ニューウェーブ大阪工業大学工学部 建築学科CFD<作業フロー>1)モデルデータの作成2)計算格子の作成3)解析4)結果可視化研究内容を動画で紹介05FLOW|No.98|May, 2022こうの・りょうへい ■1998年早稲田大学理工学部建築学科卒。2003年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、2006年同博士課程修了。東京大学生産技術研究所特任研究員、同大学特任助教などを経て、2011年大阪工業大学工学部建築学科講師。2015年から現職。大阪市都市整備局ESCO事業提案評価会議委員。主な著書は、「エコ住宅・エコ建築の考え方・進め方」(共著、オーム社 2012、学術書)。博士(工学)。埼玉県出身。コロナ禍で建物内の換気や通風に関心が一気に高まりました。大阪工大建築学科の河野良坪准教授はこうした空気の流れだけでなく熱、光などの変化を最新の手法でシミュレーションや解析することで、環境性能を高めた建物や街区の設計、都市防災対策を実現する研究をしています。国が推進するゼロエネルギー住宅(ZEH)の達成などには、建築のデザインと環境とのバランスがますます重視されています。毎年、さまざまな研究者、建築家、企業と共同研究を実施し、実設計や都市計画に多様なシミュレーションを駆使した建築環境工学という新しい視点を導入しようとしている河野准教授に聞きました。 私が建築環境工学に興味を持ったのは東京大の大学院に入って東京大学生産技術研究所で風洞実験装置を使った研究を始めてからでした。今の研究につながる風のシミュレーションは、同研究所の研究員時代の委託研究で、高層ビルの風害を調べる風環境評価に携わったのがきっかけでした。以前、風環境評価は風洞実験で行われていたのですが、手作業で模型を作るなど大掛かりになるためコストも時間もかかります。実験や実測が最も信頼できるもので、コンピューターを使ったシミュレーションは実験や実測に対して信頼性がやや落ちるものの、低予算かつ短期間でできる利点があります。そこで私も風洞実験から、CFD(数値流体力学)などの解析・シミュレーション手法を使った研究に軸足を移していったのです。現在では多くの風環境評価はシミュレーションで行われているのが実情です。『CFD(Computational Fluid Dynamics : 数値流体解析)』流体の運動方程式をコンピューターを使用して解くことで、気体・液体の状態を観察する手法。熱移動に関しても併せて解くことも多い。■ シドニーのオペラハウスの風解析教育・研究 CFD解析というのは流体の運動方程式についてコンピューターを使って解くことで気体・液体の状態をシミュレーションして観察する手法です。大阪工大に着任してから、主に建築分野において、使いやすいCFD解析を可能とする「FlowDesigner」というソフトを開発した企業(アドバンスドナレッジ研究所)と共同研究し、研究で得られた知見をソフトの改善にフィードバックする形で協力してきました。それによってCAD(コンピューターによる設計支援ツール)で設計した建物の3Dデータを簡単に取り込んでシミュレーションできるようになりました。10年ほど前のことですが、今では多くの大手建設会社も使っています。図はシドニーのオペラハウスのCADによる3Dデータを取り込み、風の流れを無数のパーティクルの動きで視覚化した例です。 最近の研究の主軸は、このCFDに「随伴変数法による逆解析*」という手法を組み合わせて建築の環境設計に応用することです。この逆解析は機械系分野における航空機の翼の設計などに用いられる手法です。通常のCFD解析ではさまざまなケースを順々に計算して高い性能が実現できる答えを網羅的に探していきます。逆解析とはこの繰り返しの手間を省き、数学的手法で現状よりも優れた答えを得ることのできる非常に便利な方法です。例えば「住宅の壁のどこに窓を開ければ最も理想的な風の流れを生むか」という課題を通常のCFD解析では、さまざまな位置に開けた窓ごとに風のシミュレーションをします。これに対して逆解析を使えば、1回のCFD解析結果から、どこに窓を開ければ(設計変数)、目標となる風の*注=「設計パラメーターを決めて既知とした上で未知の結果を推定する」ことを順解析と呼び、逆に「既知の結果から未知の設計要因を推定する」ことを逆解析と呼ぶCFDや逆解析などのシミュレーションを駆使風を読み、光や熱を捉え建築物の環境性能を高める新時代の設計手法河野 良坪准教授
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