ボトルネック•保健所年施設→年施設•感染病床年床→年床•医師数人口人当たり人加盟国のうちデータのあるか国中の位(年)•日本は水際対策中心(検疫)•は幸い日本に感染が無かった。島国の日本は水際対策重視頼みの保健所も30年で半減 新型コロナ禍が浮き彫りにしたシステムの制度疲労を見ていきます。日本の感染症対策は長く水際対策つまり検疫が中心でした。島国という地形的な有利さもあり、新型コロナ以前はそれがうまく機能しました。検疫という上流で食い止めれば、下流が被害を受けることはないという戦略です。ところが新型コロナウイルスという新たな敵は、あっさりと水際をすり抜けていきました。上流のダムが崩れて、下流の病院が洪水に見舞われたのです。水際戦略の成功体験が根拠なき自信を生んでいたのです。 過去の感染症の細菌やウイルスと違う新型コロナウイルスの大きな特徴は、発症2日前からウイルス量が多いことと無症状者が多いステルス性(見えにくさ)です。検疫で正しく陽性と判定できずに感染者を見逃すと市中感染につながります。人間に感染するコロナウイルスは、SARS、MERS以前は4つしかありませんでした。SARS、MERSは日本では幸いにも感染者が発生せず、新興感染症の対策が水際対策重視の細菌時代のままになり、それがウイルス時代に機能しないことが新型コロナウイルスで明らかになったのです。 検疫をすり抜けて感染が広まってしまうと、次の頼みは保健所ですが、その保健所もこの30年近くで半数近くに減らされていたのです。地域の感染症対策は保健所の大きな役割で、PCR検査や濃厚接触者の疫学調査などのプロが仕事を担います。しかし、抗生物質などの登場で戦後、感染症が一気に減りました。また、スペイン風邪(1918~20年)の時代を除いて、長らく結核が死因順位1位を占め、感染症の対応は重要な課題でしたが、近年は悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が上位を占め、感染症対策の重要性が薄れました。ついには1994年、保健所法が改正された地域保健法で保健所は行政改革の対象になり、ピーク時の半数近くに減ったのです。公的部門に市場原理を適用したのです。この状態で新型コロナウイルスのパンデミックが起きると保健所機能はまひし、市中感染をコントロールできず、下流の高度な医療機関はその波を直接受けてしまいます。大阪府などでは濃厚接触者の調査を家族だけにせざるを得なくなり、市中感染が一気に拡大しました。 最後の頼みとなったワクチン接種ですが、日本はワクチン開発でも世界に遅れを取りました。過去の副反応問題もあって、製薬会社にはリスクを冒してまで開発するインセンティブがなかったうえに、政府の開発費支援も欧米と比べて桁違いの少なさでした。一方でGoToキャンペーンやアベノマスクに積極的に金を出した政府のコロナ戦略は小出し小出しで、理解しやすいストーリーがなく、国民は我慢を強いられ、不満だけが溜まりました。 水際対策と保健所の検査・調査機能が十分な効果を発揮できず、感染症や救命救急の専門医、ICU病床、感染病床などの高機能医療の圧倒的な手薄さ、ワクチン開発の遅れも重なり、医療崩壊の危機につながったと言えます。社会共通資本としての医療を 新型コロナウイルスが見つかる直前の2019年9月、厚生労働省が全国の公立・公的病院の424病院を「経営が非効率で医療財政を圧迫する」として再編統合の必要があると名指し公表しました。医療費削減を目指す国の地域医療構想=図=でも急性期病院や過剰病床の削減が進められてきました。市場原理からすると理にかなっていますが、皮肉なことに今回の新型コロナへの対応で大活躍しているのが名指しされた多くの病院です。平時にムダと見られたものが、有事には医療の「のり代」としてレジリエンス(柔軟性)の機能を発揮したのです。新型コロナが浮き彫りにした最も大きなことは、「医療を市場経済にこのまま委ねていいのか、それとも社会共通資本として市民は応分の負担をするのか」という問題なのです。効率重視の市場経済は一方で不公平も生みます。424病院が公表された時にはその地元の住民に大きな不安や反発を呼びました。市場原理だけでは医療の地域間格差は拡大します。<効率的な配分の中でより公平的なものを実現するためには、政府の介入が必要><大幅に市場に介入したり市場を否定するのではなく、一括補助金と一括固定税を使った所得再配分という(市場の機能を損なわないような)限定された政策を行ったのち、市場を使って資源配分すればよい>という厚生経済学の視点が参考になると私は考えます。 新型コロナから得るべき教訓は、成功のジレンマから脱出し、根拠に基づいた議論を重ねて制度疲労した医療システムを見直すことです。beforeコロナの時代に戻らせないという覚悟が必要です。新型コロナに「日本の医療はこのままでいいのか」と国民は課題を突き付けられているのです。地域医療構想の結果出所:厚生労働省第68回社会保障審議会医療部会資料 日本医師会「地域医療システム」より筆者作成高度急性期16.9万床(14%)高度急性期16.5万床(14%)急性期59.6万床(48%)急性期55.5万床(46%)回復期13.0万床(10%)慢性期35.5万床(28%)回復期19.2万床(16%)慢性期30.6万床(25%)医療需要増7.5万床(+6%)▲4.9万床(▲3%)▲4.1万床(▲2%)▲0.4万床(▲3%)6.2万床(6%)2025年見込121.8万床2015年度実績125.1万床16August, 2021 | No.94 | FLOWボトルネック•保健所年施設→年施設•感染病床年床→年床•医師数人口人当たり人加盟国のうちデータのあるか国中の位(年)•日本は水際対策中心(検疫)•は幸い日本に感染が無かった。