震災後の福島で自分に何ができるかを考えたら
廃炉研究につながった

福島工業高等専門学校 建設環境工学科講師   林 久資   さん

林 久資 さん:福島工業高等専門学校 建設環境工学科講師

PROFILE
2007年大阪工業大学都市デザイン工学科卒。2012年同大学院博士後期課程環境工学専攻修了。博士後期課程在学時に非常勤講師も。同年福島工業高等専門学校建設環境工学科助教に。2015年から講師。大阪の家族と離れて単身赴任中。兵庫県出身。

大阪工大大学院を修了した林久資さんが福島県いわき市の福島工業高等専門学校(以下、福島高専)に助教として赴任したのは東日本大震災の翌年でした。以来4年、教員として学生に測量学や土木構造物の施工法などを教えてきました。同時に専門とするトンネル工学の研究と、その知識を生かした原子力発電所(以下、原発)の廃炉研究にも精力的に取り組んでいます。

林さんはトンネル工学の中でも主に山岳トンネルを掘削したときに問題となる現象について数値解析を用いてシミュレーションする研究を進めています。トンネル掘削でよく知られた「シールド工法」は都市部の柔らかな地盤で主に使われる工法です。それに対して山岳トンネルは、掘削する岩盤が固くダイナマイトなどを使って掘削し、コンクリートを吹き付ける工法で、全く違った研究分野です。研究者だけでなく技術者もシールドトンネルと山岳トンネルでは異なります。リニア新幹線の多くが山岳トンネルとなりそうですが、山の深いところにトンネルを掘るため、平地とは比べ物にならない大きな地圧がトンネルに掛かるなど、難しい工事が多くなります。そのためあらかじめ地圧が高いところでの掘削を十分にシミュレーションすることが欠かせません。

大学3年の時に学科の教室補助員をしていた、トンネル工学や測量学を専門とする長谷川昌弘教授(当時)の研究室で学科の教室補助員をしていたことが、林さんとトンネル工学を結び付けました。「トンネル工学に魅かれたのは、設計通りにいかない不確実性の面白さです。新しい研究成果だけでなく先人の知恵や経験が工事現場で生かされていて、それがかっこいいと思いました」。博士論文では能登半島の七尾トンネルを取り上げ、掘ったトンネルが大きく変形してしまうほど地圧が高い場合の掘削工法の有効性の検証をしました。

福島高専は東日本大震災による原子力災害が問題となっている福島第1原発に最も近い国立高等教育機関です。着任したのは震災の翌年で、まだガタガタの道路が残っていたり、家族で避難生活が続く学生もいるような状況でした。「研究者は誰もが復興に役立つ研究ができないかと考えました。私も自分ができることを考え、トンネルには欠かせないコンクリートの知識と数値シミュレーションの技術を生かして、第1原発の核燃料などが溶けて固まった超高温のデブリ(がれき)にさらされている原発下部のコンクリートがどこまで損傷しているか研究しようと思いました」

トンネル火災や橋梁火災を想定して、コンクリートがどれくらいの熱に耐えられるかの研究はされています。ただしせいぜい1000℃から1200℃で、しかも熱にさらされる時間も限られます。これに対して第1原発の溶けた核燃料デブリは原子炉圧力容器の金属を突き破っている可能性があることから、推定で約3000℃に達したと思われます。大量の水で冷やされ続けているので少しは温度が下がっているでしょうが、実態はいまだによく分かっていません。「シミュレーションはしますが、検証実験は高温過ぎて難しいのです。製鉄会社の溶鉱炉の溶けた鉄を使うなど考えられることは何でもやってみるつもりです」。大規模な耐火実験ができる母校の大阪工大八幡工学実験場を使うことも検討しています。

授業では学生らになるべくトンネル工事などの現場を見せるようにしています。「大学・大学院で現場を見る大切さを学び、社会に出てその必要性を改めて実感したからです」。中学を卒業したばかりの1年生から大学2年に当たる5年生までを教える高専は、学生の著しい成長を実感でき、教育者として大きなやりがいと使命を感じています。特に福島高専には将来廃炉作業を担ったり、廃炉ロボットを扱う技術者を養成することも期待されています。

社会の風当たりが強い中で第1原発の困難な現場で今も奮闘する技術者の姿を見ると、「ちょっとでも自分が役に立てたら」と思わずにはいられません。「後輩の皆さんには、大学で実践的な知識・技術をしっかり学び、各分野に生かしていく使命があること意識してほしいですね」

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