通風に配慮した住宅の設計シミュレーションが建物を決定する時代に 従来、建築の形は意匠・構造面から決定されることがほとんどでしたが、シミュレーション技術の発達により設計プロセスの中で物理面を含めた検討が比較的容易に可能となり、環境工学の面からも決定・判断できる範囲は今後広がっていくものと思われます。逆解析には更に先の可能性があり、設計の初期検討案や改善案について、環境工学の根拠に基づくシミュレーションが牽引する、いわば「Simulation-driven」を具現した設計プロセスが現れるかもしれません。現段階では試行段階の部分も多くありますが、近未来における逆解析の発展・普及を期待しています。06May, 2022|No.98|FLOW変化(感度)を最大限に引き出せるかのデータを得られるのです。こうしたシミュレーションや解析の技術を実際の建築設計や都市計画に広めたいと取り組んでいますが、そのために更に使いやすく世の中で必要とされる手法に変えていかなければならず、さまざまな分野の専門家らと一緒に考えていく必要もあります。私の研究室では、建築家と協力して実設計へのシミュレーション技術の適用を試みたり、他大学の先生方や企業の人たちと議論したり、都市計画の研究室との共同研究を通して環境性能を担保した街区設計の在り方について検討したりと、幅広く連携することを重視しています。木密市街地の防災シミュレーション いくつかの共同研究の例をご紹介します。 大阪工大建築学科の岡山敏哉教授の研究室との共同研究が、「京都市の木造密集市街地における防災シミュレーション」です。わが国には木造密集市街地が数多くあり、災害に対して脆弱です。ここでは、京都市の歴史地区を対象として、火災を想定した防災シミュレーションをしました。火災時の延焼性状を防火対策別に示し、CFDを用いて火災時の煙流動を解析、マルチエージェントシミュレーションおのおの(各々に行動ルールを持たせた複数の人や生物などを同時進行的に相互作用させながら動かすシミュレーション)を用いて避難行動も予測しました。 この研究で、京都の町家で特徴的な裏庭を延焼防止帯や避難路として活用することの有効性が分かりました。また、煙流動に関するCFD解析では屋根の不燃化や延焼防止帯の有無など4つのケースで検証し、屋根を不燃化し、かつ裏庭を延焼防止帯として活用した場合が避難路を最も確保できていることが分かりました。避難シミュレーションは、煙流動の影響下で、風速、屋根の不燃化の有無、前面道路拡幅の有無、裏庭の避難路としての活用の有無、前面道路・裏庭を結ぶ通路の有無の組み合わせで6つのケースを設定し検証。裏庭を避難路として活用する有効性が示されました。宝塚市の斜面に実際に建てられた住宅の設計に、CFD逆解析を使って効果的な通風のための窓や間仕切り壁の位置を提案しました。 まずアメダスの気象データで土地周辺の風速・風向を分析。山沿いの地形に吹く特有な風を再現するためにGIS(地理情報システム)などで地形と建物をコンピューター上に再現し、CFD逆解析をしました。その結果、最適な外壁の開口位置と間仕切り壁の位置を決定しました。図の赤い色で示された所が効果的な(感度が高い)所であることを示しています。その他の研究例●公会堂ホールをCFD解析し気流と温熱の問題点を指摘し、逆解析で3階客席の空調吹き出し口の間隔を変えて気流を改善することを提案。●駅周辺の歩行環境を改善するため解析を行い、ビルの低層部をセットバック(後退)し公共歩廊にすることで風環境と光環境など環境性能が高まることを検証。●地下街の火災を対象に、CFD解析による煙流動シミュレーションとマルチエージェントシミュレーションを連携させ、避難計画と防災設備の改善を提案。■ 通風開口部の最適配置■ 京都市の木造密集市街地■ 4つのケースの煙流動結果■ 外壁の開口位置決定■ 間仕切り壁の開口位置決定■■■■■■■■■■■■■■■■ゃ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ぜいじゃく■■■■■■■■■■■■■2F3F1F
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