常翔学園FLOW89号
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10August, 2020 | No.89 | FLOW広島国際大学 健康科学部 心理学科首藤 祐介 講師 首藤講師はさまざまな精神疾患の心理療法の一つである認知行動療法の専門家です。10年近く精神科クリニックや総合病院で臨床心理士として多くの患者の治療に携わりました。認知行動療法とは、クライアント(患者)の行動や考え方(認知)の特徴やそのゆがみに気が付くことができるよう支援し、クライアント自らが問題を解決するように導く(コーチする)方法で、近年はその高い治療効果が世界的に認められています。例えば、ヒアリングによって悲観的な考え方を把握したり、1日の行動記録をつけてもらい、部屋にこもりがちな傾向等の問題を客観的に明らかにしたりして、トレーニングにつなげます。「私の治療は行動から入るやり方です。人は考え方を変えることには抵抗感がありますが、行動は変えやすいのです」。うつ病者が生活や睡眠の習慣を改めるだけでも考え方が前向きになる例もあると言います。 うつ病や強迫性障害、さまざまな依存症などあらゆる精神疾患のクライアントを診てきた首藤講師が研究の道に入ったのは、病気を治すことから更にその先の健康増進に認知行動療法の手法を役立てたいと考えたからです。「病気というマイナスを治療でゼロにしますが、更にプラスにしたいのです」。現在取り組んでいるテーマは「行動によって人の幸福感(well-being)をどうやって高めるか」です。自分の行動に価値や意味を見つける練習をすると精神的な健康が高まることが分かってきました。 そんな首藤講師が、テレワークやオンライン授業の広がりで起きている新たなストレスについて挙げるのが3つの対処法(コーピング)です。最初の2つはストレス理論によるもので、1つ目は知らなかったパソコンの技術を学ぶなどストレスの原因をなくす問題解決型対処法で、2つ目はストレスを発散させる情動焦点型の対処法です。3つ目は首藤講師の研究の立場から加えるもので、テレワークなどに伴う面倒な行動の意味や価値を前向きにとらえ直すことです。「面倒だけど『将来の自分のスキルにつながる』や『家族の大切さを知る機会になる』などに気付くことができます。行動の価値を見直すことがコロナ時代の新しい生き方の大きな原動力になるはずです」と指摘します。自分の行動の価値を見直すことがコロナ時代を幸福に生きる原動力にディスプレイは人間の周囲を大型の映像で覆う装置で、人があまり意識しない周辺視野を生かすことで高い臨場感や没入感が得られます。「テレワークでの会議やリモート授業も、よりリアルに出来るはずです」と話します。開発したシミュレータは、そんな球面ディスプレイの設計時や使用時に問題となる特殊なゆがみの補正が容易にできるものです。 橋本教授がVRの分野に関心を持ったのは筑波大の学生時代でした。「まだファミコンの時代で、VRという言葉自体もあまり知られていませんでした」と振り返ります。大学4年の時に、今も続く「大学対抗手作りバーチャルリアリティコンテスト」にチームリーダーとして出場し優勝。「危険なバンジージャンプを安全に体験できるシステム」というユニークなアイデアで、「VRにのめり込むきっかけでしたが、今はあんな自由な発想は出来ませんよ」と笑います。 「人間がコンピュータとやり取りする場合は一部の視覚ばかりに頼り、人間のさまざまな感覚が100%活用されていません」と話す橋本教授は、力覚や触覚の活用の研究も。遠隔地の物体や触れると危険な物体を扱う時に効果が期待できます。ロボットアームを通じて物体を持ち上げたり押したりする感覚を得られる装置や振動モーターを活用して物の表面をなぞった時の、つるつる、ざらざらなどの感覚を再現する装置などの開発も行っています。また、歩きスマホの危険を回避できるような視線誘導の研究は始まったばかりです。 「VR技術はまだまだゲームなどのアミューズメントの分野での活用がメインです。これからは医療や教育・訓練などでも活用の場面がどんどん広がるはずです」と予測。コンピュータの情報をもっと豊かに伝えようと奮闘が続きます。学生時代に考案したバンジージャンプを疑似体験できるシステムを紹介した日本経済新聞北山祭でも披露した装置を試すゼミの学生と自らのストレス発散法は「寝ることですかね」と話す首藤講師■しゅどう・ゆうすけ 2004年中京大学心理学部心理学科卒。2006年同大学院心理学研究科臨床・発達心理学専攻修士課程修了。2011年同博士課程単位取得退学。臨床心理士として10年近く愛知県内各地の病院に勤務後、中京大学心理学部助教などを経て、2017年広島国際大学心理学部心理学科講師。2020年から現職。博士(心理学)。愛知県出身。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、私たちの生活や働き方にも大きな変化をもたらしました。その変化の中でも最も大きなものが、職場のテレワークや学校のオンライン授業です。今回はこのテーマにもつながる研究をしている3人の研究者を紹介します。

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