福本:はじめまして。私はCGや画像処理の勉強をしています。まず、小島さんがなぜソフトバンクに入社され、現在はどんなことをされているのかを教えてください。

小島:私は大学では情報通信工学科でネットワークとセキュリティを学びました。2005年ごろは回線速度が遅くてインターネットはそれほど普及していませんでした。当時、孫正義さん(現: ソフトバンクグループ会長兼社長執行役員)が、「通信回線の速度を速く、安くしないと日本は世界に負ける」と熱弁していて、それに共感してソフトバンクに入社し、セキュリティ部ネットワーク課に配属されました。その後、10年間はI Tインフラの設計・構築を行い、現在はITインフラの研究開発部門のマネジャー兼エンジニアをしています。

*注【ヒラソン】情報科学部が枚方市役所、北大阪商工会議所と取り組む地域課題解決プロジェクト。ソフトバンクが協賛。健康、人材不足、防災・災害対応などの地域課題を公共オープンデータ(ビッグデータ)や地産地消データを活用し、データサイエンス的アプローチにより、アイデア創出のアイデアソン、システム開発のハッカソン形式で解決を目指す。教員やソフトバンクの社員の他、地元の企業・団体などの課題提示者が審査員を務め、「貢献度」「独創性」「完成度」「波及効果」「計画」の5項目について評価を行う。

広まるアジャイル開発の手法

竹花:ヒラソンで感じた疑問についてお聞きします。私は発表したシステム(ゲリラ豪雨予測)の規模が大き過ぎて、ステークホルダー(利害関係者)と納得して開発を進めるうえでどんな視点を押さえておくべきなのか分からなくなります。アドバイスをお願いします。

小島:現在、アジャイル開発という開発手法が広まっています。工程を1つずつ順に進める従来のウォーターフォール開発は設計から出来上がりまでに時間がかかり、ユーザーは最後の段階にならないと開発されたものの良さが分かりません。これに対してアジャイル開発は最初にプロトタイプ(試作モデル)を作り、ユーザーと議論を重ねながら何度も改良していきます。最初からある程度の形が見えているので、ユーザーの満足度が高いのです。ヒラソンなどのハッカソンでもステークホルダーが求めているのは課題の解決で、どんな技術を使っているのかにはあまり興味はありません。良きユーザーエクスペリエンス(ユーザー経験)が大切なのです。システム開発では、スモールスタートでまず形を作るのが理想で、私は2回作るつもりでやります。1回目はとにかく早く形にし、可視化します。「それは違う」と言われたら直していきます。最初からしっかり作るより、まずスピード重視で骨格部分を作るのが大事です。

竹花:目からうろこのお話で感動しました。次のヒラソンでは参考にさせてもらいます。

子供たちのプログラミング教育では「文法」よりものづくりの考え方を

福本:私は小学生にプログラミングを教える活動に参加しています。小島さんは『SoftKids』などのプログラミング教育で、子供たちに何を学んでほしいですか?

小島:多くの人がプログラミングを学ぶ時にソースコードの書き方という「文法」から入ります。これまでの英語教育に似ています。文法を学んでもなかなか話せるようにはならないように、プログラミングの書き方を学ぶより、そのプログラミングでどんなアプリを作りたいのかを明確にする方がプログラミングを学ぶ近道です。私たちは「ITのものづくり」の楽しさを子供たちに教えているつもりです。最初に「今日はこんなアプリを作ろう」と具体的なゴールを示します。まず自分たちが何をしたいか理解し、そのために何が必要か分解し、それぞれが作るものを分担しそれらを合わせて構築する、という考え方を子供たちに学んでもらいます。これはエンジニアリング思考です。

福本:次のワークショップではぜひ試してみたいです。

まだまだ課題が山積の5G エネルギー分野のブレイクスルー期待

竹花:5Gが注目されています。私にはそれをどう生かすのか社会全体のビジョンが見えないのですが、小島さんは5Gをどう見ていますか?

