経済発展する親日国家、インドネシアの魅力とは

摂南大学 外国語学部 外国語学科   浦野 崇央   教授

浦野 崇央 教授:摂南大学 外国語学部 外国語学科

PROFILE
1987年摂南大国際言語文化学科卒。1992年広島修道大大学院人文科学研究科修士課程修了。1996年から摂南大へ。2012年から現職。東京都出身。

浦野教授らが開発したテキストなど

浦野教授らが開発したテキストなど

今年7月9日に大統領選挙が行われたインドネシアは、ASEAN(東南アジア諸国連合)の盟主として東南アジア地域の経済をリードする国の1つ。第二次世界大戦後から日本とのつながりが深く、多方面で友好関係を築いています。インドネシアの地域研究・社会学を専門とする摂南大外国語学科の浦野崇央教授に、現在の同国の社会情勢や国際的な位置付け、日本との関係などについて聞きました。

多民族国家の特長を生かし、多極外交を展開

インドネシアの人口は2億4000万人超で世界第4位、そのうち88.1%をイスラム教徒が占める世界最大のイスラム人口国です。第二次世界大戦中に日本が軍政を敷く前は、オランダが3世紀にわたり統治していましたが、独立後は特定の国と軍事同盟を結ばない非同盟主義を貫き、多極外交を展開しています。東南アジア10カ国から成るASEANの中心となる国であり、東南アジア地域の中心的な存在です。戦後はスカルノ、スハルトによる長期政権が続いていましたが、1997年のアジア通貨危機をきっかけに民主化運動が拡大し、独裁が終焉。2004年に同国初の国民による直接投票の大統領選でユドヨノ大統領が就任し、今日に至っています。

インドネシアでは、7月9日にジョコ・ウィドド=ユスフ・カラ組とプラボウォ・スビアント=ハッタ・ラジャサ組の2組による正副大統領選挙が行われました。一時は両候補が「勝利宣言」をするほどの接戦となりましたが、最終的にはジョコ・ウィドド(以下、ジョコ氏)が勝利し、10月20日に7代目大統領に就任します。

大統領となる、ジョコ氏は貧しい家庭に育ち、区画整理による住居立ち退きを幾度も経験。その苦い経験を生かし中部ジャワのソロ市長やジャカルタ州知事を務め、民主化と汚職対策などに積極的に取り組みました。一般市民と距離が近く、弱者に気配りの利く「庶民派」政治家と称されています。国政は未経験ですが、知事時代に培った実行力に対する国民の期待は大きく、今後、どのような政策に取り組むか、注視されています。特に内需成長にスタンスを置く同氏が、国際社会においてインドネシアの存在感をどれほど示すことができるのか、世界中が注目している点です。

多極外交が行われている背景には、国家スローガンでもある「多様性の中の統一」があります。国内に約300ほどの民族が存在し、700以上の言語が使われている多民族国家を1つの国としてまとめていくために、その多様性を特長として生かす政策を展開しています。単一民族を強調してきた日本とは対照的に、多民族、多言語、多宗教の中で、お互いを尊重していく社会を形成し、異教徒や異文化に対して寛容です。

日本との友好関係は戦後から一層深まりました。日本の敗戦後にオランダが再占領し、独立闘争が起きた際、その戦いを旧日本軍の有志が支援したことも親日となった一因と言われています。スカルノ時代には日本からの戦後賠償として経済援助がスタート。スハルト時代は「反共産主義、反中国路線」へ政治的転換したことにより、日本との距離がより近づいていきました。現在、日本はインドネシアにとって輸出入の両面で最大の相手国の1つであり、外務省による政府開発援助の主要な供与国でもあります。安倍政権はASEANを重視していることから、今後ますますパートナーシップが強くなるでしょう。

