常翔学園FLOW105号
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製造に向かない糖分高い食品(写真1)凍結乾燥で製造されたコーヒー粉末の電子顕微鏡写真(図)物質の状態変化インスタントコーヒーの粉。左から凍結乾燥、噴霧乾燥(写真2)噴霧乾燥法で製造されたコーヒー粉末の電子顕微鏡写真よしい・ひでふみ 1978年東京農工大学工学部化学工学科卒。1980年京都大学大学院工学研究科化学工学専攻修士課程修了。1983年同博士課程単位取得退学。香川大学大学院農学研究科教授などを経て、2020年から現職。奈良県出身。November, 2023|No.105|FLOW14メートル=1μmは1mmの1000分の1)という細かい霧にしてノズルから噴出させ、高温の熱風で一気に乾燥させます。瞬間的に水分が蒸発するので、サラサラとした細かい粉末のコーヒーができます。渋谷 凍結乾燥と噴霧乾燥でどんな違いがありますか?吉井 凍結乾燥は凍らせたり真空にしたりと、エネルギーをたくさん使うので費用がかさみます。コーヒーなら少し高価格帯の商品になりますが、低い温度で処理できるので香り高い製品ができます。ただし、粉には小さな穴がたくさん開いているので、風味が落ちるのは早いです。品質の良いうちに飲み切れる量を考えてか、凍結乾燥のコーヒーは小ぶりの瓶に入っています。 噴霧乾燥の粉は電子顕微鏡で見ると球形で中が空洞(写真2)になっています。高い熱で処理しているので香りは凍結乾燥より劣ります。食品製造はコストを抑えたいので、噴霧乾燥で作られているものが多いです。凍結乾燥は主に薬品製造に使われています。西川 凍結乾燥のコーヒーは5㎜ほどのかけらですが、こんな大きさでも粉ですか? どれくらいの大きさまでを粉と言いますか?吉井 凍結乾燥のコーヒーは粉砕して作るので5㎜ほどありますが、粉の状態です。ただし、食品粉末の一般的な大きさは、通常数十から数百μmと、大きいものでも1㎜未満です。西川 粉にできない食品もありますか?吉井 トマトなど糖分の高い食品はベトベトくっつくので、粉に加工するのは難しいです。オリゴ糖やハチミツも単独では粉にすることができません。西川 ラグビーをしているので、体づくりのためにプロテインを飲んでいます。粉を溶かすのがうまくいく時とそうでない時があります。吉井 プロテインの粉を水に一気に溶かすのは難しいです。コップに粉を入れて、ゆっくりと水をなじませるように溶かしましょう。水を入れてから粉を入れたり、粉に大量の水を入れたりすると、粉の表面に皮が張り、溶けづらくなります。また、プロテインは湿気やすいので、開封して聞いて一言渋谷優斗 しぶたに・ゆうと(常翔啓光学園高2年)から時間がたつと表面に皮が張って溶けづらくなります。渋谷 粉の利点はなんですか?吉井 乾燥させるので食品の品質変化を防ぎ、保存性を高めることができます。可食性や可溶性、成分の安定性を高め、運搬や加工も容易にします。渋谷 今も新たな粉の研究に取り組んでいるのですか?吉井 粉の品質向上ではまだまだできることがあります。例えば、高温で加工する噴霧乾燥で粉末中の香りを飛びにくくする方法や、高温多湿でも劣化しづらいものを考えたりしています。香りの粉を利用すれば、高齢者の減塩にも役立ちます。粉はさまざまな可能性を秘めていて、興味は尽きません。西川泰生 にしがわ・たいせい(常翔啓光学園高2年)●粉は細かく砕いて作るものだと思っていたので、水分を飛ばしていると知り驚きました。プロテインの溶けやすさの違いも分かり、勉強になりました。●粉の製造方法は専門的な話で難しかったけれど、楽しく学ぶことができました。珍しい噴霧乾燥機も見ることができ、大学で学ぶイメージが湧きました。

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