常翔学園FLOW104号
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ニューウェーブ09FLOW|No.104|August, 2023 私自身が初めて災害看護に携わったのは、2008年5月に中国・四川省を震源に発生したマグニチュード7.9の地震での活動でした。被害は死者約6.9万人、建物は全壊が約536万棟という大規模なものでした。 当時、在籍していた兵庫県災害医療センターから、JICA(国際協力機構)の国際緊急援助隊医療チームの一員として発生直後の2週間、四川省の都市部にある大規模病院に派遣されました。 現地の医師や看護師と連携しながらの被災者支援でした。言葉の壁はあるものの、次にどんな処置をするのか、何を準備しておけばいいのか、不思議と理解し合えました。看護に向き合う気持ちや技術が共通言語のような役割を果たしていたのです。 現地では感染していない傷口も消毒していましたが、この方法は正常な皮膚の再生も遅らせることになります。現地看護師との関わりの中で、ウエットドレッシング(清潔な水で汚れを洗い流し、感染していない傷を湿潤状態にして回復を促す方法)を実施して、傷口を写真で撮影しました。日を追ってどのように変化したかを確認してもらうと、効果を実感してもらうことができました。相手を否定するのではなく、根拠を示しながら「こんな方法もあるよ」と伝えていくことが大事です。清拭や洗髪、口腔ケアなど、日本の細やかなケアは高く評価してもらうこともできました。 その後は、台風に見舞われたフィリピンや、サイクロン後のアフリカ・モザンビークなどで活動しました。NPОのメンバーとして活動したフィリピンミッションでは、医師や看護師ら5人程度のメンバーで交通の便の悪い場所に出向き、教会などに診療所を開設しました。脱水症状を改善するための経口補水液の効果的な摂取方法や、衛生状態の悪い場所では水を煮沸して飲むことなどを伝えます。文字が分からない人や子供にも理解できるよう、図入りのパネルや劇仕立てで伝えることもあります。 海外の活動はインフラが整っていなかったり社会背景が異なっていたりして、思うような支援につながらないこともあります。災害看護は、災害サイクルといって、時期に合わせて必要とされる支援が変化していきます(下図)。一時的に不足しているものを補うように、柔軟に対応していく力が求められます。支援に入る前に、支援者自身の心の変化や災害看護に関する学習は必須です。準備なしに現地に入ると、支援者が自身のストレス反応にうまく対処できないことや、支援者のふるまいで現地の被災者を傷つけてしまう可能性があるためです。 国内では、被災者の健康管理や生活の再建に役立つ健康手帳の開発に取り組んでいます。 最初に手掛けたのは2018年7月の西日本豪雨の後、岡山県倉敷市真備町の住民向けに作成した「いまから手帳」と「これから手帳」です。真備町出身で高知県立大の神原咲子教授(現在は中国四川省の地震発生直後、都市部の大規模病院で活動する宮本准教授(中央)=2008年5月(写真提供:JICA、画像の一部を加工しています)せいしきこうくう教育・研究気持ちと技術が共通言語変化するニーズに合わせ柔軟に再建に向け「いまから」「これから」災害サイクルと医療・看護の役割災害発生準備期前兆期時間の経過により変化する人々の健康・生活、社会のニーズに対応した医療や看護支援が求められるアフリカ・モザンビークで経口補水液の効果的な摂取方法を被災者に伝える宮本准教授(左端)=2019年3月(写真提供:JICA、画像の一部を加工しています)静穏期発災期復旧・復興期(リハビリテーション期)慢性期(1カ月〜3年)亜急性期亜急性期(〜1カ月)(4〜7日)緊急対応期新たな災害の減災を目指した準備をする被災者の救命を第一に考え、防ぎ得る死を最小限にする超急性期超急性期急性期急性期(〜3日)被災者の心身の健康の回復、促進とともに、起こり得る健康問題を予防する

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