常翔学園FLOW97号
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■はしむら・まさや 2005年西南学院大学商学部経営学科卒。2015年明治大学大学院経営学研究科経営学専攻博士後期課程単位取得退学。同大学院同研究科教育補助講師、同大学経営学部兼任講師などを経て、2019年広島国際大学医療経営学部医療経営学科特任助教。2020年から現職。福岡県出身。12March, 2022|No.97|FLOW広島国際大学 健康科学部 医療経営学科 航空機の整備や工場での部品組み立てなど、両手がふさがる作業現場。指示書やマニュアルを手に持ちながら仕事をすると、どうしても効率が落ちます。井上准教授は安全用保護具や光学機器開発に定評のあるメーカー・山本光学(大阪府東大阪市)と共同で、視線計測機能付きスマートグラスを開発し、課題解決に挑戦しています。 試作したスマートグラスには、ホログラム導光板ディスプレイを搭載し、この透過画面に映し出される画像などを確認しながら作業ができるようにしています。また、眼球を撮影するカメラも搭載し、一定範囲の場所を見たときに表示情報を切り替えるシステムを開発しました。表示切り替えのために手を止めてスイッチを押すなどの操作が不要なので、次の手順にスムーズに進め、作業効率もアップします。この便利さを多くの人に体験してほしいと思い、ルービックキューブを使ったデモシステムを構築しました。混ぜたルービックキューブの色の配置情報から計算された作業(解法)手順がスマートグラスに映し出されます。作業を行い、再びスマートグラスを見ると次の操作を示してくれます。指示通り動かしていくと簡単に色がそろうのです。2021年11月にあべ 「長く生き生きと働ける職場にするには何が大切か」。人的資源管理論を専門とする橋村助教は、近年その重要性が説かれる「健康経営」に注目し、研究に取り組んでいます。 「健康」と「経営」。一見かけ離れているようにも見えますが、従業員の健康保持・増進の取り組みが将来的に企業の収益性を高めるという考えの下、健康管理を経営的視点から実践する「経営手法」として生まれたのが、健康経営です。健康診断などの従来の「ヘルスケア」にとどまらず、ワーク・ライフ・バランスの整備、運動機会の増進、受動喫煙対策といったさまざまな健康に関する施策を実施し、従業員の健康管理・健康づくりを推進する。それが医療費の節減だけでなく、従業員の活力向上、生産性の向上をもたらし、結果的に業績向上や組織の価値向上へとつながる。労働人口の高齢化が進む現代社会において、その取り組みは、ますます重要になってきています。 健康経営の概念は、1992年にアメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが著書「ヘルシーカンパニー」で「健康な従業員こそ収益性の高い企業をつくる」と提唱したことに始まります。アメリカでは、1980年代から労働災害が増大し、公的医療保険制度が整っていない中で、従業員の医療費負担が企業経営にとって深刻な問題となっていました。こうした背景から、健康経営が90年代に入って広がっていきました。 日本でも90年代以降、国民医療費増大が目立つようになりました。働く人々の健康が企業経営に及ぼす影響がより深刻になるだろうとの危惧から、2006年に大阪ガスの元産業医だった岡田邦夫氏らがNPO法人のハルカス(大阪市阿倍野区)で実演展示した「ハルカス学園祭」では、小学生から大人まで多くの入場者が試着してルービックキューブにトライ。「あっという間にそろった」と感嘆の声が上がりました。 他にも、生体電位センサ、加速度センサを備えたウェアラブル機器も開発しています。グローブ型ウェアラブル端末は、手袋に、筋肉の収縮に伴って発生する微弱な電気信号を感知する生体電位計測機器と、腕の動きを認識する加速度センサを搭載しています。「より自然な人の動きから機器を制御できるよう、更に研究を重ねたい」と井上准教授は話します。グローブは、例えば組み立て工程におけるネジ締め作業において、単なる作業の完了判定だけではなく、「締め過ぎ」「締め足りない」などを含めた認識を目指しています。「将来、伝統工芸の名人レベルの繊細な技術も、筋電でデータ化したい」と語り、貴重な匠の技を継承する新たなツールとして期待が広がります。スマートグラスも、「障害を持つ人の支援や宅配の届け先を画面でガイドするなど幅広く社会で役に立つものにしたいですね」。ヒューマンセンシングには、私たちの未来を変えていく可能性が広がっています。健康経営研究会を発足し、啓発活動を開始しました。 政府も国民の健康増進を図る国策の一つとして健康経営の普及・推進を掲げ、経済産業省は2014年から上場企業が対象の「健康経営銘柄」を選定し、2016年には中小企業も対象となる「健康経営優良法人認定制度」を創設するなど、各種顕彰制度を設けています。 しかし、日本ではまだ馴染みが薄いのが実情です。橋村助教は、「広島県の中小企業5万社のうち、健康経営に取り組んでいるのは1500社程度。国全体の実施比率も高くありません。費用対効果の明らかな実証がないことも理由の一つかもしれません」と課題を語ります。 健康経営の実践には「健康保険組合を運営する保険者と、経営者が連携して自社の健康課題をデータ分析し、従業員も積極参加して効果的な施策を考え実施する。三者一体となって健康増進の施策に取り組む『コラボヘルス』が肝心でしょう」と橋村助教は話します。「取り組んだ効果は数値評価よりも定性的に捉えることが大事です」。健康経営の普及を目指して橋村助教は研究を続けます。 私たちの未来を変える新たな機器「スマートグラス」、18・19歳の扱いが来月から大きく変わる「改正少年法」、近年注目されている新しい概念「健康経営」。 新年度の4月を前にした今回の「JOSHO FRONTIER研究最前線」は、「新しい」をテーマに各分野の研究に取り組む学園3大学の若手研究者を紹介します。橋村 政哉助教良い職場は「健康経営」の実践からコラボヘルスで未来をひらけ

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