常翔学園FLOW89号
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックでは東京五輪・パラリンピックが延期されただけでなく、地球上のあらゆるスポーツが停止しました。世界大戦の時にしかなかったような事態にアスリートたちは直面したのです。社会が危機を迎えることで、その文化の一つであるスポーツも危機を迎えています。近代スポーツの歴史は19世紀の英国に始まりますが、21世紀になりその近代合理主義の所産の近代スポーツに危機的なほころびも目立つようになっています。そこに感染症という危機も加わりました。スポーツが止まってしまった今だからこそ、これらの危機とスポーツ本来の価値について立ち止まって考えることは意味があることかもしれません。スポーツ社会学やスポーツ史の研究者で、今春広島国際大に誕生した健康スポーツ学部初代学部長の服部教授に聞きました。平和と安全があってこその文化─ 今回のコロナ禍でスポーツについて実感されたことは何ですか?服部 やはりスポーツのベースには安全な生活と社会が存在しなければならないということですね。コロナ禍によって、東京オリンピック・パラリンピックが来年に延期になり、全国高等学校野球選手権大会(甲子園)とその各都道府県地方大会は中止、プロ野球は開幕延期の上、当初は無観客での開催となりました。また、学校における運動部活動の停止、地域におけるスポーツジムやヨガ教室などの閉鎖など、日常生活の中でスポーツを「する」「観る」「支える」といった機会がすべて失われていきました。確かにスポーツの危機と言えます。スポーツはルール化することによって暴力的内容を排除し、ゲーム化していく中で勝敗を楽しむなど人類が育んできた遊び文化です。本来、スポーツを楽しむためには、スポーツの歴史やその文化的内容を理解することが重要ですし、スポーツを行う大前提として平和で安全な環境が必要であるということを理解しなければなりません。コロナ禍のこんな状況だからこそ、スポーツの価値を見直すのも意味のあることではと思います。─ もともとスポーツに特に求められ、期待されたものは何ですか?服部 スポーツが私たちの生活文化の一つに含まれることは今や自明のことで、音楽や美術などと同様に時代を通して文化を形作ってきました。しかし、音楽や美術をわざわざ音楽文化とか美術文化とは言わず、スポーツだけが「スポーツ文化」とか「文化としてのスポーツ」という言い方をします。また、学校では「運動部」と「文化部」、「運動会」と「文化祭」、行政機関でも「文化課」と「スポーツ課」などの分け方がされ、あたかも異なるカテゴリーとして分類・区別されています。これは人々がスポーツに音楽や美術とは違う何かを期待しているからでしょう。つまり、音楽や美術とは違うスポーツのポジティブなかかわり方(意味)の可能性を示唆しています。 英語の「sports」は、言語史的に言えばラテン語の「deportare」(デポルターレ)「de=away(離れる)」「portare=carry(運ぶ)」からきており、のちに中世フランス語の「desporter」になり、英語の「sports」となりました。この「deportare」には「あるものを一定の場所から別な場所に移動する」という意味があり、時代とともに移動の対象が「物」から「心」に代わっていったという背景があります。つまり、日々のもんもんとした気持ち、辛い、嫌な気持ちを別のところに移して心豊かにする、言い換えれば非日常的な空間で気晴らしをする、人生を楽しむ活動(遊び)をするという意味に至ったのです。このような言語史的意味合いからすれば、近代オリンピックでかつては芸術競技(絵画や彫刻など)があったりしたのもうなずけます。今人気のeスポーツがスポーツ大会の種目になるのもある意味で当然かもしれません。はっとり・こうじ ■1983年日本体育大学体育学部体育学科卒。1986年広島大学大学院学校教育研究科保健体育専攻修士課程修了。広島大学附属小学校兼任講師、同文部教官などを経て、1998年広島国際大学保健医療学部臨床工学科講師。2006年同助教授。2007年同准教授。2010年広島大学大学院総合科学研究科総合科学専攻博士課程修了。2013年広島国際大学保健医療学部医療技術学科准教授。2019年同教授。2020年から現職。博士(学術)。広島国際大学バドミントン部監督。広島県出身。服部 宏治 教授広島国際大学健康スポーツ学部 健康スポーツ学科新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデ東京五輪・パラリンピックが延期されただけでなく、地球はっとり・こうじ ■1983年日本体育大学体育学部体育学科卒。1986年広島大教育研究科保健体育専攻修士課程修了。広島大学附属小学校兼任講師、同文部教1998年広島国際大学保健医療学部臨床工学科講師。2006年同助教授。2007年同年広島大学大学院総合科学研究科総合科学専攻博士課程修了。2013年広島国学部医療技術学科准教授。2019年同教授。2020年から現職。博士(学術)。バドミントン部監督。広島県出身。 教授広島国際大学健康スポーツ学部 健康スポーツ学科スポーツ自粛の今こそ人生を楽しむ文化としてスポーツを見直す契機にこのこののこののののーコーナーナナナナ、は、、、200022020202東京オリンピック開催にちなんだT『eaeem常m翔』よよによる連るイイイ続イインタビュー企画です。このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。11FLOW | No.89 | August, 2020研究室にはバドミントンのガットを張り替える機具も

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