常翔学園FLOW99号
31/32

年“モノ”語り」機会が訪れたわけである。しかし、戦災で失ってしまった校舎をはじめとする実験実習設備や図書などの復興は、20年12月末からの学園混乱のため思うように進まなかった。そればかりか、学園内では、ほかに「身売り」する考えすら芽ばえていた。…学園はその岐路に直面した>=65年史第4章「戦後教育改革」 戦後の資金難の中で新制大学への昇格は大変な難題で、その過程で裁判沙汰になるような「身売り」話が現実問題としてあったというのは驚きです。この合併を持ち掛けた「某大学」とは関西大学のことですが、「もし、あの時合併していたら」と、想像をかきたてる「常翔学園史のif」の一つです。 <テクノポリスをめざす地元の要請による多度津町への進出について、その基本的な諸問題と見通しが示されたうえで、「慎重な対処」が望まれるとしている>=65年史第7章「21世紀をめざして」というもので、香川県多度津町への進出が一時検討されていたことが分かります。本州四国連絡橋「瀬戸大橋」(1988年開通)のできる前の話です。 新大学構想はその後本格化。1995(平7)年に教育関係諸問題検討委員会が<「大学冬の時代」を生き抜くためには医療福祉を中心とした新大学設立が肝要である>(80年史第8章)と理事会に提示。広島国際大の開学(1998年)として実現するのですが、その過程で複数の候補地が挙がっていました。<大学誘致を要請しているところは、広島県、大分県、秋田県、山形県などがあったが、その中から広島県賀茂郡黒瀬町を選択した>=80年史第8章「21世紀を迎えて新たな飛躍へ」 四国や九州、更には東北という「if」もあったのです。〈最終回〉29FLOW|No.99|August, 2022はやその 学園として初めて周年史を編んだのが50年史(A6判805ページ)でした。法人名が「学校法人大阪工業大学」の時代で、書名も「大阪工業大学学園五十年史」です。1972(昭47)年、70年安保闘争で全国の大学に紛争の嵐が吹き荒れ、まだ世相が騒然としていた時期でした。「編纂を終って」(あとがき)で森暢編纂委員長が、<編纂の仕事は夙く昭和四十二年度(1967年度)から始められたが、其後止むを得ぬ事情のため三年近く中断…>と書いた「止むを得ぬ事情」が大学紛争だったのです。初めての周年史で全くの白紙からの編纂は苦労が多かったようです。 <何よりも困難であったのは、学園初期の資料が乏しいことであった。これは学園五十年の間に遭遇した火災や戦災によるもので…>=50年史「編纂を終って」  <編纂にあたってとくに配慮したことは、正確な資料によって学園五十年の歩みをとらえること、それと共に、…建学精神の道程を注意することであった>=同 周年史を編むことは学園のアイデンティティーを確認する作業でもあるのです。<某大学が大阪の地に一大総合大学をつくろうとする構想を立て、わが学園にも参加の呼びかけがあった。(理事会においても)この某大学と合併する機運が出はじめた時点で、これを阻止するため、ついに…仮処分の訴えを起こした>=50年史第3章「摂南のあらし」、60年史第3章「戦争と混乱」 65年史には、もっと分かりやすく記述されています。 <学園が最も頭を痛めたのは、摂南工業専門学校の大学昇格問題であった。(昭和)16年当時からの工業大学を開設したい希望を実現する学園史のif〈1〉50年史、60年史、65年史で記述されていて、その後の70年史、80年史には記述がないのが、戦後の学制改革で摂南工業大学(その後、大阪工業大学に名称変更)が誕生する前のある動きです。学園史のif〈2〉 もう一つの「常翔学園史のif」が、大学の進出先です。65年史には、学園の将来計画について藤田進・第7代理事長時代に検討委員会が作られ、1次、2次の答申があったことが書かれています。1985(昭60)年の1次答申の中身は学園センテニアル企画centennial13「常翔学園の歴史を記録する50年史から80年史まで過去5冊の周年史学園のアイデンティティーを確認する作業左から「50年史」、「60年史」、「65年史」、「70年史」、「80年史」     編纂中の「100年史」の表紙左から「50年史」、「60年史」、「65年史」、「70年史」、「80年史」     編纂中の学園の100年の歴史を振り返ってきた本企画も今回が最終回です。常翔歴史館などに残された具体的なモノを手掛かりに時代時代の学園のです。常翔歴史館などに残された具体的なモノを手掛かりに時代姿を描いてきました。現在、学園創立100周年記念事業の一つとして「100年史」の編纂作業が急ピッチで進められていますが、600ページ以上の分厚い歴史記録になります。その「100年史」を額縁に入った重厚な油絵作品と例えるなら、この「100年“モノ”語り」は短い時間でスケッチブックにサッと描いたデッサンとも言えます。そのデッサンの13枚目となる最後のテーマは「学園の歴史を記録する」です。これまでに学園は「50年史」(1972年)、「60年史」(82年)、「65年史」(87年)、「70年史」(92年)、「80年史」(2002年)と5冊の周年史を刊行してきました。これらの周年史を読み比べると、歴史に埋もれた意外な“再発見”や「建学の精神」が次第に明確な形になってきたプロセスなどが分かります。今年10月30日に学園は創立100周年を迎え、新たな歴史の記録作業も始まります。

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る