常翔学園FLOW108号
15/32

14August, 2024|No.108|FLOWリキッドマーブルを作製する学生を見守る藤井教授(奥)。フランスからの留学生2人も見学う少し時間がかかりそうです。粘着剤としてはテープや液体、スプレーなどがありますが、粘着性が使用する上で制約につながることもあります。微小な粉体状粘着剤ができれば、細い管の隙間に挿入するなど、新たな用途にも使えそうです。 リキッドマーブルの魅力は、液滴や微粒子を変化させることにより多様な機能を持たせられることです。タイのチュラロンコン大との共同研究では、天然由来の高分子粒子を使い、食品の腐敗検出センサーとして機能する直径2mmのリキッドマーブルを開発しました。腐敗ガスに触れると黄色から緑色に変色する試薬を溶かした水溶液をカニ・エビ由来の高分子(キトサン)とパームヤシに含まれる成分(ステアリン酸)を複合化して合成した天然由来粒子で覆っています。食品の腐敗の有無についてリキッドマーブルの色の変化から確認できる上、微小な粒のため転がしたり滑らせたりして狭い空間に入れることもできます。 この他、光を当てると発熱する微粒子を使い、物質の運搬に応用できるリキッドマーブルも作製しています。このリキッドマーブルを水面に浮かべてレーザーを当てると、手前と背後の水面に温度差が生まれて流れが起き、リキッドマーブルを動かすことができます。また、リキッドマーブルを動かした後、近くにアルコールを添加すると、リキッドマーブルが崩壊し内部液を放出させることもできます。この技術を応用すれは、リキッドマーブルをカプセルとして物質の運搬や放出に使うこともできるのです。 リキッドマーブルの新たな機能についてはアイデアが尽きることはありません。粒子の大きさや形、表面の凹凸、液滴表面への脱着のしやすさなどにより性質はさまざまに変わります。将来的には液滴と微粒子の素材や形状について系統立てて調べて、書物や総説にまとめて後世に残したいと思っています。 自身の視野を広げ、研究に新たな発想を得たいと30代では意識して異業種の人と話をすることを心掛け、1カ月に少なくとも新しい人物に1人出会うことを自らに課しました。今も異分野の研究者と話をしたり、山や海など自然の中で観察したりすることは創造性への刺激に欠かせません。研究は私にとって自己表現でミュージシャンや画家と同じ感覚です。独創的な研究をこれからも続けていきたいと思っています。藤井教授ら高分子材料化学領域微粒子材料研究室のリキッドマーブルの写真が昨年、在日フランス大使館科学技術部が主催するサイエンスフォトコンテスト「科学の幽玄 - Beauté cachée de lascience」で準グランプリを受賞しました。作品名は「スマートグリーンドロップレット」。 このコンテストは日仏科学協力促進の一環で、美を通して意欲的な研究プロジェクトに光を当てることや、科学を一般の人々へ普及させることを目的としています。昨年9月に同大使館で開かれた授賞式には藤井教授が出席しました=写真。また、今年6月には横浜市中区にある横浜赤レンガ倉庫で写真展「科学の幽玄」が開催され、他の受賞作品とともに展示されました。液滴や微粒子を変えて多様な機能に仏大使館科学技術部主催の写真コンテストで準グランプリ

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る