08March, 2021 | No.92 | FLOW広島国際大学 健康科学部 心理学科西村 太志 准教授 「コロナ禍の巣ごもりで『鬼滅の刃』にも関心を持つようになりました」と笑う西村准教授。家庭内の会話が増えて「妻から2人の息子に広がった」鬼滅ブームに自身も巻き込まれていったと言います。専門の社会心理学の「イノベーター理論」でこうした流行現象を、「2段階の流れがあって、最初は新しいものに敏感なオピニオンリーダーが飛びつき、やがてその影響を受けたフォロワーに広がります」と説明します=図。オピニオンリーダーの持つ多様性とフォロワーの特徴である同質性のバランスの上に成立する流行ですが、人と人のつながりの構築に関心のある西村准教授にとってこの多様性と同質性は研究のキーワードです。 大きな研究テーマは「子育て期の親の対人関係」。特に現代の核家族社会では妊娠・出産を経た女性の対人ネットワークは小さく同質なものになりがちです。孤立化を防ぐために、どうすれば多様なネットワークを作れて人とのつながりを広げられるのか。西村准教授は<幼少期や青年期には、ネットワークを持つ他者を介して対人関係構築を拡充・維持しようとする>という「社会的代理人仮説」を子育て期の母親に適用しようとしています。オンラインでの500人規模の全国調査も実施。その結果、夫が社会的代理人としてサポートすることの重要性が明確になりました。「子育て中の母親には、夫のようなある程度同質性のある代理人が安心感を生む一方で、多様に変化する世の中とのつながりを絶たないリスク回避にもなっています」と話します。 男性と女性のつながりの構築の研究もテーマの1つです。実験的にグループお見合いを企画し、参加者全員順々に相手を変えて1対1の会話を繰り返してもらう「スピードデーティング」の研究も全国の社会心理学研究者と共同で進めています。未婚率の上昇や少子化という問題を抱える日本で、特にシャイな人の恋愛を後押しするヒントにもつながる研究です。これまでの研究では「シャイな参加者は異性とマッチングしにくいと思われがちですが、会話を繰り返していくと次第に慣れてくるため、恋愛の進展にあまり影響がないことが分かってきました」と話します。対面のコミュニケーションが取りにくくなったコロナ禍の中でも、西村准教授のより良い「人と人とのつながり」を追究する日々が続いています。子育て期の対人関係を読み解き人と人のより良いつながりを追究流行の「2段階の流れ」モデル■にしむら・たかし 1998年広島大学総合科学部総合科学科生体行動科学コース卒。2003年同大学院生物圏科学研究科環境計画科学専攻博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員、東亜大学専任講師などを経て、2006年広島国際大学臨床心理学科講師。2016年同心理学科准教授。2020年から現職。専門社会調査士。博士(学術)。熊本県出身。商品を誰が作ったのかを示し他と区別できるものであるかを審査では見ます。「伝統的な柄であり既に多くの人が使っている市松模様は、独り占めさせていいのかという独占適応性の観点からもハードルは高そうです」と予想します。 尾茂准教授の主な研究テーマは各国の商標制度の比較です。日本の制度を企業にとってより使いやすいものとする提案も考えます。「例えば2014年まで日本では色そのものや音は商標として認められませんでしたが、世界の多くの国に合わせて商標法が改正されました。その改正にも審査官としてかかわりました」。審査では法律があっても判断が微妙な案件も多く、160人ほどいる特許庁の商標審査官が頭を悩ませると言います。制度と現実とのギャップに目を配り、日本だけでなく世界の流行にもアンテナを張る必要もあります。日本ではまだ知られていない海外で有名なブランドなどもできる限り調査することが求められるからです。侵害すると『10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金』などの刑事罰がある強力な権利です。「“知らなかったでは済まされない”権利のため、知財意識の低い企業が海外で痛い目に遭う事例も多い」と日本の課題を指摘します。ほとんどの国で先願主義が採用され“早い者勝ち”な面もあるため、中国で日本の商標を横取りしたような事例が注目されましたが、逆に海外で人気になった商品名が日本で商標登録されてしまい問題になったことも。「強力な権利だけに知財を武器に中小企業でも大企業と対等に戦うことが可能です」と話します。 学生らには産業界で不足する知財マインドを持った人材になってもらいたいと考えています。