常翔学園Flow111号
11/20

たん そしん しきょうじん09日本農学賞/読売農学賞表彰状を手にする久保学長(左)=4月5日、東京大・弥生講堂でくぼ・やすゆき ●1980年京都大学農学部農林生物学科卒。1982年同大学院農学研究科農林生物学専攻修士課程修了。1985年同博士課程修了。同大助手、講師、京都府立大学農学部助教授、教授を経て2020年摂南大学教授に。2023年11月から学長。農学博士。大阪府出身。 農学で優れた業績を挙げた研究者に贈られる2025年度日本農学賞/読売農学賞に摂南大学長の久保康之・農学部農業生産学科教授が選ばれ、4月5日の第96回日本農学大会で授与式がありました。対象となったテーマは「ウリ類炭疽病菌の付着器侵入の分子機構に関する研究」です。研究内容や開学50周年に花を添える受賞となった喜びを久保学長に聞きました。 ウリ類炭疽病菌の感染メカニズムの研究は大学4年から始めました。この菌はウリ科作物に病気を引き起こすカビの一種で、培養すると黒色の色素(メラニン)を作りますが、ある時、美しいオレンジ色のコロニー(塊)を形成する変異株を発見しました。培養の失敗を疑いましたが、病原性が認められなかったので色素と病原性の関係を調べることにしました。 植物の表面は強固な壁で守られているので、病原菌が付着しただけでは侵入できません。そのため、炭疽病菌のような病原糸状菌は、風船を膨らませたような付着器を形成し、付着器内部の圧力を上げて植物に穴を開け潜り込みます。付着器は通常は黒色ですが、病原性が認められなかった変異株は透明でした。そこで、メラニン色素の合成が病原性につながる重要な役割を果たしているという仮説を立てて検証。その結果、色素がパテのような効用により付着器の壁を高圧に耐えられるよう強化し、病原性を発揮できていることを突き止めました。 研究の中でも思い出深いのは、発見した変異株のメラニン合成に関わる遺伝子の特定作業です。現在のような解析技術がない時代で、遺伝子の一部分を取り出してバンド(しま)を1つ1つ数えました。1つの遺伝子配列を決定するだけで1年以上掛かりましたが、付着器のメラニン合成と病原性に直接関与している遺伝子を世界に先駆けて明らかにできました。 研究においては現象に真摯に向き合い、誠実さを貫くことを大切にしています。今なお研究を続けていられるのは、学生時代に出会った先生方や先輩、共に研究を進めてきた国内外の研究者の支援があったからです。今回の受賞は皆さんのお陰だと感謝の気持ちでいっぱいです。本学の開学50周年という大きな節目にいただけたこともうれしく、この1年を盛り上げるきっかけになればと思っています。 研究成果を社会に還元するには99%ではなく100%を目指す強靭さが求められます。学部生や大学院生の皆さんには研究の厳しさを恐れず、たった1%の差が質的に大きな違いを生むことを忘FLOW | No.111 | May, 2025れず、プロセスを楽しみながら最後まで妥協せずに取り組んでほしいと願っています。 ■ 受賞対象となった業績の概要 植物に病気をもたらす糸状菌が植物の内部に入り込むために作る付着器は、メラニン色素の合成なしには能力を発揮できないことを世界で初めて証明しました。この発見により、色素合成を阻害すれば植物を病気から守ることができるという現象を解明し、イネいもち病の非殺菌的農薬の開発や普及につなげました。また、ウリ類炭疽病菌をモデルに糸状菌の遺伝学的解析手法を確立し、植物病原性糸状菌研究の基盤を構築。細胞周期制御や病原性遺伝子を突き止め、糸状菌ゲノムの先駆的解析などにより農業現場の病害防除に活用されています。 1925年に「農学賞」(農学賞□)として始まった日本農学賞は農学研究者にとって最高の栄誉とされています。日本農学会が厳格な選考を経て授与者を決定し、読売農学賞の選考も行っています。 摂南大の受賞者は、石川幸男教授「害虫防除に向けたガ類の性フェロモンにおける分子基盤研究と新規生殖操作・配偶行動の発見」(2021年)、佐藤和広教授「オオムギゲノム多様性の解析と分子育種への応用」(2022年、当時は岡山大教授)に続き、久保学長で3人目となります。受賞摂南大・久保学長が日本農学賞/読売農学賞

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る