ふっくうかわい・としかず ■1996年神戸大学工学部情報知能工学科卒。1998年同大学院自然科学研究科情報知能工学専攻修士課程修了。2005年大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻博士課程修了。日立製作所機械研究所研究員、信州大学医学部脳神経外科研修生、慶應義塾大学医学部共同研究員などを経て、2007年大阪工業大学工学部生体医工学科准教授。2017年から現職。博士(工学)。島根県出身。04May, 2025|No.111|FLOW 阪神・淡路大震災の経験から「工学で命を助けたい」大阪工業大学 ロボティクス & デザイン工学部 ロボット工学科 良性疾患対象に小型で安価な助手ロボット 私の研究室では、医師と共存協調できる手術助手ロボットを医工・産学連携で研究しています。手術では複数の医師が執刀と助手を役割分担していますが、ロボットの支援により医師1人で執刀できることを目指しています。医師1人で対応できるようになれば、長時間労働に悩む外科医の働き方改革や医師不足が深刻な地域医療への支援、医療費の低減など、さまざまな課題解決につながると考えるからです。 医療に関わる研究のきっかけは、大学3年で経験した阪神・淡路大震災です。下宿していた神戸市灘区のワンルームマンションは半壊し、身の周りで多くの命が失われました。工学分野で命を助けることを意識するようになり、大学4年で配属される研究室は義手の研究をしている先生を選びました。 就職してからも人に役立つ研究をと希望し、脳神経外科向けのロボット開発に携わることになりました。医療については門外漢でしたが、上司から「現場で学んで来い」と送り出され、大学の脳神経外科で1カ月を過ごしました。毎日、午前8時のカンファレンス(医師が参加する患者の状態や治療方針についての話し合い)に同席し、手術にも立ち会いました。就職するまでは、血は見るのも苦手だったのですが、仕事だと割り切ると不思議と平気でした。医師が使う器具を知り、話していることや手の動かし方などをひたすらメモしました。現場で学んだことを元にロボットを開発し、動物実験や大学病院でのご遺体による実証を経て、医工・産学連携で世界初のロボット支援脳神経外科手術を成功させることができました。その後は、触覚を高い精度で伝えられる腹腔外科向けロボットも開発しました。どちらのロボットも人間の手では不可能な微細手術を実現することができたのですが、開発コストが高く、一般病院に広く使ってもらうには至りませんでした。そこで、大学に移籍して手術助手ロボットの研究をすることにしたのです。 手術を支援するロボットとしては、アメリカで開発された「da Vinci(ダビンチ)システム」が有名です。執刀医は患者から離れた場所から3本以上のアームを遠隔操作しています。執刀医のいる場所は手術室ですが、患者の横で手術をしないので医師自身の手指消毒の必要はありません。ロボットの動きは微細で、医師の手で行う内視鏡外科手術に比べて難しい手術にも対応できるという点は優れています。しかし、執刀医が患者さんから離れているため急変河合 俊和教授
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