常翔学園FLOW106号
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から2021年3月31日に判決が言い渡された刑事裁判を調べたところ、35件でした。ただし、2023年12月に改正刑事訴訟法が施行され、司法面接の録音・録画媒体を証拠とすることができるようになったので、今後は採用件数が増えることが期待されます。 司法面接は事実を確認することが主目的のため、被害に伴う子どもの心のケアは別の形で提供されなければなりません。ある警察官から、子どもの被害について詳細な聴き取りをしなければならなかった時、子どもから「私のつらさを分かると言ってくれたのに、なぜ被害についてそんなに聞くのか?」と問われて苦しかったという話を聞いたことがあります。事実の確認と心のケアでは取り得る手法がさまざまな点で異なっていて、1人でその両方を担うのは難しく、複数の専門家が連携しながら対応する必要があります。 以前は、記憶が汚染されないよう、被害事実を聴き取ってから心理療法やカウンセリングなどの心のケアへ進んでいました。しかし、子どもの心身の健康や将来への影響などを考えた時、ケアを待たせることが子どもの不利益になるようでは支援のための面接とは言えません。そのため、これまでは主に児相と警察、検察の3機関が連携してきましたが、医療や心理ケアなど更に幅広い専門家とつながっていくことが求められ、新たな研修プログラムの開発にも取り組んでいるところです。現場では広がりを見せる司法面接ですが、一般にはほとんど知られていません。もし、身近な子どもから被害を打ち明けられた場合は、「子どもの言葉や表現そのままを聴き取り、記録に残すこと」と「最小限の聴き取りにとどめること」を心掛けてもらいたいと思います。具体的には、落ち着いて話ができる場所かどうかを確認して、家族や他の子どもとは離れて個別に話を聴きます。「何があったのか教えて」といった言葉掛けをして、子ども自身の言葉(表現)で話してもらいます。子どもの話を録音できると良いですが、難しいなら質問と応答のやりとりのメモを残します。無理に聞いたり、大人の推測や意見、感想を話したりしないことも大切です。「誰が/どうした」ということが把握できれば十分で、後は専門機関へ連絡し、詳細な聴き取りは専門機関に任せてください。 これまでは司法や福祉の専門職を対象とした研修を中心に活動してきましたが、今後は保育・教育に携わる人や一般の人を対象とした啓発活動にも力を入れていきたいと思っています。司法面接の手法を用いれば、子ども同士のトラブルやいじめなどが疑われる場合にも「何があったのか」について子どもの言葉で正しく聴き取ることができるからです。このようなアプローチは、子ども自身が「きちんと聴いてもらった」と満足でき、子どもの権利を保障することにもつながると思います。医療や心理ケアとの連携も医療や心理理ケアとの連携も今後は一般を対象にした啓発も今後は一般般を対象にした啓発も司法面接研修 児相や警察、検察など1万5000人が受講■ けがをしている子どもへの質問例(いずれも架空の会話)クローズド質問が中心の一般的なやり取りオープン質問を使った推奨されるやり取りクローズド質問(誘導)WH質問WH質問クローズド質問(誘導)クローズド質問(誘導)オープン質問オープン質問オープン質問オープン質問司法面接研修で話をする田中晶子教授(左奥)田中教授が参加している司法面接の研究プロジェクトのRISTEX「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域「多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装」(研究代表者:仲真紀子)は、米国の国立子どもの健康と人間発達研究所(National Institute of Child Health and Human Development)のマイケル・ラム博士らが開発した面接法「NICHD プロトコル」を用いた研修プログラムの開発に取り組んでいます。現在では、1年に4回の基礎研修と3回のトレーナー研修を開催。児童相談所や警察、検察などから多くの参加があり、これまでの基礎研修受講者は1万4973人(2021年3月末時点での概数)、トレーナー研修受講者は321人(2023年12月末時点)となっています。研究プロジェクトでは、司法面接に関する情報発信のプラットフォームである司法面接支援室(https://forensic-interviews.jp/)を運営する他、参加している研究者を中心に組織する「司法面接研究会」(https://japan-forensic-interview.jimdosite.com/)で司法面接の基礎研究や、研修プログラムの開発・改善と効果測定なども実施しています。プがFebruary, 2024|No.106|FLOW08面接者:(けがを指しながら)ここ、けがしているね。転んだの?子ども:……うん……面接者:どこで転んだのかな?子ども:おうち。面接者:おうちでどうして転んだの?子ども:えっと…… ドンってしたから……面接者:倒されたの? もしかしてお父さんに倒された?子ども:……(沈黙)面接者:お父さんに倒されて頭を打ったんだね。子ども:……うん……面接者:(けがを指しながら)このけがのことについて話してくれる?子ども:……あのね、昨日おうちでね……お父さんドンしたの。面接者:そうか、それから?子ども:それで、頭をゴンってした。面接者:うん、それからどうなった?子ども:血が出てね、痛かったから泣いちゃった……面接者:そうなんだね、それからどうなった?子ども:お母さんが帰ってきて………

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