01FLOW|No.108|August, 2024FLOWは毎年8月号で設置各学校の卒業生を特集しています。今回は炊飯ジャーを開発する技術者、キー局アナウンサー、手話や聴導犬啓発に取り組む会社経営者、歴史ある高級ホテルグループ社長、ドラマや時代劇で活躍する俳優と、バラエティーに富む顔ぶれがそろいました。炊飯ジャーで国内トップシェアの象印マホービン(大阪市北区)で、その看板商品の開発を担う第一事業部を束ねる宇都宮定さんは大阪工大の卒業生です。同社入社以来31年間、「おいしいごはん」を追求して炊飯ジャーの開発一筋に歩んできました。化学を一から勉強し直し研鑽宇都宮さんは、昼は建築設計会社で働きながら大阪工大の第Ⅱ部(夜間部、2000年に廃止)で電子工学を学びました。「働いた後に夜でも淀川周辺をランニングした体育の授業が印象深いです。電磁気学などの勉強は大変でしたが、4年になって研究室でのソフトのプログラムに関する研究は楽しかったですね」と振り返ります。 テレビでなじみのあった象印に「マイコン炊飯ジャーの開発をしたい」と志望し、すぐに内定を得ました。当時はマイコン炊飯ジャー全盛時代で、現在主流のIH炊飯ジャーが出たばかりでした=*注。大阪工大で学んだプログラム技術で「さまざまなごはんが炊ける炊飯ジャーの開発を」と意気込んでいた宇都宮さんでしたが、*注=マイコンタイプはヒーターで内釜を加熱するが、IHタイプはコイルによる電磁誘導で内釜自体が電気抵抗により発熱する。食味の定量化で科学的開発の足場仕事観を変えたプロジェクト<はじめちょろちょろ中ぱっぱ…>という昔ながらの歌も知らずに先輩から教えられるほどで、そもそも「おいしいごはん」が何かも考えたことがなかったことに気づきました。「何よりおいしいごはんの追求には電子工学にも増して苦手だった化学の知識が不可欠だと思い知らされました」。でんぷんのアルファ化など化学現象を理解するために化学を一から勉強し直しました。 宇都宮さんが開発担当として最初に取り組んだ課題は、「おいししいごはん」の決め手となる食味の定量化でした。それまでの開発発発は熟練した開発者の経験や勘に頼っていて、「おいしさ」の客観観的データの蓄積がなかったのです。ごはんの味は「物理的な味味(硬さや軟らかさ)が7割、化学的な味(でんぷんや糖)が2割、外外観・においが1割」と分析されています。宇都宮さんはごはんののおいしさに関する研究の第一人者だった東京農業大の高野克己己教授(後に学長、現在は名誉教授)の教えを請うために東京のの研究室に通い、学会の論文も読みあさりました。データを取るたための測定器も工夫し、4年ほどでようやく定量化を実現し、科科学的な開発の足場を築いたのです。高級IH炊飯ジャー開発は宇都宮さんの仕事観を変えた大きなプロジェクトでした。2006年に他社が10万円台の高級IH炊飯ジャーを売り出し、ヒット。時代のニーズが量より質に変化していたのです。すぐに象印が対抗して出した製品は売れませんでした。そこで2009年に全社的なプロジェクトが立ち上がり、宇都宮さんも手を挙げました。「技術者だけではない部署横断型チームで、それまでの考え方を白紙にしてゼロからシンプルに■おいしいごはん■を追求しました」象印の最新モデル「炎舞炊き」 NW-FC10縦横無尽にお米を舞い上げ、大粒でふっくら甘みのあるごはんに炊き上げる「3DローテーションIH」を搭載6つの底IHヒーターのうち2つのコイルを対角線上で同時加熱することで激しい対流を引き起こす炎舞炊きの集中加熱を生かす「鉄(くろがね仕込み)豪炎かまど釜」巻頭特集活躍する卒業生大阪工業大学象印マホービン 第一事業部長宇都宮 定さん科学の目でおいしいごはん追求炊飯ジャー開発一筋に31年
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