常翔学園FLOW109号
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(写真1) トマト葉かび病に感染した葉。世界中のトマト農家を悩ませている 人間の病気の原因は主にウイルスや細菌が占めますが、植物の病気は8割がカビです。植物の病気の原因となるカビは数多くあり、ほとんどは決まった植物に侵入、感染します。例えば、私が研究しているトマトの葉に感染する「トマト葉かび病」の病原菌は、トマトには感染できますが、キュウリやイネなど他の植物には侵入すらできません。 植物が病気になる過程を、トマト葉かび病を例に説明しましょう。この病気は世界中で流行しているためトマト農家にはよく知られた存在で、その名のとおりトマトの葉の上に大量のカビを発生させます。葉には酸素の取り込みや二酸化炭素の排出、水蒸気の蒸散のための気孔という穴があるのですが、この菌はトマトの葉に付着すると菌糸を伸ばし、気孔を探し出して、そこから葉の中に侵入します。気孔は乾燥していると水分の蒸散を避けるために閉じ、逆に湿度が高いと開きます。この病原菌は湿度が高いと発病しやすいのですが、それは気孔が開いている間に植物の体内へ侵入するからです。まるで鍵がかかっていない窓からこっそり侵入するコソ泥のように感染するのです。侵入した後もすぐに発病するわけではなく、2週間ほどの潜伏期間があり、やがて菌の増殖に伴ってトマトの組織はダメージを受け、葉が黄色く変化します(写真1)。病気により葉の光合成の能力が落ちるので、生育が悪くなり、果実がつかなくなります。 植物は元来、病原菌から身を守る術を持っています。病原菌に侵入されないための分厚い構造や、病原菌に侵入されても、それを感知するための防犯センサーなどさまざまな防衛システムを06November, 2024|No.109|FLOWコソ泥のようにこっそり侵入

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