「キラリ*Josho note」page33は、大学でのリーダー経験を生かして頼られる医療人材を目指す広島国際大の加藤圭汰さんと、小惑星探査機「はやぶさ」に魅せられて以来の宇宙産業で働く夢を実現しようとしている大阪工大の北折伽苗さんです。今回も常翔学園のキャンパスでキラリと輝く学生たちを紹介します。 中学生のころから小惑星探査機「はやぶさ」に魅せられた北折さんは、「宇宙にかかわる仕事がしたい」という夢に大きく近づいています。航空宇宙分野の事業を手掛ける中菱エンジニアリング(名古屋市)に技術者として内定したのです。 「中学の理科の授業で見た『はやぶさ』が地球に帰還する映像とその物語のかっこよさにはまりました」と語ります。それを機に、はやぶさのプロジェクトマネージャだった宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川口淳一郎氏らの講演会に何度も参加する「はやぶさ女子」に。「次第に宇宙科学などの知識が身についていきました」と当時を振り返ります。高校生のころには、宇宙関連の仕事に就けたらいいなと意識し始めました。しかし、入学した大阪工大環境工学科で学ぶのは宇宙とは直接は縁がなさそうな分野でした。夢をあきらめかけた北折さんの転機となったのが、2年次の学科を問わず履修できるPBL科目「宇宙・地球・生命-探究演習」でした。「火星移住計画」をテーマに6人でチームを組み、「火星に先遣隊が到着してから10年、30人で火星で完全自給生活を行う」という課題に挑戦しました。「誰よりも宇宙に詳しい自信があった」北折さんですが、難しい課題に悪戦苦闘。なんとか書籍やインターネットを駆使して情報収集し、生きていくために最も重要な水の確保に焦点を絞り、国際宇宙ステーション(ISS)で実際に運用されている「水再生システム」の導入を提案。チームリーダーとして発表に漕ぎつけました。 この履修をきっかけに、学科では学べない宇宙工学に必要な流体力学や材料力学、工学系のシステム言語なども独学。時には所属する洋弓部にいる機械工学科や情報科学部などの友人に教えを請うこともありました。また、指導教員の松本政秀教授からは「環境工学科のカリキュラムにある数値解析などは宇宙関係にも生かせる」との貴重なアドバイスをもらいました。そうした努力と周囲の支援があっての内定でした。「将来はロケットエンジンの数値解析の仕事が希望です。一番大きな夢は自分がかかわったロケットの発射を見届けること」と話す北折さん。夢をあきらめず努力を続けた宇宙への思いがキラリ光っています。大阪工業大学 環境工学科4年北折 伽苗 さんきたおり・かなえ「はやぶさ女子」が夢へ一歩専門的知識を独学、航空宇宙業界へ神奈川県相模原市の「はやぶさ2」絵画コンテストでは宇宙科学研究所長賞を受賞「宇宙・地球・生命-探究演習」での1枚(後列右から6人目)14November, 2020 | No.90 | FLOW日本の観光はほとんどがマイクロツーリズムでしたが、新幹線、高速道路、格安航空(LCC)などの出現で遠隔地への観光が容易になり、マイクロツーリズムへの関心は概して低調でした。それが今、比較的安全な旅行として改めて見直されようとしています。過疎化で元気のない地方にとっても足元の魅力に気付き発信するチャンスにできます。 それを後押しするために国レベルでは国民の働き方改革を進め、有給休暇の消化をはじめとする休暇に対する意識改革が重要です。テレワークが広まり、月~金曜日に全員1カ所に出勤して仕事をするという文化が変わり始めています。平日に休みが取りやすくなると観光地の混雑が緩和し、宿泊費が安い平日なら長期滞在もしやすくなります。一方、自治体レベルでは、長期滞在に耐えうる観光コンテンツの整備が求められます。時間消費につながるテーマ性のある体験型のニューツーリズムです。 観光は波及する領域が広く、特にニューツーリズムにおいてその傾向は顕著です。国の観光振興策であるGoToキャンペーンで、早速観光客が戻り始めたことが示すように、コロナ禍でも根強い観光需要があるのも事実です。ただ、これはあくまでも一時的なカンフル剤です。長期的にはニューツーリズムのように付加価値の高い旅行を提案できる構造的な改革を進める必要があり、今がそのチャンスです。「ディズニーランドを貸し切りに」― もし延期された東京五輪が開催できるなら、単純にホテル需要は一気に回復しますか? 持永 五輪が開催されても需要の回復はゆっくりでしょう。インバウンドの4000万人という当初見込みは期待できず、経済効果も下方修正が必要です。そもそも規模が大きくなり過ぎたオリンピック自体が曲がり角にきていました。規模が大きくなればそれにまつわるリスクも大きくなり、1つの開催都市ではそのリスクを背負いきれません。平和の祭典という本来の理念に立ち返り、スポーツの本質を楽しむ大会に変わっていくのではないでしょうか。そして日本人がスポーツを共に楽しめる大会になれば、スポーツツーリズムの頂点としてのオリンピックの意味があります。