人間の身体の中には約10万種類のたんぱく質があり、それぞれが割り当てられた固有の働きをすることで生命が維持されています。この世の全ての物質と同じく、たんぱく質も原子が集まってできています。あるたんぱく質の働きについて詳しく知ろうとすれば、原子がどのように動いているかを明らかにする必要があります。また、原子が集まって構成されている分子についても、どのような形をしているかが分かると、疾患の仕組みを明らかにすることができます。 原子や分子はとても小さく、形や動きを観察することは容易ではありません。私は、中性子線や放射光という放射線をたんぱく質に当て、放射線が散乱する角度や散乱によるエネルギー変化、たんぱく質による放射線の吸収などを測定し、理論に基づいたデータ解析を行うことで、形や動きの情報を引き出しています。 現在は主に、アミロイド線維が細胞を損傷させる仕組みを明らかにする研究に取り組んでいます。アミロイド線維とは、たんぱく質同士が何らかの原因で多数くっついて繊維状の塊になった物質です。これが体内に蓄積し、細胞の膜に結合して損傷させ、最終的には細胞を死滅させて病気になるのです(図1)。つまり、アミロイド線維は細胞にとって毒なのです。たんぱく質同士が少数くっついたオリゴマーと呼ばれる塊の毒性が高いことが古くから知られていますが、最近ではアミロイド線維自身が持つ細胞への毒性にも注目が集まっています。 アミロイド線維が原因となる疾患には、アルツハイマー病やパーキンソン病、ハンチントン病などがあります。病気ごとにアミロイド線維の元になるたんぱく質は異なります。しかし、同じたんぱく質であっても、線維を作る環境によって、形や毒性の高さに違いがあるアミロイド線維ができます。アミロイド線維の動きやすさが細胞膜への結合のしやすさに関係していることが示唆されていますが、病気の発症メカニズム解明に重要な、毒性の高いアミロイド線維は毒性の低い線維と何が違うのか、ということは分かって10February, 2025|No.110|FLOW細胞の死細胞(図1)アミロイド線維が細胞膜に結合すると、膜を損傷させ細胞を死滅させる細胞膜アミロイド線維細胞膜に結合して損傷イラストはアミロイド線維のイメージ
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