常翔学園FLOW110号
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数係散拡)合割(数の子原(図2)たんぱく質分子を構成する原子の半数は水素原子で、分子全体に均一に存在している。図では分かりやすくするため、原子の数を減らしている毒性の高い線維毒性の低い線維(図3)アミロイド線維に含まれている水素原子の運動の大きさを調べた。毒性の低いものは動きが小さいものが多く、毒性の高いものは大きく動いているものが多いことが確認できた(図5)リン脂質の膜にアミロイド線維が結合した時のリン脂質(A)、線維(B)の構造変化(A):グレーが結合前のリン脂質。ブルーは毒性の低いものを結合、ピンクは毒性の高いものを結合させたもの。ブルーに比べてピンクは変化が大きく、膜の構造が大きく壊れていることが分かった。DMPCとDMPGは電荷の異なる2種類のリン脂質(B):グレーが結合前の線維。グリーンはDMPCを結合、オレンジはDMPGを結合させたもの。線維のみの場合の構造を1とし、構造変化の大きさを表した。毒性の高い線維と低い線維は、互いに反対方向の構造変化を示すことが分かった毒性の高い線維毒性の低い線維(図4)アミロイド線維に含まれている水素原子の運動の速さを調べた。毒性の高いものは低いものに比べて運動の速さが1.6倍を示した  世界最先端の研究用原子炉実験施設に留学約1オングストローム(100億分の1メートル)と、水素原子の直径と同程度になります。人間の尺度からすれば非常に小さな差ですが、そのわずかな違いで毒性の高さが異なることに驚きました。また、速さについては、毒性の高いものが低いものよりも約1.6倍速く動いていることが分かりました(図4)。これらの結果から、毒性の高いアミロイド線維は大きく速く動くことによって形を変化させやすく、細胞膜に結合しやすい形を素早く取ることができると考えられます。 次に、アミロイド線維が細胞膜に結合した時に、膜と線維それぞれに起きる構造変化についても調べました。本物の細胞膜の代わりに、細胞膜の構成成分であるリン脂質を2種類用意して、それぞれに前述の毒性の異なる2種類のアミロイド線維を結合させました。そして、研究室にある分光蛍光光度計を用いた蛍光測定と、広島大放射光科学研究所の放射光を用いた吸収測定を行いました。その結果、毒性の高いアミロイド線維が結合した膜は、低いものが結合した時に比べて構造が大きく壊れていることが分かりました(図5A)。また、アミロイド線維自体にも線維内部で構造変化が起きていることが分かり、毒性の高さの違いによって構造変化の傾向が逆になることも明らかになりました(図5B)。このように、高い毒性を持つアミロイド線維に特有の性質が分子・原子のレベルで少しずつ分かってきています。 放射線を使った実験の難しさは、入念な計画が求められることです。一般的には年に2回、実験案を提出し、審査を受けます。採択されれば「ビームタイム」という放射線を利用できる時間が(写真1、2)に留学したのを機に、上記の研究に着手しました。ニワトリ由来のたんぱく質を使って毒性の異なる2種類のアミロイド線維を作成。これに中性子線を当て、散乱した中性子のエネルギー変化から、アミロイド線維に含まれる水素原子の運動の大きさや速さを調べました。中性子■ 脂質のみ■ 低毒性線維結合■ 高毒性線維結合■ 線維のみ■ DMPC結合■ DMPG結合(写真1)ラウエ=ランジュバン研究所の外観(写真2)中性子線を利用する実験装置いません。そこで、この点を明らかにするため、①細胞への毒性の高さが異なるアミロイド線維の動き②これらのアミロイド線維が細胞膜に結合した時に起きる線維や膜の変化――について調べることにしました。 2020年3月から、フランス南東部のグルノーブルにある世界最先端の研究用原子炉実験施設「ラウエ=ランジュバン研究所(ILL)」は水素原子の運動に感度が高いこと、水素原子がたんぱく質分子を構成する原子の約半数を占め、分子全体に均一に分布していることから、たんぱく質における原子の平均的な動きを調べることができます(図2)。 実験と解析の結果、アミロイド線維の毒性が高いものは低いものに比べて「大きく速く運動する原子」が多く存在していることを発見しました(図3)。大きくといっても原子の世界においてです。11FLOW|No.110|February, 2025水素原子アミロイド線維運動の大きさ

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