緩やかな経済成長が心の豊かさをはぐくむ

協定校のストモ博士大バクルル・アミック学長(左から4人目)、浦野教授(右から4人目)と留学中の摂南大生たち

協定校のストモ博士大バクルル・アミック学長(左から4人目)、浦野教授(右から4人目)と留学中の摂南大生たち

インドネシアがASEANの盟主となった背景には、近年の目覚ましい経済的発展があります。インド、中国に続くアジアの新興国で、株価は上昇し続けています。人口が多く市場として魅力があり、外資系企業がどんどん進出しています。イスラム系によるテロも沈静化し、戒律も厳しくはなく、西洋の価値観なども広く国民に浸透しつつあります。とりわけ日本企業のインドネシア進出は著しいですね。反日デモなどを懸念して中国から撤退した企業や、タイで発生した工業地帯の洪水の影響で活動がストップした企業が生産拠点をインドネシアへシフト。新しい工業団地は今や日本企業がひしめいている状態です。

その一方で、外資系企業に対して参入を規制し、自国の企業を保護する政策も展開しています。例えば日本の大手コンビニエンスストアが参入した際は、飲食店として事業免許を許可しました。店内や店先に購入したものを食べるイートインスペースを設けることを求めたのです。そのような政策によって緩やかな経済成長が続いた結果、貧困層の比率は減少し、全体の底上げが進んでいます。

私はインドネシアの中間層の生活風景をテーマに研究しています。現地のショッピングモールで最近の売れ行き調査をしたり、今求められているものを聞くなどして、中間層の人々の思いを探りながら日本との比較を行っています。だから、彼らの夢や願望は何かということに非常に興味があります。急激に経済成長した日本では、物質的には豊かになった反面、心は荒んでいきました。しかし、緩やかに発展を続けるインドネシアの場合は、バブル崩壊のようなリスクが低く、物質的な豊かさとともに心も豊かになっていくのではないかと予想しています。生活の安定によりに余裕が生まれ、精神面も落ち着いてくるからです。

インドネシアの若者に刺激をもらい、自分の可能性を広げよう

経済発展を象徴する首都・ジャカルタ市内の高層ビル群

経済発展を象徴する首都・ジャカルタ市内の
高層ビル群

もう1つの研究テーマは、インドネシア語のより効果的な教育カリキュラムの開発です。日本でインドネシア語を勉強する意義は何か、それを学ぶことでどうインドネシアに還元していけるのか。協定校とのより深いタイアップでカリキュラムの充実を図りたいと考えています。本学で開発したテキストは、協定校の教育を踏まえた内容になっていないため、協定校からみた改善点を加味して連続性のある教育が行えるようにしたいですね。

また、現在は語学教育がメ-ンになっていますが、それに加えて現地ならではの体験型学習も取り入れたいと考えています。例えばファームステイです。農村の人たちは英語が話せないため、インドネシア語でのコミュニケーションが必須となります。自ら考え行動し学習するアクティブ・ラーニングを通じて学生たちの意識改革を図り、チャレンジ精神を育てたいですね。

日本ではインドネシア語はマイナー言語ですが、それゆえの強みもあります。日本人の多くが学ぶ英語よりも、インドネシア語ならば日本一を目指せます。現に本学のインドネシア・マレー語コースは、卒業生の多くが現地で活躍しています。大使館で大使の通訳を担当していたのは本学卒業生ですし、日本のポップカルチャーが人気で、AKB48の姉妹グループであるJKT48の正式グッズ販売代理店を担っているのも本学卒業生が勤務する会社です。スペシャリストとなり、自分の夢を実現させる場としてもインドネシアはとても魅力ある国だといえるでしょう。

さらに国民の平均年齢が29.2歳(日本は46.1歳)と若く、街を歩けば若者が圧倒的多数。彼らも日本と交流して新しい文化をつくっていくことを望んでいます。エネルギーあふれるインドネシアと、これからのパートナーシップを築く架け橋となって活躍してくれる人材を育てていきたいと考えています。

※ 出典:CENTRAL INTELLIGENCE AGENCY "Age Structure" 2014

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