スポーツツーリズムは各地で増えている市民マラソン大会が良い例で、スポーツに参加しながら地域でその大会を支える人たちと交流したり周辺の観光を楽しんだりするものです。 ホテルの実際に利用された客室1室あたりの平均単価である客室単価は、近年高くなり過ぎ、サラリーマンの出張旅費では賄えないレベルとなったりしていました。一種のオーバーツーリズムともいえる現象です。コロナ後、そこに単純に戻るとは考えにくいです。今後は低価格から超高価格までの宿泊バリエーションが増え、多極化が進むと思います。 以前、東京でホテルの総支配人をしていた時には、時々アラブの産油国の王族が泊まられることがありました。付き人も10人ほどいて、1フロア貸し切りで1泊500万円といった世界です。お金はいくらでも出すかわりに要望もけた外れで、「24時間レストランを開けていつでもすべてのメニューを提供できるように」というものから始まって、「東京ディズニーランドを明日貸し切りにしてくれ」というものまでありました。さすがにディズニーランド貸し切りは無理でしたが、「パリではできたよ」と言われました。世界にはこうした超富裕層が確実に存在し、そのどんな要望にも応えるホテルがあります。 日本は1万円払う人にも10万円払う人にも平等のサービスを提供する文化ですが、ホテルの生き残り策として今後は多様なニーズに柔軟に応えるサービスも増やしていく必要があるでしょう。もちろんその一方で、日本人が負担なく長期滞在を楽しめるサービスも用意し、多彩な宿泊環境を整備しなければいけません。―人口減少が続く中で、インバウンド頼みは変わりませんか?持永 一時的な不安定要素はありますが長期的には国境をまたぐ旅行者は増加し、インバウンド増加という大きな流れは変わらないでしょう。しかし、インバウンドの量を追うのではなく、外国人旅行者にお金をもっと使ってもらう仕組みを整えることがそれ以上に大事です。IR(カジノやホテルなどを組み合わせた統合型リゾート)などの議論もこれに沿ったものでしょう。訪日外国人旅行者数が44年ぶりに出国日本人数を上回ったのは2015年で、ずっと赤字だった国際収支の中の旅行収支(日本人旅行者の海外での消費を「支出」、訪日外国人の日本での消費を「収入」とし、収入から支出を引いたもの)が黒字になったのもほんの5年前の2015年でした。観光立国はまだ緒に就いたばかりで、これからはインバウンドも量から質への転換が求められています。地域の魅力の掘り起しで観光立国を― 最近、地域の観光振興を戦略的に推進するDMO(Destination Management Organization)という組織が注目されています。持永 大きな役割が期待できます。個性を打ち出せなければ老舗のホテルでも生き残れない時代です。創意工夫で独自性を出すためには、地域との連携が必要です。外国人は日本に来るだけでエキゾチシズムを感じられますが、日本人旅行者には通用せず、ローカリティ(地域性)の魅力をセールスポイントにする必要があります。そこでDMOが重要になるのです。既に全国に160以上のDMOができていますが、問題はその中身です。その名の通り、地域の魅力を掘り起し、積極的に売り込んで観光客を誘致する攻めの組織でなければいけません。海外では米国カリフォルニア州のナパ・バレーのDMOが特産品のワインを生かして、ワイナリー巡りや食をテーマにしたツーリズムで内外の富裕層観光客を呼び込むことに成功した例が有名ですが、そこは観光地経営の専門家の活躍の場でもあります。日本でも徐々にそのような動きが出てきていますが、観光のエキスパート人材を育成し、彼らが活躍するDMOを活用し、地方が主体的に動き始めれば観光立国の可能性がもっと広がります。30代でスイスのEcole Hoteliere de Lausanneに留学。クラスメートらと(中央)10November, 2020 | No.90 | FLOWエコツーリズム : 地域の自然・歴史・文化などの資源保護を体験し学ぶ旅行グリーンツーリズム : 地域に滞在しながら農業や漁業を体験し、地域の人々と交流するヘルスツーリズム : 温泉や自然で体を癒やし、その地域ならではの健康な食を味わう健康増進型の旅行カルチャーツーリズム : 文化財や伝統的な祭り、文化、芸能に触れ、体験する知的欲求を満たす旅行フードツーリズム : 郷土料理やB級グルメ、酒蔵巡りなど地域の食文化を楽しむ旅行■ニューツーリズムの例*観光庁資料より観光庁「旅行・観光消費動向調査」、「訪日外国人消費動向調査」より算出27.9兆円■ 2019年の国内旅行消費額 訪日外国人旅行4.8兆円(17.2%)日本人海外旅行(国内分)1.2兆円(4.3%)日本人国内日帰り旅行4.8兆円(17.1%)日本人国内宿泊旅行17.2兆円(61.4%)
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