高級歯ブラシ「MISOKA」をクールジャパンのブランドに

「夢職人」 代表取締役社長   辻 陽平   さん

辻 陽平 さん:「夢職人」 代表取締役社長

PROFILE
1991年大阪工業大学高校(現常翔学園高校)卒。1995年大阪商業大学商経学部卒。営業や商品企画・開発などさまざまな仕事を経て2007年脱サラして夢職人を創業。2015年夢職人が経済産業省の選ぶ「がんばる中小企業300社」に。大阪府出身。

ナノテクノロジーと言えば時代の最先端技術ですが、1本1000円(税別)の高級歯ブラシとして人気の「MISOKA」にはこの技術が使われています。開発者の辻陽平さんは大阪工大高(現常翔学園高)でも大学でも文系でした。その辻さんが開発した商品が、今やクールジャパンのブランドとして海外でも認知され始めています。

営業や企画開発を担当していた素材メーカーを脱サラした2007年、辻さんは35歳でした。途方に暮れていた時に「君にはあの歯ブラシがあるやないか」と異業種交流会で知り合った仲間からの一言に背中を押されました。その歯ブラシこそ「MISOKA」の原型です。

文系ながらもともと実験や発明が大好きで、パソコンも自分で組み立てるほどのものづくり人間だった辻さん。サラリーマン時代に愛車のワックスがけをしていて、「化学物質を垂れ流すのではなく、もっと環境にやさしい車の磨き方ができないか」と開発したのがナノサイズのミネラルを溶かし込んだ溶液で対象物を覆う技術(ナノシオンドリームテクノロジー)でした。自動車のコーティング技術として業者に話を持ち込んでも、素人だからとどこにも相手にされなかったそうです。あきらめきれない辻さんは、「風呂から上がって歯磨きしていた時に歯ブラシのコーティングを思い付きました」。市販の歯ブラシにミネラルをコーティングして試行錯誤し作ったのが、歯磨き粉いらず、水だけで磨けて歯がツルツルになるだけでなく汚れにくくもなる、という画期的な歯ブラシでした。ミネラルなので口に入れても安全です。これを異業種交流会の仲間らに配っていました。

その革新性を体験した仲間たちが辻さんに起業を勧め、20人が資金計1000万円を出してくれました。「持つべきものは友達です」。それから3カ月で「夢職人」を創業。「30日で新しいものに取り替えてほしい」という考えから30日目を意味する「晦日(みそか)」を商品名にしました。

自信を持って売り出した商品でしたが、当初は全く売れませんでした。サラリーマン時代のつてで、東急ハンズ心斎橋店で実演販売をするも、1日の販売が数本という日が何カ月も続きました。「歯ブラシ1本1000円に大阪人はなかなか納得してくれませんでした」。ところがある日、以前買ってくれた女性が近付いてきました。「文句を言われるのかと身構えましたが、意外にも『6本おくれ。家族3人で2カ月分や』と言ってくれたのです」。初めてのお得意様でした。その後徐々に評判が口コミで広がっていきました。2008年にテレビで「正月にそろえたい商品」として紹介されると一気に人気に火が付き、東京・銀座の百貨店では客が列を作りました。在庫はあっという間に消え、毎月の販売が1万本に。今では1カ月5万本、累計販売280万本の超人気商品になりました。

先端技術を使いつつ辻さんが大事にするのは、納得できる品質の商品だけを出荷するために職人が1 本ずつ仕上げる職人気質です。そんな姿勢が認められ「MISOKA」は経済産業省が2015年にクールジャパン政策で選定した「ふるさと名物」500商品の一つにも選ばれました。今年1月、フランス・パリの国際見本市で最も注目を集めた商品にもなり、これまでの台湾や西欧諸国に加え東欧や中東の各国とも商談が始まっています。「海外では『エコで体にも良い』と評価してくれます。今後は海外販売が国内を上回ることが大きな目標です」

創業者として強いリーダーシップを発揮する辻さん。大阪工大高時代には生徒会長を務めていました。「生徒会活動で培った作文力が今も役に立っています。ビジネスでは相手の言葉の行間を読むことが必要で国語能力が大事ですからね」

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