常翔学園FLOW102号
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2競技場の観客席の階段が黒一色で踏み段が分かりにくいため、段鼻に黄色いテープを貼って段の位置を分かりやすくした例。急勾配なため退場時に人が集中して群集事故などの大惨事になりかねない。3通路が狭くなった部分の床に階段一段分もない低い段差がある場所。事後対策として段鼻部分が黄色に着色されるとともに、「足元にご注意下さい」の注意喚起が表示されている。狭い部分を通り抜ける場所では床面への注意がおろそかになる。段差の前後の床仕上げが同一であることも転倒を誘発する要因に。4屋外の公共通路の床をタイル張り仕上げにしているが、滑りやすい材質であったため右端部分に滑り止めを施すとともに、「足もと注意」の注意喚起表示を設置している例。5自動ドアの両側のはめ殺し透明ガラスの足元に鉢物が置かれている例。この自動ドアの扉は中央の白い部分だが、壁と見間違えやすく、両脇のガラス部分を通り抜けられるように見えるため、はめ殺しのガラスに正面衝突した人がいたと思われる。ガラスの前に鉢物を置いてあるのは事後対策。6屋外駐車場にある手すりを頼りに歩いていくと、外壁から張り出した袖壁に頭をぶつける危険性がある事例。事後対策として、足元に紅白の縞模様のポールを立てて注意喚起を図っているが、足元に設置したポールが新たに転倒事故を誘発する可能性も。08March, 2023|No.102|FLOW大震災の教訓が生かされました。仮設住宅の半数がみなし仮設住宅(民間賃貸住宅を仮設住宅に準じるものと見なす制度)になりました。津波避難ビルの普及、機械室・電気室を地下ではなく上階に設置、企業の事業継続計画(BCP)作成、などの教訓が新たに生まれて全国に広がりました。何より「想定外を想定する」という大きな教訓が生まれました。梅田ビル放火、ソウルの群集雪崩の教訓 私が多くのメディアから取材を受けた2021年12月の梅田北新地のクリニック放火によるビル火災と昨年10月の韓国ソウル梨泰院での群集雪崩事故でも、今後の大きな安全の課題が浮き彫りになりました。梅田の放火されたビルは、階段が1カ所しかない古い6階以上の「既存不適格」建築物で、「全国に数万棟」(毎日新聞より)残っていると推計されます。火災からの避難は2方向避難が理想で、反対方向の階段設置や避難バルコニーの設置で安全性は高まりますが、多額の改修費用や使えるスペースが減ることなどから二の足を踏むビル所有者が多いのが現実です。一時避難スペースの設置などの新ガイドラインもできましたが、私は屋内避難階段の床面積を容積率の対象外にする緩和策が古いビルを改修する動機の1つになると考えてい過度に恐れず、正しく恐れる 近い将来に予想される東南海地震など大災害や事故から命、財産を守るために大事なことは、普段からリスクを想像する力です。防災倉庫の扉を他の扉に合わせて内開きにして、地震で中の物が崩れて扉が開かなかったり、機械室を地下にしたため水害で使い物にならなくなったり、残念な例は枚挙にいとまがありません。地震に関して建築の耐震設計は年々進化していますが、避難計画などのソフトが追い付いていないのが現状です。建築家は建築計画の段階で非常時と日常を区別せず、建築計画による耐震化を図る必要があります。「過度に恐れず、正しく恐れる」ことを設計段階で頭に入れておけば安全性とデザイン性は両立するはずです。一般市民も安全な建築や環境を見抜く力を身につけたいです。具体的には家を買う時に専門家に安全性や適法性をチェックしてもらったり、周辺の地盤情報やハザードマップを参考にしたりすることなどです。ます。 群集雪崩事故は明石の花火大会歩道橋事故(2001年7月)でも同じですが、建築空間よりも建築基準法が適用されない屋外空間で発生しやすいので、群集事故発生の予防は建築(ハード)よりも制御(ソフト)が重要です。普段から、エレベーターでブザーが鳴るくらいの人の密集度になったら警戒が必要な目安です=写真は2㎡に28人が密集する詰め込み実験を上から撮影したもの。群集は単なる個人の集合体ではなく、個人の意思では動きをコントロールできないものだと肝に銘じて警備などのソフトの対策が重要なのです。群集事故はスタジアムや劇場など大規模集会施設でも起きる可能性もあります。その対策も含めた「集会施設等の避難安全のバリアフリーデザインの手引き」を建築学会で私が責任者になって現在まとめているところです。墜落の危険性転落の危険性転倒の危険性足を滑らせる危険性衝突の危険性頭をぶつける危険性 地震や火災などの非常災害とは別に、建築に起因する日常災害(墜落、転落、転倒、ぶつかり、挟まれなど)も私の大きな研究テーマです。日常災害でも最悪の場合は死に至ることもあり、社会の高齢化やバリアフリー法施行による障害者の外出機会の増加を考えると軽視できません。建築の安全性とデザイン性の両立がますます重要になっています。私が収集した建築に潜む危険の例を紹介します。せっかくのカッコいいデザインが後から注意喚起の看板や張り紙、色テープでカッコ悪くなってしまう例が至る所で見られます。1吹き抜けに面した手すりが低いため、寄りかかると墜落する危険性がある箇所。通常なら、物理的に転落できないような安全対策を講じるべきところを、注意喚起の看板で済ませている。 こうした設計の不注意に起因する危険だけではなく、避難安全と防犯対策、バリアフリーが相矛盾する例もあります。バルコニーや屋外避難階段は外部からの侵入経路になりますし、バルコニーは患者が発作的に飛び降りる恐れもあります。扉や窓の開閉を厳重にすれば避難を妨げます。また、高齢者や障害者のために設けた手すりに子供が足をかけて墜落するという事故もあります。車いすのために歩道の段差を下げると視覚障害者が気づかずに車道に出たり、逆に点字ブロックの凸凹が車いすの通行を妨げたりすることもあります。日常に潜む建築リスク

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