ニューウェーブ教育・研究スペイン風邪でも有効だった「麻黄+石膏」 新型コロナウイルスは世界で感染の再拡大が深刻で、日本も楽観できない状況が続いています。期待の持てるワクチン接種開始のニュースも伝えられていますが、安全性が確認されて世界中に行き渡るにはまだまだ時間がかかりそうです。こうしたコロナ治療のニュースで取り上げられるのはほぼ現代西洋医学ですが、コロナ感染が最初に広まった中国では、治療に漢方薬を取り入れた例も報告されています。内科医であると同時に漢方医学の専門医・指導医でもある広島国際大薬学科の中島正光教授は6月に学術誌「漢方の臨床」で、「新型コロナウイルス肺炎に対する漢方治療案」の論文を発表。1918年から1920年に起こったパンデミック「スペイン風邪」=*注1=に対して日本で大変有効だったとされる漢方治療をもとにした治療案を提案しています。太古から感染症治療に取り組んできた歴史がある漢方医学が、今回の新型コロナ治療でも有力な選択肢であることについて中島教授に聞きました。不快なコロナウイルス 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と同じコロナウイルスによる感染症「重症急性呼吸器症候群=SARS」が、2002年から2003年に中国から世界に広がりました。10%近い高い致死率(65歳以上は50%)で、私は呼吸器専門医、感染症専門医で、広島大学病院のSARS対策委員長をしていました。もし広島県で発症した場合には広島大学病院に搬送され、私が治療することになっていました。幸い疑い患者が搬送されたのみで、日本で発症者は出ませんでした。 今回の新型コロナウイルスはSARSほど致死率は高くなく、無症候性の感染者も多いですが、急速で強い肺の炎症を起こし、サイトカインストーム(免疫反応の暴走)、血管炎、血栓症を伴う重症肺炎を発症することがある不快なウイルスです。重症患者の多くは発症から短期間で急速に悪化します。決定的な治療法はいまだになく、肺炎を伴う重症例は致死的で、人工呼吸器やECMO(体外式模型人工肺)による治療が必要です。患者の胸部CT画像の特徴として8~9割にすりガラス陰影(GGO)が見られることが挙げられます。間質性肺炎に多く見られる特徴で、ウイルスにより肺内に免疫反応、炎症反応が起こっていると考えられます。そのため免疫抑制や炎症抑制に効果のあるデキサメタゾンなどのステロイド薬の投与が広く行われています。漢方医学の可能性 この新型コロナに対してもちろん漢方による治療も試みられ、中国では診療ガイドラインも出されています。漢方医学は中国が起源で2000年近い歴史がありますが、人類を繰り返し襲ったさまざまな感染症の治療がその大きな役割でした。その膨大な知見が積み重ねられ、感染症以外の一般の病気にも治療の幅を広げていったのです。そのため西洋薬で治らない疾患、症状が漢方で治療できる例もたくさんあるのです。実際、私が最近診た皮膚病(難治性の乾癬)の患者は、西洋薬で何十年も効果がなかったのに、処方した漢方薬の効果で2カ月で症状がほぼ消えました。このような漢方の有効例は頻繁に経験します。確かに感染性肺炎になると*注1【スペイン風邪】=1918年から1920年にかけ猛威を振るった全世界的に大流行したH1N1亜型インフルエンザ。第1次世界大戦でヨーロッパに渡った米軍兵士から世界に急速に流行しパンデミックには3回の感染拡大があり、第2波の被害が最も大きかった。全世界の3人に1人が感染し、死者は5000万人(日本では39万人)とも推定される。09FLOW | No.91 | January, 2021■ 肺のすりガラス陰影の病理組織=中島教授撮影GGO(すりガラス陰影)の病理組織像例肺胞壁など間質に炎症細胞浸潤が強い漢方薬で炎症を軽減なかじま・まさみつ ■山口県立中央病院(現:山口県立総合医療センター)病理部副部長、川崎医科大学呼吸器内科講師、米国テキサス大学感染症科、広島大学医学分子内科学(旧第2内科)講師などを経て、2005年広島国際大学保健医療学部教授。2017年から現職。博士(医学)。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、呼吸器内科専門医・指導医、感染症専門医、アメリカ胸部疾患学会フェロー、元病理専門医、その他アレルギー免疫、腫瘍の研究に従事。兵庫県出身。広島国際大学 薬学部 薬学科中島 正光 教授漢方医学と感染症との闘いは2000年の歴史その知見を新型コロナにかんせん
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