18August, 2021 | No.94 | FLOW広島国際大学 総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻平元 奈津子 講師 平元講師は、妊娠・出産といった女性特有の体の構造や役割に注目するウィメンズヘルスの分野で理学療法の観点から研究を進めている、日本における第一人者です。 妊娠すると筋肉などが緩み、腰や骨盤、背中の痛み、尿失禁といったトラブルが起こりやすくなります。また、それらが産後まで続く人もいます。2人の子供がいる平元講師は妊娠した当時、理学療法士として病院に勤務していましたが、自身も体の痛みに直面しました。「妊娠中も職場復帰後も、腰などの痛みがあって本当につらかったです」と振り返ります。 実体験を踏まえ、妊産婦を対象とした研究を思い立ちますが、この分野で日本は海外に比べ遅れていました。身近に研究者がいない中、妊産婦の姿勢に焦点を当て、背骨の弯曲の変化を写真撮影して分析したり、症状を聞き取ったりと地道な取り組みを重ねてきました。 その結果、さまざまな発見がありました。「妊娠するとお腹や胸が大きくなって背中が反りますが、日本人の妊婦は欧米人に比べて背中が平らになる傾向がありました。これは腰痛の原因になります」。また、妊娠中に背中が反り、産後もその姿勢が続く人がいることも分かりました。「赤ちゃんを前に抱えることが多いので重心を後ろに倒してバランスを取っているのですが、これも腰や背中の痛みにつながるのです」と指摘します。 理学療法士はリハビリのプロフェッショナル。姿勢や赤ちゃんの抱き方をどう修正すれば痛みを軽減できるか、妊産婦に有益なアドバイスができます。「このことを知っていただければ、体をきちんと回復させて職場復帰できます。次の妊娠をする時も『子育てっていいな』と精神的なつらさを感じずに済むのではないでしょうか」と話します。 少子高齢化が深刻化する中で、平元講師の研究は少子化対策にも大きく寄与する内容です。「使命感を持って、着実に研究を続けていきたいです」と、力強く語りました。妊産婦に理学療法を 楽しく子供を産み育てる社会の実現を目指して■ひらもと・なつこ 1998年広島大学医学部保健学科卒。2006年広島国際大学保健医療学部理学療法学科(現:総合リハビリテーション学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)助手。2007年同助教。2011年同大学院総合人間科学研究科医療工学専攻(現:医療・福祉科学研究科)博士後期課程修了。2016年から現職。博士(医療工学)。広島県出身。教えてくれる仕組みの構築です。光沢紙は光の反射が強く、マット紙は色の再現率が高いなど、用紙によって特徴があります。これまではどれを選択するかは個人の感性だと考えられてきましたが、大学院生と上野講師は研究相談を重ね「写真と調和する用紙」を提案するアプリを開発しました。写真コンテストで入賞した作品を「正解」として、AIに写真の内容と用紙の関係を学習させることで、その写真にふさわしい用紙を選択できるようにしました。アプリは一般に公開することも検討しています。 また、撮影した写真の良い点をAIが褒めてくれる「ほめますシステム」も開発しています。写真の「主役」を推定、構図を評価する他、「伝えたいことは生命感」「物語性がある」などと客観的な表示を目指しています。写真コンテストで受賞歴のある大学院生が撮影した写真にラベルをつけてデータセットを構築。このシステムを使えば、撮影者に対しAIが写真の講評をするのです。褒めることで、作品にどのような魅力があるかを再認識できます。「創作をする人がもっと増えてほしい」。ほめますシステムには大学院生と上野講師のそんな願いが込められています。 上野講師の研究室には、漫画研究部に所属していたり、書道経験があったりと、自分で創作活動をしている学生が在籍しており、学生の創作物を研究で使うことも多くあります。上野講師自身も、物心ついた頃からイラストや小説を書いていたという創作者の一人です。本に囲まれた環境で育ち、アニメや映画、ドラマなどの映像表現も好んで鑑賞してきました。「昔から作品を通して、登場人物がどんな人かを推し量っていました。コンピュータを使って創作者が込めた思いを、どのようにプログラムとして表せるかが研究者としての関心事です」。人間の心の領域と深く関わっている創作の世界にAIが何をもたらすのか。上野講師のこれからの研究に注目です。抱っこ紐が長すぎる時(左)と適切な長さの時(右)の姿勢の違い 写真や小説などの創作物をAIで定量化し創作者のパートナーになれるようなシステム、薬ではなく栄養素で行動をコントロールし精神疾患の予防や改善を図る「行動栄養学」、日本ではまだなじみの薄い理学療法によるウィメンズヘルス。 いずれも新しい視点で研究に取り組み、今後の成果に期待が高まる3人の若手研究者を紹介します。▲(東京五輪で)気になるのはLGBT(性的少数者)や障害者への対応です。……LGBT対応の「どなた様もご自由にご利用下さい」と表示された男女別ではない公衆トイレはもっと必要です=87号・野村佳子摂南大経済学科教授 オリンピックとパラリンピックをきっかけに世界の常識になったものも少なくありません。あのトイレのマークがそうだったとは驚きでした。▲1964年の東京オリンピックから大会シンボルマーク(エンブレム)や競技、施設のピクトグラムの使用が始まりました。その時の男女別のトイレのマークはデザイナーたちが著作権を放棄したこともあり、今や全世界で使われています=68号・大塚理彦大阪工大大学院知的財産研究科教授 これからの常識になりそうなのが5G(第5世代移動通信システム)です。