08May, 2022|No.98|FLOW聖地・メッカソウルフード「カブサ」アラビアンコーヒー。黄色っぽい色が特徴研究室で飼育している「相棒」のムール貝日本語学校の日本語弁論大会ではトーブを着用日本での留学生活が7年目を迎えました。振り返ってどうですか。 サウジアラビア王国政府からの奨学金を受けるにあたって、大阪府内で医療・工学の2つの分野を学ぶことが条件だったため、それが実現できる大阪工大を選びました。学部に入学した当初は難波に住んでいたのですが、地下鉄御堂筋線の混雑状態にびっくり。また、思った以上に通学時間がかかったので、大学近辺に引っ越しました。現在は自転車で10分の距離に住んでいるので、満員電車に困ることもないし、浮いた時間を学業に費やしています。指導教員の藤里俊哉教授や研究室の仲間はとても優しく、研究に集中することができています。日本に来て驚いたこと、感動したことはありますか。 難波から大学近辺に引っ越す際、各種手続きに紙が多く使われているなと意外に思いました。サウジアラビアはここ数年、行政手続きなどのオンライン化が進んでいてスマートフォンさえあれば何も困らない状態になりつつあります。運転免許証もアプリがあるのですよ。また、ラーメンの美味しさには驚きました。特にインスタントラーメンのクオリティーはとても高いと思います。他には、大分県へ観光した時のことが印象に残っています。日本一高い吊り橋「九重“夢”大吊橋」はスリリングでしたがそこから眺める景色は最高でした。別府市の温泉街も素敵ですね。夜、街頭の明かりに白っぽい湯気が照らされながらゆらゆら揺れているのは何とも幻想的で心打たれました。 また、日本に来て初めてスーツを着ました。母国では、男性は「トーブ」と呼ばれる白色の長いシャツワンピースを、女性は「アバーヤ」と呼ばれる黒いローブを着るのが一般的です。UAEなどアラビア諸国でよく見かける民族衣装ですが、地域によって呼称や着用方法などが微妙に異なるのですよ。現在の研究内容について教えてください。 ムール貝が岩に張り付くことができる性質を利用して、傷ついた皮膚や組織、折れた骨などを接合する医療用接着剤を作れないかというのが私の研究テーマです。「相棒」であるムール貝を研究室で飼育していますが、最初は飼育方法が分からず苦労しました。魚市場の人にいろいろ教えてもらって、大きく成長させることができました。 ムール貝は糸のように足を伸ばして岩にくっつくのですが、その足はDOPAと呼ばれるアミノ酸を豊富に含むタンパク質で覆われています。一見貧弱な形をしていますが、伸縮や屈曲は自由自在で粘着力は非常に強靭。私は、この足から遺伝子を抽出し大腸菌に作らせることができないか検証しています。 実用化すれば、傷口の縫合は糸ではなく接着剤を使うことが可能です。縫合糸は、医師の技量に委ねる部分が大きく、後日抜糸も必要です。特に子供やお年寄りには負担が大きいでしょう。しかし接着剤ならそうした課題を解消することができます。将来の夢は何ですか 現在の研究を通して、縫合糸のない医療を目指したいです。そのためにまず、日本の医療機器メーカーへ就職しようと考えています。日本国内の医療機器市場は約3兆円に上り、アメリカに次ぐ世界2位。メーカー別の世界売上ランキングTOP20にはテルモ社など3社がランクインするなど、レベルも高いです。日本の医療機器メーカーの開発職に就いて、自分のスキルや技術を向上させるとともに、医療用接着剤の実用化に近付けたらと考えています。
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