常翔学園FLOW92号
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「キラリ*Josho note」page34は、「誰かのために」をモットーに医療ソーシャルワーカーの道を目指す広島国際大医療福祉学科3年の浅香弥音さんと障害と真剣に向き合いアンプティサッカーの日本代表にも選抜され活躍した摂南大薬学科3年の川西健太さんです。今回も常翔学園のキャンパスでキラリと輝く学生たちを紹介します。 小学校からサッカーを始めた川西さんが、悪性腫瘍「ユーイング肉腫」を発病したのは中学1年の秋でした。手術で右足を失い、あこがれだったプロサッカー選手への道を閉ざされた失意の川西さんを救ったのは、1年近い入院生活後に母の勧めで観戦したアンプティサッカーでした。「杖をつくサッカーなんて球転がし程度では」と軽く見ていたのに、目の前で繰り広げられたのは迫力に満ちたまさにサッカーそのものでした。すぐに「関西 セッチ エストレーラス」の練習に参加し、アンプティサッカーの魅力に目覚めていきました。チームは男女混合で、小学生から中年までさまざまな世代で構成されています。「性別や年齢の垣根を越えたチームで戦うのが楽しいです」と話します。2018年5月の全国大会「第5回レオピン杯」で得点王になったほか、同年10月に開催されたアンプティサッカーW杯では日本代表に選出されメキシコへ。大会では3ゴールを決めチームの得点王になるなど「点取り屋」として活躍し、日本代表を初のW杯トップ10入りに導きました。「日本に比べてアンプティサッカーの知名度があるメキシコで、初めて何千人という観客の中で戦えたことや、街中でも握手やサインを求められたのは貴重な経験でした」と振り返ります。現在、コロナ禍で試合の中止が相次ぐ中、次回のW杯でも日本代表入りを目指して努力を続けています。 川西さんが薬剤師を目指したのは、闘病中に抗がん剤治療で「髪の毛が抜けない薬があればなあ」と思ったことがきっかけでした。父が介護士、母が看護師という家庭環境も医療の道への思いを後押ししました。摂南大薬学科に進学後も、“文武両道”を歩んでいます。授業では「がんの薬の副作用による患者の苦しみなどは自分だからこそ理解できる」と実感することも多いと言います。「将来は病院薬剤師になって、さまざまなケースに対応できるようになりたいです。できればがんの専門薬剤師も目指します」と目標を掲げます。もちろん「社会人になっても選手として活躍したい」とアンプティサッカーへの思いは変わりません。病気を乗り越え、世代を超えた多くの仲間たちとともに夢に向かってフィールドを駆け回る川西さん。そのバイタリティにあふれた姿がキラリ光ります。●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●国際試合で日本代表としてプレーする川西さん(右から3人目)=本人提供14March, 2021 | No.92 | FLOWアンプティサッカー日本代表の得点王闘病経験を生かせる薬剤師を目指す摂南大学 薬学科3年川西 健太 さんかわにし・けんた肉が競技に有利に働く場合、また手の震えを抑えることが競技に有利に働く場合もあります。表は2020年の世界アンチ・ドーピング機構(WADA)禁止表です。 「蛋白同化薬」の蛋白同化男性化ステロイド薬(AAS)と「ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」の成長ホルモンは、筋力強化及び筋肉量の増加により運動能力向上の目的に使用されるもので、ドーピング違反事例で最も多い薬物です。次に「ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」の中で、有名なのはエリスロポエチン受容体作動薬と赤血球造血に影響を与える薬です。エリスロポエチン受容体作動薬は、血液中の酸素を体内で運搬する赤血球をより多く作り出す作用があり、持久力が必要な競技に使用されます。「ベータ遮断薬」は、1点集中が必要か、あるいは恐怖心を生じる特定競技で禁止される物質です。心拍数や血圧を下げ、心身の動揺を少なくする作用や手の震えを抑える作用などがあります。1点集中の競技とは、アーチェリー、ゴルフ、射撃などで、恐怖心を生じる競技とは、スキーのジャンプ、スノーボードなどです。 スポーツ界で「ステロイド」と言われているAAS(医療現場で使用される「ステロイド」は糖質コルチコイドで別物)は、肝臓がんなどの肝障害、脂質異常症、HDLコレステロール低下、血圧上昇などの心血管系の障害の危険があります。また男性では女性化乳房、無精子症、インポテンツ、女性では、多毛、声かすれがあります。他には、うつ病、自殺企図などの精神障害もあります。エリスロポエチン受容体作動薬は、健常者に投与すると、多血症による血栓塞栓症、血圧上昇が生じやすく、過敏症や肝機能障害なども引き起こします。不適切使用で競技者の死亡例も報告されています。