常翔学園FLOW102号
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■さいとう・ようすけ 2009年茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科卒。2019年静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府食品栄養科学専攻博士課程修了。筑波病院と青森慈恵会病院で管理栄養士として勤め、山形県立米沢栄養大学助手などを経て、2021年から現職。博士(食品栄養科学)。青森県出身。10March, 2023|No.102|FLOW鉄に炭素やマンガンなどの合金元素を加えて材料組織の制御を行った「ハイテン材」や「超ハイテン材」、更には鉄と全く違うアルミニウム合金などの異種材料まで使われるようになったのです。新素材の溶接でできるひずみをどうコントロールするかなどが大きなテーマになっています。「材料の進化に工法がまだ追いついていないのが現状です」。 その最適な工法を追究するための頼もしい味方が大学に最近導入されました。自動車メーカーが実際に使っている抵抗スポット溶接ロボットです。2000万円以上するロボットを溶接関連企業が寄贈してくれたのです。「このロボットで加圧や電流の流し方をこれまでよりずっと精密に制御できるようになり、研究のブレイクスルーにつなげたいです」と話します。昔から変わらない銅製の電極チップの形を変えたり、大型放射光施設「SPring-8」(兵庫県播磨科学公園都市)で材料の分析をしたり、精力的に抵抗スポット溶接の可能性を追求する伊與田准教授。研究室の卒業生が多くの自動車メーカーの溶接部門で活躍するようになり、「彼らと共同研究をすることで、日本のエンジニアリングに貢献したいです」と新たな夢が生まれています。 日本人のがん部位別死亡率が上位である大腸がんをはじめ、疾病の予防が期待できる「食事」の研究を行っているのが、管理栄養士でもある齋藤講師です。今取り組んでいるのは、“腸管内胆汁酸代謝”に与える食事の影響の解明。大腸がんの増加原因の一つに、肉類など動物性脂肪の摂り過ぎが言われています。脂肪は、肝臓で作られる胆汁酸によって可溶化されますが、多く摂取することによって胆汁酸の分泌量が増加。そして胆汁酸は腸内細菌によって代謝され、二次胆汁酸となり大腸に流入します。これに発がん性が認められるため、がんのリスクが高まるとされています。既報の研究では「食事と胆汁酸」、「食事と腸内細菌」といった2因子間を調査する研究はありましたが、齋藤講師は腸内細菌叢と排便を加えた4因子を俯瞰して追究することで、より確度の高い答えを出そうとしています。 2020年に行った調査で、大きな発見がありました。約70人の健康な人たちの胆汁酸の排泄状況、食事内容、腸内細菌の働きを調べたところ、胆汁酸の排泄量が多い人と少ない人では50倍の差があり、動物性脂質の高い摂取と不溶性食物繊維の低い摂取の組み合わせで、糞便中の二次胆汁酸濃度が高まる可能性が示唆されました。予想外なことに、ヒト肝臓で合成される一次胆汁酸を高く排泄している人が一定数存在していました。これは、胆汁酸のもとになるコレステロールが体外に出ているという証拠で、突き詰めれば、高コレステロール血症などの病気の治療につながるかもしれません。一次胆汁酸を優位に排泄した人は、他の二次胆汁酸を優位に排泄した人とは明らかに異なる腸内細菌叢を有しており、更に食事を調べると、食物繊維の摂取量が多いことが判明。現在は食物繊維の有効性についても追究しています。 この他、「日本人の減塩を促進する戦略提案」「リンを過剰摂取する若者への警鐘」など、齋藤講師の研究は一般の人にも身近なものばかり。そんな自身の研究の意義は「管理栄養士にエビデンスを与えることにある」と語ります。「患者さんに説得力のある栄養指導を行ってもらうために、科学的な根拠を示すのが私の役目です」。現場で生きる研究がこれからも続けられていきます。今回紹介する常翔学園内3大学の若手研究者のテーマは、「自動車産業を支える溶接技術の時代に合わせた革新」、「薬を効果的に体の部位に運ぶ薬物輸送システム(DDS)の新手法」、「栄養学を武器に取り組むがんなどの病気予防」です。どれも社会に大きな恩恵をもたらすことが期待される研究です。広島国際大学 健康科学部 医療栄養学科■いよた・むねよし 2009年大阪大学工学部応用理工学科卒。2014年同大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻博士後期課程修了。同年大阪工業大学工学部機械工学科特任講師。2021年から現職。博士(工学)。剣道3段で、日本刀の熱処理のコンピュータ・シミュレーションも研究テーマの1つ。兵庫県出身。齋藤 瑛介講師疾病予防が期待できる食事を探求現場の管理栄養士に必要なエビデンスを発信「腸管内胆汁酸代謝に影響を及ぼす食事因子」の追究

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