小島:大容量・低遅延・多接続という3つの売りがある5Gですが、まだまだ完全ではありません。リアルタイムの高速処理など課題は山積しています。完全な5Gが実現すれば、当たり前にバーチャルオフィスに接続する時代も来ると私は思っています。遮へい物が多いところに電波が届きにくいという弱点も指摘されていますが、アンテナ数を大幅に増やすことが計画され、車を基地局に利用するなどの研究も進んでいます。熊本地震の際にソフトバンクがバルーン状の気球を携帯端末用の基地局にした例もあります。やるべきことは多いのにIT人材はとても不足しています。

福本:自動運転の見通しはどうですか?

小島:日本の場合、道路の問題やタクシー業界の雇用問題などがあり、簡単ではないですが、スマートシティー(IoTなどを活用した新都市)や高速道路など限定的なエリアでの自動運転は現実的です。コロナ禍で学校のICT化が進んだように、何かがきっかけで劇的な技術革新が起きることがあります。私は次の技術的ブレイクスルーはエネルギー分野で起きるのではと思っています。バッテリーの長寿命化、無線による電力伝送、自然エネルギーの活用、などのアプローチが有望です。

福本:太陽光発電など自然エネルギー活用にはデメリットも議論されています。

小島:発電量の問題が大きいです。そのため太陽光パネルの発電量を高める研究や、透明化により住宅の窓ガラスとして利用できる太陽光パネルも開発されていますし、データセンターでは交流より効率の良い直流で電力を利用する試みも進んでいます。技術的なリスクもありますが、あるタイミングでブレイクスルーが起きて一気に伸びるのではと考えます。

リーダーに求められる「楽をしない」

福本:小島さんのような研究開発のリーダーに求められる資質を教えてください。

小島:多くの企業に管理職というマネジャーがいますが、リーダーとは別です。最先端の技術系の会社ではマネジャーが求められなくなっています。人に仕事をやらせるマネジャーに対し、リーダーは自分から仕事をして人を引っ張ります。私がリーダーに絶対必要と思う資質は「楽をしない」です。一番苦労するのがリーダーで、私は自分のチームのメンバーに「私がさぼっていると思ったら言ってくれ」と言っています。その時は自分から退く覚悟です。

竹花:最後に学生時代にやっておくべきことのアドバイスをいただけますか。

小島:一番勧めたいのは「友だちとよく遊べ」ということですね。自分の短所を改善することよりも、長所を伸ばすことを考えましょう。私も何回も失敗を繰り返してきましたが、失敗を恐れないでください。周囲の仲間も助けてくれます。さまざまな機会を使って何でも挑戦してください。大阪工大はヒラソンなどそうした機会を作ってくれる素晴らしい大学だと思います。

竹花・福本:今日は貴重なお話をありがとうございました。

<インタビューを終えて>

竹花 治紀さん/大阪工業大学大学院 情報科学専攻 博士前期課程1年:ヒラソンの経験を踏まえてから小島さんの話を聞いたことで、アジャイル開発が注目されている理由にとても納得でき大きな収穫になりました。

福本 考生さん/大阪工業大学 情報メディア学科3年:リーダーとして大事なものは私も見習っていきたいです。気球を飛ばして携帯端末用の基地局にしたり、無線での電力伝送などとても面白いお話を聞けたことに感謝します。

大阪工大枚方キャンパスのラーニング・ コモンズと東京・竹芝のソフトバンク新社屋をつないだリモート・トーク
Profile
小島 一憲さん 2005年ソフトバンクBB(現:ソフトバンク)入社。約10年間ネットワークエンジニアとして企画・設計・構築業務を担当。3000人を超える拠点、数千台規模のデータセンター構築、会社合併に伴うネットワーク統合を複数回経験。現在、同社IT 本部ITインフラ統括部IT 基盤技術研究室R&D 課 課長。同社トップエンジニアの称号「Technical Meister(テクニカルマイスター)」の初代認定者。2017年から、プログラミング教育への取り組みとして「SoftKids」をスタートさせ、子供向けプログラミング教室や教材開発にも力を入れる。サイバー大学にて「ネットワーク実践論」 講師、日本データセンター協会(JDCC)-NWWG プログラム委員、情報処理学会GN研究会運営委員を担当。

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