島国の日本は水際対策重視頼みの保健所も30年で半減 新型コロナ禍が浮き彫りにしたシステムの制度疲労を見ていきます。日本の感染症対策は長く水際対策つまり検疫が中心でした。島国という地形的な有利さもあり、新型コロナ以前はそれがうまく機能しました。検疫という上流で食い止めれば、下流が被害を受けることはないという戦略です。ところが新型コロナウイルスという新たな敵は、あっさりと水際をすり抜けていきました。上流のダムが崩れて、下流の病院が洪水に見舞われたのです。水際戦略の成功体験が根拠なき自信を生んでいたのです。 過去の感染症の細菌やウイルスと違う新型コロナウイルスの大きな特徴は、発症2日前からウイルス量が多いことと無症状者が多いステルス性(見えにくさ)です。検疫で正しく陽性と判定できずに感染者を見逃すと市中感染につながります。人間に感染するコロナウイルスは、SARS、MERS以前は4つしかありませんでした。SARS、MERSは日本では幸いにも感染者が発生せず、新興感染症の対策が水際対策重視の細菌時代のままになり、それがウイルス時代に機能しないことが新型コロナウイルスで明らかになったのです。 検疫をすり抜けて感染が広まってしまうと、次の頼みは保健所ですが、その保健所もこの30年近くで半数近くに減らされていたのです。地域の感染症対策は保健所の大きな役割で、PCR検査や濃厚接触者の疫学調査などのプロが仕事を担います。しかし、抗生物質などの登場で戦後、感染症が一気に減りました。また、スペイン風邪(1918~20年)の時代を除いて、長らく結核が死因順位1位を占め、感染症の対応は重要な課題でしたが、近年は悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が上位を占め、感染症対策の重要性が薄れました。ついには1994年、保健所法が改正された地域保健法で保健所は行政改革の対象になり、ピーク時の半数近くに減ったのです。公的部門に市場原理を適用したのです。この状態で新型コロナウイルスのパンデミックが起きると保健所機能はまひし、市中感染をコントロールできず、下流の高度な医療機関はその波を直接受けてしまいます。大阪府などでは濃厚接触者の調査を家族だけにせざるを得なくなり、市中感染が一気に拡大しました。 最後の頼みとなったワクチン接種ですが、日本はワクチン開発でも世界に遅れを取りました。過去の副反応問題もあって、製薬会社にはリスクを冒してまで開発するインセンティブがなかったうえに、政府の開発費支援も欧米と比べて桁違いの少なさでした。一方でGoToキャンペーンやアベノマスクに積極的に金を出した政府のコロナ戦略は小出し小出しで、理解しやすいストーリーがなく、国民は我慢を強いられ、不満だけが溜まりました。 水際対策と保健所の検査・調査機能が十分な効果を発揮できず、感染症や救命救急の専門医、ICU病床、感染病床などの高機能医療の圧倒的な手薄さ、ワクチン開発の遅れも重なり、医療崩壊の危機につながったと言えます。社会共通資本としての医療を 新型コロナウイルスが見つかる直前の2019年9月、厚生労働省が全国の公立・公的病院の424病院を「経営が非効率で医療財政を圧迫する」として再編統合の必要があると名指し公表しました。医療費削減を目指す国の地域医療構想=図=でも急性期病院や過剰病床の削減が進められてきました。市場原理からすると理にかなっていますが、皮肉なことに今回の新型コロナへの対応で大活躍しているのが名指しされた多くの病院です。平時にムダと見られたものが、有事には医療の「のり代」としてレジリエンス(柔軟性)の機能を発揮したのです。新型コロナが浮き彫りにした最も大きなことは、「医療を市場経済にこのまま委ねていいのか、それとも社会共通資本として市民は応分の負担をするのか」という問題なのです。効率重視の市場経済は一方で不公平も生みます。424病院が公表された時にはその地元の住民に大きな不安や反発を呼びました。市場原理だけでは医療の地域間格差は拡大します。<効率的な配分の中でより公平的なものを実現するためには、政府の介入が必要><大幅に市場に介入したり市場を否定するのではなく、一括補助金と一括固定税を使った所得再配分という(市場の機能を損なわないような)限定された政策を行ったのち、市場を使って資源配分すればよい>という厚生経済学の視点が参考になると私は考えます。 新型コロナから得るべき教訓は、成功のジレンマから脱出し、根拠に基づいた議論を重ねて制度疲労した医療システムを見直すことです。beforeコロナの時代に戻らせないという覚悟が必要です。新型コロナに「日本の医療はこのままでいいのか」と国民は課題を突き付けられているのです。地域医療構想の結果出所:厚生労働省第68回社会保障審議会医療部会資料 日本医師会「地域医療システム」より筆者作成高度急性期16.9万床(14%)高度急性期16.5万床(14%)急性期59.6万床(48%)急性期55.5万床(46%)回復期13.0万床(10%)慢性期35.5万床(28%)回復期19.2万床(16%)慢性期30.6万床(25%)医療需要増7.5万床(+6%)▲4.9万床(▲3%)▲4.1万床(▲2%)▲0.4万床(▲3%)6.2万床(6%)2025年見込121.8万床2015年度実績125.1万床16August, 2021 | No.94 | FLOW
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