法律を使いこなすために常に勉強が求められる世界ですが、「身近でも分かっていなかった世の中のことを分析できる」知財の魅力を伝えようと日々の授業に工夫を凝らします。授業で市松模様の商標出願を題材に議論 主人公の竈門炭治郎が鬼に変貌した妹を人間に戻すために鬼狩りに身を投じるという漫画「鬼滅の刃」。そのアニメ映画の興行収入が歴代1位を記録し、漫画自体も累計発行部数1億5000万部を超える大ブームが続いています。今回はこの「鬼滅の刃」を手掛かりに3人の研究者を紹介します。:フォロワー:オピニオンリーダー情報源(マスメディアなど)JOSHO TOPICS大阪工大システムデザイン工学科4年の学生4人は、大阪商工会議所と産業技術総合研究所(産総研)の人工知能技術コンソーシアム(AITeC)の支援を受け、AI自販機を薬局として利用するビジネスアイデア「Reco!薬局」の試作機を6月から約4カ月間かけて開発。10月からは実証実験を開始し、2月にそのサービスデモ動画を公開しました。このアイデアは、学生らが昨年2月に開催された「AIビジネス創出アイデアコンテスト2020」で提案したもの。「AITeC会長賞」を受賞し、今年度のプロジェクト活動権を獲得しました。試作機は、産総研が開発したカメラ、マイク、タッチパネル、Bluetoothなどを搭載するAI自販機「Reco!」と、学生が作成したAI顔認証や薬剤師とのオンラインチャットが可能なアプリケーションを組み合わせることで、個人認証を経て、症状を薬剤師と相談しながら適切な一般医薬品を購入できるサービスを実装。「街のくすりばこ」としてセルフメディケーション社会の実現を目指します。今後は開発した試作機をもとに、ビジネス化につながるユースケースを検討していきます。コンテスト受賞提案を産官学連携で具体化 「Reco!薬局」試作機を開発しデモ動画公開梅田キャンパス1階ギャラリーに設置した「Reco!薬局」の試作機Reco!薬局試作機 デモ動画はこちらからhttps://vimeo.com/505118468/516cbbd32f自販機に搭載するアプリの調整を行う中野薫さん住環境デザイン学科の岩田三千子教授と研究室の学生7人が店舗デザインに協力したJA北河内二島支店(大阪府門真市)が2月にオープンしました。この取り組みは老朽化した同支店の建て替えに伴い、摂南大と包括連携協定を結ぶJA北河内から協力依頼があったことをきっかけに、色彩工学や照明工学などを専門とする岩田教授と学生らが2019年7月から建設プロジェクトに参加。JAや設計事務所と打ち合わせを重ね、学生が作成した模型などを用いながら店舗外観の色彩や内装デザイン、照明や家具の配置など多岐にわたる提案を行いました。同支店はJAバンクの先進的な店舗として位置付けられており、“花屋の中に金融機能を持つ支店”をコンセプトに、花の販売店やカフェスペースを設け、地元の幅広い年代層に愛される店舗を目指しています。プロジェクトに参加した社会開発工学専攻博士前期課程1年(当時同学科4年)の山口浩太郎さんは、「設計段階から竣工するまで会議に参加させていただき、非常に良い経験となりました。実際利用される方々の意見や感想もお聞きしたいです」と話しました。摂南大の岩田教授と学生らがJAバンクの店舗デザインに協力カフェを併設する店内花屋と一体となった店舗内山貴文さん(医療福祉学科3年)のビジネスアイデア「避難所運営と被災時トリアージシステムの運用アプリ」が、第27回ひろしまベンチャー助成金事業(学生枠 地域コミュニティ・その他分野)で「ひろしまヤングベンチャー賞(金賞)」、第24回 HiBiSインターネットビジネスフォーラム2020(学生の部)で「オーディエンス賞」「アイ・オー・データ賞」を受賞しました。内山さんは、自治体へのヒアリング結果から避難所に届いた物資や人員、避難する住民属性などは現場ごとにアナログで情報管理されている現状を把握。そこでアプリで情報を一元管理し、必要な資源を各避難所に最適配分できる「トリアージ(優先順位付け)システム」を考えました。アプリは無償で使用してもらい、得られたデータを防災関連企業に提供するビジネスアイデアです。「経営者の方々と本気でビジネスの議論ができた」と語る内山さん。「この経験で得た人脈を大切に、自分の力を発揮できる就職先を探したい」と意欲を燃やします。広島国際大 内山さんのビジネスアイデアが評価表彰状と目録を手にする内山さん16March, 2021 | No.92 | FLOW
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