▲競技場での4Kや8Kの超高精細映像配信が可能となり、数万人の観客のそれぞれの端末に同時に何種類もの映像を送ることができます=83号・村川一雄大阪工大大学院知的財産研究科教授 5Gはセキュリティー技術にも革命をもたらしそうです。 競技の意外な魅力 さまざまな競技についても現役選手や経験者ならではの視点も得られました。まずは自転車ロードレースから。▲面白いのは、自転車競技には人間性が表れることですね。風をよけながら走らなくてはならないので、集団の中で風を受ける役目を順番に担うことになるのですが、……風をよけてばかりの利己的な人は、たとえ勝者になっても、同じレースで戦った人たちに評価してもらえないのです=58号・阿部良之さん 50歳を過ぎてトライアスロンを始めた鉄人の言葉は、▲トライアスロンは3種目で主に使う筋肉が違います。マラソンを長くやると足を痛めたりしますが、トライアスロンはバランスよく体を使うので、むしろ長く続けられて高齢者向き=84号・山路博文広島国際大リハビリテーション学科教授 近年、人気スポーツになったのがスポーツクライミングです。▲頭を使ってルートを読んでいるうちに、子供たちの集中力が養われるとも言われています。自然の岩場を相手にする時は命懸けですから、集中せざるを得ません。もともとそういう競技なのです=73号・林照茂さん 日本が世界をリードする競技になってきた競歩界の先駆けからは、▲普通の人が1㎞を5分で走り続けるのは大変です。競歩の面白さは、それよりも速く「歩いている」ということ=65号・森川嘉男さん 最後は学園内の期待の中高生アスリートたちが自分の競技について話してくれました。▲飛び込み競技の魅力は、…水しぶきが少ないことや、入水の角度やその美しさ、ひねりや回転などの技術で観客を魅了すること=81号・井戸畑和馬さん▲背泳ぎは…きれいな泳ぎをする人が速い=同・奈須一樹さん▲バレーボールは、…ボールを拾ってつないで…みんなで喜べるというのが一番の魅力です=同・酒井優英さん▲ラグビーの魅力は…自分が倒れてもボールをつないでトライまで持っていくことです=同・石田吉平さん スポーツの価値を見直す▲日本は、根本に「遊び」や「楽しみ」があったスポーツの歴史や人生を豊かにする価値を問うことをおろそかにしたため、…「精神主義」や、…「勝利至上主義」のような偏った方向に進み…=89号・服部宏治広島国際大健康スポーツ学科教授 世界中でスポーツが止まってしまったスポーツの危機を目の当たりにして、多くの人々がその本来の価値に向き合うことにもなりました。 全インタビューは学園Webサイトhttps://www.josho.ac.jp/ow/olympic/でご覧いただけます。14August, 2021 | No.94 | FLOW「新しい公共」としてのスポーツ政策(石井信輝・摂南大准教授)女子柔道の指導(薪谷翠・全日本女子シニアコーチ=常翔学園高卒)自転車ロードレースの魅力(阿部良之・シドニー五輪代表=大阪工大卒)フィギュアスケートの魅力(加納誠・カルガリー冬季五輪代表=摂南大卒)7人制ラグビーへの期待(橋野皓介、加藤慶子・セブンス日本代表=常翔学園高卒)スペシャルオリンピックスを支援(高尾文子・広島国際大教授)五輪で変わるテレビ技術(石原將市・大阪工大教授)箸置き台で五輪おもてなし(発明者の村瀬重雄さん=大阪工大卒)マラソンとあきらめない心(有森裕子・バルセロナ銀、アトランタ銅メダリスト)競歩界の先駆け(森川嘉男・モントリオール五輪代表=常翔学園高卒)パラリンピック支援の義肢装具士(月城慶一・広島国際大教授)リオ五輪の渋滞対策(山口行一・大阪工大准教授)東京五輪エンブレムの知財騒動(大塚理彦・大阪工大大学院教授)世界と戦うテコンドー指導(山下博行・全日本コーチ、学園職員)64年東京パラリンピックの映像分析(崎田嘉寛・広島国際大講師)真夏の五輪の熱中症対策(高山成・大阪工大准教授)五輪の卓球ボール研究(上田整・大阪工大教授、荒木直翔、太田尚吾=大阪工大生)可能性広がるスポーツクライミング(林照茂・オーシーエス代表取締役=啓光学園中高卒)五輪の経済効果(郭進・摂南大准教授)トップアスリートの筋肉と素質(中村友浩・大阪工大教授)女子アスリートの月経問題(藤林真美・摂南大准教授)政治に翻弄された近代五輪の歴史(川田進・大阪工大教授)トップアスリートとシューズ(大窪伸太郎・広島国際大講師)柔道形競技で世界一(横山喬之・摂南大講師)期待の常翔アスリートたち(石田吉平、井戸畑和馬、奈須一樹=常翔学園高生、酒井優英=常翔啓光学園中生)5Gで変わる五輪観戦(村川一雄・大阪工大大学院教授)夏も冬も トライアスロンの魅力(山路博文・広島国際大教授)五輪で無電柱化促進(福島徹・摂南大教授)アスリートを支えるスポーツ栄養士(梶井里恵・広島国際大講師)五輪のおもてなしと観光経済の課題(野村佳子・摂南大教授)感染症が歴史を動かす(高松宏治・摂南大教授)スポーツの危機にスポーツを見直す(服部宏治・広島国際大教授)観光産業の質的転換を(持永政人・摂南大教授)ドーピングの落とし穴(中原和秀・摂南大講師)34回のテーマとインタビュー相手(肩書は当時)①56号②57号③58号④59号⑤60号⑥61号⑦62号⑧63号⑨64号⑩65号⑪66号⑫67号⑬68号⑭69号⑮70号⑯71号⑰72号⑱73号⑲74号⑳75号㉑76号㉒77号㉓78号㉔80号㉕81号㉖83号㉗84号㉘85号㉙86号㉚87号㉛88号89号90号92号
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