― 血液ドーピングや遺伝子ドーピングにも対応できる体制はできているのでしょうか? 中原 血液ドーピング、遺伝子ドーピングもWADA禁止表にあります。2018年より遺伝子編集が追加されました。血液ドーピングに関しては、輸血による血液ドーピング対策のため、尿検査だけではなく、血液検査も行っています。遺伝子ドーピングの直接的な検出方法は確立していないので、現段階では遺伝子ドーピングの痕跡を発見するのは困難です。しかし、すべての検体(尿や血液)は最大10年間保管されます。科学技術の発展で、検出できていなかった禁止物質が将来検出できた場合、さかのぼって記録の失効、アンチ・ドーピング規則違反による制裁が課されます。近年のドーピング手法の巧妙さに対して、アスリート・バイオロジカル・パスポート(ABP)という従来と異なる検査も始まりました。ABPとは、競技者の血液を定期的に採取し、長期的な記録・モニタリングをして、不自然な変動がないか確認する方法です。漢方薬やのど飴も要注意 薬の服用記録を残す必要も― うっかりドーピングはどんなケースが多いのか具体的に教えてください。中原 うっかりドーピングのケースとしては、かかりつけの医師や医療従事者の意識の欠如によるものもあります。競技者が国体や国際大会に出場するような選手と知らず、治療のためにドーピング対象物質を処方する場合です。高血圧や気管支ぜんそくの治療薬に多いです。高血圧治療薬には、体内の余分な水分などを尿として排泄を促し(利尿作用)、血圧を改善する薬があります。最近では数種類の成分を合わせた配合剤もあり、注意が必要です。利尿作用がある薬は、直接運動能力が向上する作用はないものの、蛋白同化薬などを素早く体外へ排泄するといった「利尿薬および隠蔽薬」に該当します。気管支ぜんそくの薬には、飲み薬だけではなく、吸入剤や貼付剤があります。特に胸部、背部または上腕部に貼る「気管支を拡張させる薬」は気を付けなければいけません。練習時も使用が認められておらず、練習中の抜き打ち検査のときに検出される場合があります。 自分で購入できる総合感冒薬や海外製のサプリメントがうっかりドーピングとなるケースが多くあります。総合感冒薬に含まれるエフェドリン類が「興奮薬 b:特定物質である興奮薬」になります。服用する際は、必ず「アンチ・ドーピング使用可能薬リスト」で確認または専門家に相談することが必要です。その他、エフェドリン類は、漢方薬、のど飴にも含まれていることがあります。サプリメントに関しては、禁止物質の表示が漏れている商品があります。海外製やインターネット上で購入できるサプリメントは要注意です。― 市販薬やサプリメントでドーピングに引っかからないために選手へのアドバイスを。中原 まずは、かかりつけ医師に相談して禁止物質以外の医薬品を使用する治療方針を提案してもらうことです。どうしても治療のため、禁止物質を使用する必要がある場合は、治療使用特例(TUE)申請に協力してもらいましょう。自分が使用している薬の管理・記録をしっかり行うことも大切です。現在服用している薬に関して、専門家に相談して使用可能かどうか確認してください。次に、いつから、どれくらい服用したか、記録を残すことも必要です。製薬会社のミスで別の薬が混入している場合もありますので、念のため薬の製造番号の記録もお勧めです。家族などの支援者の協力、理解も必要です。禁止物質の入った栄養ドリンクの差し入れや薬・サプリメントの購入などのケースもあり得ます。毎年、「禁止表国際基準」は更新されます。指導者らも何が変更となったかスポーツ協会が主催する研修会などに参加し、勉強する必要があります。10March, 2021 | No.92 | FLOW入力結果大会開始12時間前~検体採取過程終了までの期間トレーニング期間中などの検査。抜き打ちの検査。検索したい医薬品の商品名または成分名を正しく入力。(一字一句)たんぱく『薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック2020年版』よりドーピング防止のためのカードゲームスマートフォンによる禁止薬物の検索サイトの使い方も啓発常に禁止される物質と方法(競技会(時)および競技会外)S0.S1.S2.S3.S4.S5.無承認物質蛋白同化薬ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質ベータ2作用薬ホルモン調節薬および代謝調節薬利尿薬および隠蔽薬競技会(時)に禁止される物質と方法WADA禁止表(2020年)[禁止物質]M1.M2.M3.血液および血液成分の操作化学的および物理的操作遺伝子および細胞ドーピング[禁止方法]S6.S7.S8.S9.興奮薬 a : 特定物質でない興奮薬     b : 特定物質である興奮薬麻薬カンナビノイド糖質コルチコイド[禁止物質]P1.ベータ遮断薬特定競技において禁止される物質

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